第四十話 卑劣な罠
今週もよろしくお願いします。
「にわかには、信じがたい話だな」
話し終えた俺のグラスにビールを注ぎながら達樹が言った言葉に
“やはり、信じてはもらえないのか……”
と不安が沸き起こり、無意識のうちに言葉を並べていた。
「そうかもしれないが、全部、本当にあったことなんだ。信じてくれないか」
俺は何一つ隠すことなく全てを話した。叶うことなら記憶から削除して何もなかったことにし、誰にも知られないように隠蔽してしまいたかった、美咲が俺にもたらした八月十四日の夜の出来事もそのまま話した。
口にするのもおぞましく感じたほどだったが、美咲があの時のことを根拠に俺を子供の父親だと名指ししている以上、あれは俺が望んだものではなく一方的な行為で、避けることも不可能だったと分かってもらうためには正直に話すほかなかった。
「落ち着けよ。誰も信じないとは言ってないだろう。生まれた時から女にもてていたようなお前が、気楽な学生の時でも手を出さなかった高飛車な女に、大事な梨奈さんがいる今になって手を出すとは思っちゃいないさ」
達樹がいつもの口調で俺を宥めるように話し掛け、その時になって俺は自分でも気付かないうちに、剣呑な雰囲気を漂わせてしまっていたことに気が付いた。
美咲と会ってから腹の中に苛立ちが溜まり続けていた。俺は気を紛らわせようと目の前に置かれたグラスに手を伸ばし、呷るようにグラスの中のビールを一気に飲み干した。
「どうやらお前は、まんまと嵌められたようだな」
達樹が、缶ビールを俺に差し向けながら静かに語り始めた。俺は黙って空になったグラスを差し出し話の続きを待った。
「おそらく。樫山専務の娘がお前との既成事実を作った時には、腹の中に他の男との間にできた子供がいたんだろうな」
俺のグラスにビールに注ぎながら、達樹が話した内容に俺の胸がざわついた。
「なぜ、そう思う」
達樹からビールの入った缶を受け取り、達樹のグラスに注ぎ足しながら俺は逸る気持ちを静めるように問い返した。
「やり方が強引過ぎるだろう。幾ら男慣れしていると言っても、相手は大学を出たばかりのお嬢様だ。相当な覚悟がなければできないことなんじゃないか」
「行動を起こした時期を考えても、その可能性は高いと言えるんじゃないか」
達樹がビールを一口含んで喉を潤した後、推論を口にするとそれを後押しするように達雄先生が言葉を付け足した。それに頷くと、達樹はさらに続けた。
「その日行動に移さなければ、海外に行く予定になっていたお前とは、しばらく会えなくなってしまう。その間もお腹の子供は育つ。帰って来るのを待って行動したのでは、計算が合わなくなってしまうだろうからな」
達樹の言葉に俺は光明を見た気がした。だが、次に続けられて言葉で灯った明かりが消されてしまった。
「それでも、お前の子である可能性は否定できないがな」




