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第二十八話 結婚相手

今週もよろしくお願いします。

 樫山専務の許可も得ず逃げるように専務室から出た俺は、足早にエレベーターの前まで移動すると、そこで立て続けに深呼吸をした。




『梨奈は、俺の相手として全然物足りない』




樫山専務が梨奈のことをどこまで調べたのか俺には知るよしもなかったが、俺が梨奈の存在を明かしたのは美咲との結婚の意思がないことを伝えるためだった。


それが、梨奈に対する駄目出しに変わってしまうなど夢にも思わなかった。


俺の中でそれまで抱いていた樫山専務についての印象が変わり、誤魔化しようのない負の感情が芽生えていた。




 しかし、これから大事なプレゼンが待っていたため、個人的な感情に流されてミスを冒すことは許されず、俺は深呼吸を繰り返して気持ちを切り替えた。




 その日の夜、確かな手応えを感じた佐伯課長と俺は、お互いの労をねぎらうため前祝の祝杯を挙げた。


その後、宿泊先のホテルの部屋で一人になった俺の頭の中に、その瞬間を待ちわびていたかのように樫山専務が言い放った梨奈に対する評価の台詞せりふが浮かんだ。


俺は出張から戻ったら、もう一度はっきりと美咲とは結婚するつもりがないことを、樫山専務に伝えなければと決心を新たにした。




 だが、なかなかその機会に恵まれず、お盆休みに入る直前に行われたプロジェクトチームの会議が終わった後、樫山専務の方から声を掛けられた俺は誘われるままに専務室について行った。




 専務室の中に入ると樫山専務はデスクに着き、俺がその前に立ったのを確認して口を開いた。


「八月十四日に、都内のホテルで美咲の高校時代の同窓会が行われる。美咲も出席する予定だ。終了時刻は二十一時となっているから、遅れずに迎えに行ってくれ」


「申し訳ありませんが、以前にもお話した通り、私には決まった相手がおります。ですから、そのお話はお断りさせていただきます」


俺は樫山専務の要望に、今度こそ梨奈の存在を認めさせ、美咲との結婚は諦めてもらうつもりできっぱりと断った。




「私は、何も今すぐ、君に相手の女性と手を切れと言うつもりはないんだ。そこまで狭量きょうりょうではないからね。美咲との結婚式までにかたをつけてくれれば、結婚前の女遊びには目をつむろう」


「私は、彼女と別れるつもりはありません」


「それは、美咲と結婚した後も付き合いは続けるという宣言かね」


「私には、美咲さんと結婚する意思はないということです」




なぜ、俺の言葉は樫山専務に届かないのかと苛立たしく思いながら、俺は美咲とは結婚しないと言い切った。


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