第五十話 選択肢
この回からは、尚哉の視点になります。
「なぜ呼ばれたのか、理由は言わなくても分かっているね」
「生憎と、私には心当たりがないのですが……」
俺と梨奈の記念日だった十二月二十五日の翌日の今日、俺は出社して間もなく、樫山専務から呼び出しを受けた。
樫山専務の問い掛けに心当たりはないと応えたが、実際には、呼び出しを受けた瞬間からその理由には思い当たっていた。
樫山専務の家では、毎年十二月二十五日にクリスマスパーティを開いて主だった親族が集まり、一年の労を労いながら親交を深めているということは以前から聞いて知っていた。
今年はそのクリスマスパーティに美咲のパートナーとして、俺も出席するようにと樫山専務から言われていた。
だが、俺にはそのクリスマスパーティに出席する気はさらさらなく、俺は元々あった予定を多少の無理をして日にちをずらし、二泊三日の予定で二十三日から沖縄地方に出張し、物理的にも出席できない状況を作っていた。
しかし、出張の予定が入っていると伝えても樫山専務はクリスマスパーティを欠席することを認めず、遅くなっても構わないから顔だけでも出すようにと厳しく言われていた。
そして、クリスマスパーティの当日の昨日は、まだ出張先にいた昼過ぎから、しつこいくらいに美咲からの電話が入っていた。
俺は美咲からの電話を無視し続け、夜の八時過ぎに戻って来た後は、戻ったその足で会社へ立ち寄り、今日の仕事の段取りを付けてその後、マンション『ベルフラワー』へと向かった。
「昨日のパーティへ出席することの重要性は、君も理解していたのではないのかね」
樫山専務に対して反発するような俺の受け答えに、樫山専務は語気を強めて不快感を顕にした。
確かに昨日のクリスマスパーティに出席する行為には重要な意味が含まれていた。
美咲のパートナーとしてクリスマスパーティに出席するということは、俺が美咲との結婚を受け入れ、美咲の子供の父親は自分だと公言するも同じことだった。
俺はそのことが分かっていたため、こちらにいたままでは樫山専務があの手この手を使い、クリスマスパーティへの出席を拒めないように雁字搦めにされかねないと考え、遠く離れた地へ行くことにした。
その理由として、樫山専務が専務という立場上、予定の変更を強制できないように出張へ行くことにしたのだった。
専務室で樫山専務と対峙していた俺は、この場でそのことを正直に告げて樫山専務の怒りを煽り揉めたのでは、周りに美咲との問題が知れ渡り、自分が窮地に立たされることになると判断し、できるだけ落ち着いて見えように感情を押し殺して当たり障りのない返事を返した。
「昨日は、仕事で沖縄方面にいて、帰って来た時間も遅かったものですから」
「遅くなっても構わないと言っておいたはずだ。それを君が勝手な行動をとったがために、美咲は一人で周りの好奇の目に曝されることになったのだぞ。春には子供が生まれるというのに、君は父親としての責任を軽く考えているのではないだろうね」
美咲は、俺が達雄先生や達樹の助言を受けてきっぱりと拒否する意思表示をしたにも拘わらず、子供を産まない選択肢を放棄した。
今の美咲は洋服を着た上からでも、傍目に妊婦だと分かる体形になっていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回のお話で、無事に五十話を迎えることできました。
とても嬉しく思い、これも読んでいただいている方々のお蔭だと感謝しています。
今週は、明日もう一日投稿する予定ですので、お付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




