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第三十六話 後悔

今週もよろしくお願いします。


この回からは尚哉の視点になります。

十二月二十五日二十三時三十五分。


梨奈はどうしているだろう。俺が帰ると信じて、待っているのだろうか。


それとも、諦めて待つことを止めてしまっていたら……




 道路を挟んだ道端に立って、マンション『ベルフラワー』の建物を見上げる。


俺と梨奈が暮らす七階の角部屋の窓から明かりが漏れていた。




“あそこに、梨奈がいる”


そう思った途端、俺の心が梨奈の下へ飛んで行ってしまった。


だが、足は一歩も踏み出せなかった。




今、梨奈に会ったら、俺は美咲のいるマンション『イリス』へは戻れなくなる。


それが分かっているからこそ、その場から動けなかった。




 スーツの上着のポケットに手を入れて、綺麗に包装された小箱を取り出した。


中にはお客の希望を取り入れたデザインのアクセサリーを、職人が一点一点手作りしてくれることで人気のジュエリーショップで、梨奈のために用意した指輪が収められていた。




 本来の予定では、お盆休みの旅行で梨奈と結婚について話し合うつもりだった。


だが、直前に起こった出来事は、災難という言葉で片付けてしまうにはあまりにも衝撃的すぎて、心の動揺を梨奈に悟られないように振舞うだけで精一杯だった。




 美咲のクラス会があった日、美咲を置き去りにして部屋を出た後、そこが美咲を迎えに来たホテルの客室の一室だったと知った俺は、ふらふらになりながらも何とか自分の車を運転して『ベルフラワー』の自宅へと辿り着いた。




自宅の玄関で靴を脱ぎ、まっすぐに浴室へ向かった。


まだ残る眠気を払い、はっきりしない頭を鮮明にさせるため水のコックをひねりシャワーを頭から浴びた。




しばらくそのままでいると、徐々にぼんやりしていた思考が明瞭になり、自分の身に何が起こったのか正確に把握することができた。


だが、現実にあったことだとは、とても信じられなかった。


しかし、身体に残る美咲の感触が、あれは夢でも幻でもなく実際にあった事なのだと訴えていた。




まるで体中を這い回るようなその感触の気持ち悪さに耐えられず、俺は記憶と共に消し去ろうと狂ったように全身を洗い続けた。


腕がだるく持ち上げることが困難になるほど何度も何度もこすったが、記憶にり込まれたものまでは洗い流すことができなかった。




 何もなかったことにはできないのだと認めるしかなかった俺は、込み上げる怒りを抑え記憶をさかのぼった。そして、気が付いた。




美咲は初めから、今夜、俺との既成事実を作るつもりで準備を済ませて俺を待ち構えていたのだ。


事前にホテルの部屋を用意した上で、俺を酔い潰すことが無理なら眠らせる計画を立て、睡眠を誘発する薬剤を持って来ていたのだろう。


そんなこととは露知らず、美咲に誘われたバーで席を空け、美咲に対して俺は隙を作ってしまっていた。


だが、大企業の重役のお嬢様があんな行動に出ると、誰が予測できただろう。




 樫山専務から発せられた『業務命令』の言葉に反発を覚えながらも従い、美咲を迎えに行ってしまった自分の行動をどんなに悔やんでみても悔やみきれるものではなかった。


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


今日で8月も終わりですね。

投稿を始めてから、あっという間に2ヶ月が過ぎましたが、とても充実した楽しい時間を過ごすことができました。本当にありがとうございます。


今週は後3日残っていますが、これからも楽しんで読んでいただけるように頑張るつもりですので、よろしくお願いします。

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