第二百十七話 繰り返す夢
この回は、梨奈の視点となります。
私は、夢を見ていた。
初めは、左の手首から発するズキズキとした痛みが体中を走り、寝付いてもすぐに意識を引き戻され浅い眠りを繰り返していた。
時間の経過と共に痛みが薄れていくと、少しずつ眠りも深まっていった。
けれど、それは同時に私の中の恐怖心を引き出し、深く寝入ってしまえば二度と目覚めることができなくなるのではないかと恐れを抱かせた。
眠りたくないのに誰とも知れない大きな手に意識を捕らえられ、引き摺られるように眠りの中に落ちていく自分が心許なく、必死で手を伸ばし助けを求める言葉を叫んでいた。
だけど、その言葉は私の耳には聞こえなかった。
音のない動画を見ているように、何の音も聞こえず一生懸命に何かを叫び続けている自分の姿が見えるだけだった。
やがて意識が途絶え、再び意識を取り戻した時、自分の生がまだ終わっていないことにホッと息を吐いた。
何度も何度も繰り返す恐怖に慄く私の心が、聞こえないはずの私の言葉を拾う。
『……なおや……。私を見付けて……。……私を、ここから連れ出して……。なおや……』
これは夢なのだと分かっていながら、尚哉に会いたいのに会えない寂しさが私の心と身体を冷え込ませる。
身体の熱が逃げていくことで恐怖が増し、涙が溢れた。
夢から覚めることも逃げ出すこともできず、心が疲れ果て生に対する執着が縮んでいく。
何もかもが、どうでもいいことのように思え、意識が眠りの闇に溶け込み散り散りに解れ出そうとした瞬間、それを押し留める声が響き渡った。
『ママーッ』
ハッとして意識を集中し、注意深く辺りを見回すと愛しい人の言葉が降り注いだ。
『梨奈。戻って来い。俺を一人にするな』
そして、その声を追い掛けるように、色のない世界に光が射し込む。
優しい光が徐々に私の身体を包み込み、私は穏やかな眠りについた。
それから、私はまた夢を見た。
生まれたばかりの赤ちゃんを腕に抱き、難しい顔をして赤ちゃんを見つめていた尚哉に『どうしたの』と問い掛ける。
「何でこいつは、俺にこんなに似ているんだ。自分で自分を抱いているみたいで、複雑な気持ちになる」
思わず笑ってしまった私は、幸せな思いで深い眠りに落ちた。
そして、また夢を見る。
「パパだぞ。パパ。ほら、言ってみろ」
床にぺたんとお尻を着け、脚を投げ出して座っている少し成長した赤ちゃんの前に、尚哉が胡坐をかいて座り真剣な顔をして『パパだ』と繰り返す。
小首を傾げてじっと尚哉の顔を見ていた赤ちゃんが、次の瞬間、満面の笑顔を浮かべ尚哉に向かって両手を差し出し『パッ、パッ』と口にした。
「お前なぁ……」
と呆れ混じりの口調とは裏腹に、破顔した尚哉が赤ちゃんを抱き上げた。
“戻らなくては……”
と尚哉の居る場所へ戻りたいと願う、強い思いが沸き上がった。




