5.世の為人の為
火炎師の見た目は粗悪だった。
ボサボサの髪を肩まで伸ばし、服は上下黒のジャージ、靴は夏用のサンダルで一見した見た目で社会的な日常を過ごしていない事は明らかだった。
『俺はなぁ!
この生きにいくい世の中を変える為に
この力を授かったんだ』
そう言うと、男は両の手をブラブラとしながら語ってきた。
『これは運命だ。
分かるか?俺は運命つまりディスティニーを重んじる。
で、俺がお前に会ったのも運命ってことさ!』
そう言うと男は少しずつ歩いて近づいてきた。
理解は出来ないが彼が友好的では無い事は明らかだ。
リュウイチはいつでも逃げれるよう臨戦態勢を整えながら彼に問いかけた。
「お前のその思考は間違っている。
その力を世の為人の為に使う事は出来ないのか?」
その瞬間男は歩みを止めた。
そして、ゆっくりと目の焦点をリュウイチに合わせるとハッキリとこう言った。
『俺が世の為、人の為に暴れ回ってあげてる事が分からないのか?』
男は心底つまらなそうな表情をするとそう告げた。
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ミツボシカナエは小さい頃、男の子と気が合った。
おままごとやお喋りをしているより、ヒーローや忍者のごっこ遊びが好きだった。
母は良く
『カナちゃんはお人形とかお花には興味は無いの?』
と尋ねてきたが、カナエにはどちらもあまり魅力的には思えなかった。
要因は主に二つあり、
一つは3つ上の兄の影響だ。
兄はカナエからすると憧れの存在で兄にはスポーツの才があった。その兄がヒーロー物のアニメやゲームを好んでいたので、カナエも兄を真似するように好むようになった。
二つ目は父の存在だ。
父は消防士であり、
幼いながらに父が人命を救助する仕事をしていることをカナエは誇りに思っていたし周りの子供もそれを羨んでくれた。
そんな父と兄の存在がカナエの中の"大切"を型どって行った。
そんなカナエの誇りである父が仕事から帰らなくなったのはカナエがまだ8歳の時だった。
カナエにはハッキリと伝えられなかったが、深夜にすすり泣く母とそれを支える兄を見て幼いながらにカナエは何が起きたのかうっすらと理解していた...。
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『...ナエさん......カナエさん!!聞こえてますか!?』
手元にある備え付けの無線から聞こえる若い青年のハツラツとした声でカナエは途切れていた集中を戻した。
「聞こえてるわ...ごめんなさい、
少し小さい頃のお父さんの事を思い出してて...」
『そっか、カナエさんのパパは消防士でしたよね
優秀なパパの為にも、もうひとふんばりッスよ!』
ミツボシカナエは荒れた町で車を運転しながら、もう一度彼からの説明を促した。
『カナエさんには西区で暴れ回ってる火炎師の鎮静化を担当して貰うッス
20代後半の男性で黒いジャージを着てるのが外見的特徴ッス!
ここまでは大丈夫ッスか?』
青年は軽い口調で必要最低限の情報をツラツラと頭にスッと入る声と滑舌で説明してくれる。
「えぇ、問題ないと思う」
『火炎師は避難した住民の空き巣に放火を続けているッス
放っておいても人命的な被害は出ないッスけど、』
青年はそこまで言うと一泊おいてこう言った。
『火炎師の暴走によって避難した人々は今みんなで協力して動いて、
一刻も早い治安回復を願ってるッス』
『そんな彼らの帰る場所を破壊する今回の男は許せないと思うんスよ』
青年は普段の明るさを敢えて殺して、丁寧にそう言葉を紡いだ。
「そうね、これ以上無法者の好きにさせるわけにはいかないわ」
彼女はそう言うと無線を切った。
目的地まで残り1km程の地点での話だった。
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リュウイチは火炎師に目の前にして、これから起こるであろう戦闘に思考を巡らせていた。
まずは、火炎師に気付かれないよう左手から体の前身を覆うように風を出した。
こうすることで、ある程度の相手の火炎攻撃は身体を直接燃やす事は無くなる算段だ。
火炎師は少し『ピクッ』と反応したが歩みを止める事は無かった。
『ボフッ』
火炎師は両手を低い位置で空へ向けるとリュウイチに見せつけるように掌から炎を出した。
『下手なことするなよ、
大人しくしていれば一瞬で消し炭になれるさ、
神に愛されなかった可哀想なお前を俺が火葬してやるよ』
そう言うとゆっくりと両手をリュウイチに向けた
『グッパイ、憐れな無能力者!』
その瞬間リュウイチの視界のほとんどが炎で埋め尽くされた。
「なんとか大丈夫だったな」
事前に準備していた左手の風魔法のお陰でなんとか窮地を脱した、いや、延長したリュウイチは今度は右手を火炎師に向け丁寧にイメージした。
『アッヒャッヒャッヒャッヒャッ』
炎の奥で聞こえる笑い声はリュウイチには聞こえていない。
イメージは4tトラックそれを吹き飛ばす突風だ。
3.2.1
『ドォゴォォォン!!』
目の前で聞いたこと無いほど鈍い音で発射された突風はリュウイチの目の前に拡がっていた炎の壁に大きな穴を空け、吹き進むとケラケラと笑う火炎師を数十メートル離れた瓦礫まで吹き飛ばした。
体をコの字にして吹き飛んだ火炎師はカラカラお音を立て崩れる瓦礫の中でピクリとも動かなくなった。
「......やり過ぎたか?」
あまりもの光景に呆気にとられていると奥から一台の車が向かって来るのが見えた。
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