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第二百十四話 経過報告

「これまでの経過についてですが、今日の昼頃、診察をした香田医師によると傷口も綺麗なままで『悪くない』とのことでした」


梨奈の負った怪我は大丈夫そうだと知り、詰めていた息を吐き出しかけていた俺は『ただ』と続けられた井川医師の言葉に息を止めた。




「昨夜も話に出ていたのですが、軽いリハビリは必要となりそうだということでした」


「それは、どのようなものなのでしょうか」


「明日、香田医師による回診があると思いますので、詳しいことはその時に説明があるはずです。お聞きになりたいことがあれば、その時に尋ねてみてはどうでしょうか」


リハビリが必要だと言った井川医師に、固い表情で問い掛けた梨奈の父親は井川医師の応えに『分かりました』と応じた。




「それと、渋谷梨奈さんの現在の容態についてなのですが……」


それまで纏っていた雰囲気を引き締めて紡がれた井川医師の言葉に、俺の隣に座っている梨奈の母親の身体に力が入ったのが分かった。




「今朝方、流産の兆候ともとれる少量の出血が見られましたが……」


井川医師の口から飛び出した『流産の兆候』という言葉に、俺の胸は一気に締め付けられ、速くなった心臓の鼓動が音量を上げて耳に打ち付けていた。




「すぐ出血が止まり、心配していた事態に陥ることもなく、現在は落ち着いた状態を保っています」


梨奈は『落ち着いている』と聞かされ、梨奈の父親が安堵の息を吐き出したのが伝わってきたが、無意識のうちにきつく握り締められていた俺の手の平を濡らす汗は止まらなかった。




「それでは、娘はもう大丈夫なのでしょうか」


「私としても、できるだけ早く大丈夫だと言える状態まで持っていきたいと考えているところなのですが、梨奈さんが受けた衝撃が完全に鎮まるまでは危険が伴うものと判断しています」




梨奈の父親の問い掛けに、まだ危険な状態は続くのだという俺たちの期待に反する答えが返され、膝の上で握り込まれた俺の両手の平は中でぐっしょり濡れ、息苦しさを覚えるほどに胸の締め付けが強まった。




「ですが、最も危険な状態は乗り越えることができましたので、これからは精神的なケアも視野に入れ、病室へ移すことにしました。そこでお身内の方々と過ごされることで気持ちが休まり、精神的にも安定した状態に持っていければと考えています」


病室へ移すことについての井川医師の説明に、梨奈の母親が力強く頷いていた。




「それで、病室へ移すにしても今も話した通り、梨奈さんには何よりも安静が求められます。そこで、周りに気を使わずに休めるように個室を利用することになりますが、ご了承下さい」


梨奈に必要だというのであれば、梨奈の両親にも俺にも異論はなく、梨奈の父親が俺たちを代表して了承の返事をした。


俺は梨奈の父親の返事を聞きながら、梨奈の受けた衝撃はどれ程のものだったのだろうかと思いを馳せ、胸の底から込み上げてくる痛みを堪えていた。


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