第二十七話 出張
七月も後半に入った金曜日の朝。
梨奈に見送られていつものように出勤しその日の仕事の準備をしていると、佐伯課長からプレゼンの用意をするように言われた。
佐伯課長は地元の大学を卒業後、東海地方の支社に入社し、そこでの実力を買われて本社の課長に抜擢された人物で、大学に在学中は四年間、空手サークルで過ごしていたらしく年齢は三十代後半のはずだったが、外見は実年齢よりも落ち着いて見えた。
その佐伯課長が担当していた案件が遅々として話が先に進まず、プロジェクトチームの一員である俺に相談を持ち掛けてきたことから佐伯課長と組んで事に当たっていた。
九州地方に本社のある取引先の決定権を持つ重役が、話を聞く用意があると担当者から伝えられたということで佐伯課長と俺は急いで出掛ける準備を整えていた。
総務部へ乗り物と宿泊先の手配を頼んでいると、樫山専務から呼び出しが掛かった。
俺は嫌な予感がしたが、出掛けるまでそれほど余裕がなかったためすぐに専務室へ向かった。
中へ入ると、樫山専務と美咲が向かい合って応接セットに座っていた。
樫山専務が長椅子に座っていた美咲の隣に座るように勧めてきたが、のんびりしていられる状況でもなかったことから、俺は樫山専務の勧めを断り応接セットの脇に立っていた。
「どうだね、新井君。今日の美咲は、一段と綺麗だとは思わないかね」
樫山専務に言われて美咲に目をやると、美咲は襟刳りが大きく開き、スカートの丈が短く、身体のラインが分かるワンピースにシースルーの上掛けを羽織り、何かを期待するように顔を輝かせて俺を見ていた。
しかし、俺には樫山専務の意図するところが分からず、どう返事をするべきかと迷っていると樫山専務が話を続けた。
「若い時は誰でも判断を誤るものだ。君の相手の女性について調べさせてもらったが、君の相手としては全然物足りない。その点、美咲なら……」
「申し訳ありませんが、これから出張に出掛ける予定になっておりまして、時間ですので失礼させていただきます」
俺はそうすることが当然だという態度で、梨奈について調べたと言った樫山専務に嫌悪感を覚え、出張を理由に樫山専務の話を遮り部屋を出ようとした。
「待ちたまえ。今日の君の予定に、出張も急ぎの案件もなかったはずだ」
俺の対応に口調を強め、暗に俺の予定は把握済みだと告げてきた樫山専務に対し、俺は軽く頭を下げ視線を合わさないまま退出するための言葉を紡いだ。
「今朝ほど、先方から連絡が入り、今日はこれから佐伯課長と共に九州地方へ出張することになっておりますので、失礼致します」
ここまで読んでいただき、また、新たにブックマーク登録をしてくれた方がいたようで、ありがとうございます。
とても嬉しく思っています。
今週はここまでになりますが、来週も楽しんでもらえるように頑張るつもりですので、よろしくお願いします。




