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第六十話 眠れない夜

今週もよろしくお願いします。

 その夜、俺は眠れなかった。


“ もしも、佐伯課長が言ったように、樫山専務が俺の両親や梨奈を次の標的として選んだら……”

と思うと、居ても立ってもいられない気分になり、落ち着いて眠るなどとてもできなかった。




話を聞いた両親や梨奈は、相当な衝撃を受けるに違いない。


それでも、俺が誠心誠意せいしんせいい話をすれば、父は状況を正しく理解しようと努め俺を見捨てるような真似はしないだろう。


だが、梨奈は……


“自分の知らないところで、俺の子かもしれない子供が生まれようとしていると知ったら……”




俺の身体に柔らかな温もりを伝え、俺の腕の中で穏やかな寝息を立てて眠る梨奈がどれ程の苦しみを味わうことになるのかと考えていると、知らず知らずのうちに梨奈を抱く腕に力がこもった。


「……ん……」


急にきつく抱き締められた梨奈は、身じろぎをして俺から離れようとした。


俺は梨奈が離れて行かないよう、抱き留めたままなだめるように梨奈の背中に手のひらを当て、ゆっくりと上下に動かした。


梨奈は、すぐにまた穏やかは寝息を立て始めた。


俺は梨奈が寝入ったのを確かめ、梨奈の身体を緩く抱き込めて全身で梨奈を感じながら、今のこの幸せが自分の手から零れ落ちないように、樫山専務の企みをなんとしても阻止しなくてはと、決意を新たにした。




だが、一晩中考えても、そのための名案が何も思い付かなかった。




 翌日、一晩考えて自分だけの力ではどうにもならないと悟った俺は、達樹に朝一番で連絡を入れた。


その日の夜、俺は達樹の家にいた。


美咲に妊娠していることを告げられた後、訪ねて来た時と同じように、和室で達樹だけでなく達雄先生も一緒に前回と同じ席に座り、座卓の上にビールの入ったグラスを並べて三人で座卓を囲んだ。




「それで、急いで相談したいことって何だ」


三人が席に落ち着いた頃合ころあいを見計らい、達樹が早速に口火を切った。


できるだけ早く時間を作ってほしいと、朝の電話で頼んでいた俺に応えた形で話を振ってきた達樹に、気持ちがいていた俺は、時間を無駄にはできないと何かに突き動かされるように用件を話し始めた。




「昨日の夜、俺の上司の佐伯課長に誘われて一緒に飲んだんだ。その時……」


俺は昨夜の『白樺』での出来事を話し、次の標的に俺の両親か梨奈が選ばれるかも知れないと告げた。


「樫山専務から責任を取ってお嬢さんの美咲さんと結婚するように迫られ、きっぱり断ったと達樹から聞いていたんだが……」


「断ったから、尚哉の上司をかつぎ出してきたんだろう」




 料亭『水鏡』で、樫山専務と美咲を相手に結婚の話を断った翌日、俺は達樹に事の顛末てんまつを報告していた。そのことを聞いてきた達雄先生に達樹が応じた。


「その佐伯課長という人物は樫山専務の腹心の部下なのかね」


「いいえ。佐伯課長は支社から本社に移って来た人で、これまでに樫山専務と関わることはなかったはずです」


達雄先生から樫山専務と佐伯課長の関係を問われ、深い関係はないと応えると、達雄先生と達樹はそれぞれに何か考え込み口をつぐんでしまった


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