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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第88話 弁護人に異議あり!

 召喚状によれば、裁判の日取りは三日後の夜。真実を照らし出すとされる新月の晩に行われる。

 こちらに時間を与えるとはずいぶんと暢気だとはおもったが、こればかりは神明法廷側の意向と思われる。

 

 原作でもそうだったが、あの法廷の法官たちは公正さのみを重んじる。

 いくら告発の内容が異端と背信という最も重いとされる罪のうち二つとはいえ被告側にも準備をする時間があってしかるべきと判断したのだろう。


 原作の裁判イベントでもこの公正さにはやきもきさせられたものだ。どう考えても聖女側の無実は明らかなのに、いちいち相手側の無理筋な主張にもとり合うんだからな。


 しかし、今回の場合は、この決定には助けられた。

 フレキセン一派が裁判に訴えてくること事態は予想していたが、翌日すぐ開廷なんてことになっていたらさすがに準備が間に合わなかった。


 三日もあれば時間は十分。裏工作も含めて必要なものは揃えられる。


 オレが裁判に勝つのに必要なのは、相手の告発が虚偽であることを反証するための証拠と証言だ。


  やっていないことを証明するのはやったということを証明するよりもはるかに面倒かつ、難しい。いわゆる悪魔の証明というやつだ。

 それに比べて相手の主張の矛盾を突いて、揚げ足を取り、裁判官を丸め込むのはそう難しくない。むしろ、得意分野といってもいいだろう。


 問題があるとすれば、赫奕剣騎士団内に潜む裏切者の存在。

 だが、それに対してもすべきことをした。心配はない。


 そういうわけで三日が経ち、裁判当日だ。

 あれこれと準備をしていたらあっという間に時が過ぎていた。


 というか、振り返ってみれば一番苦労したのはこの裁判をジークリンデに納得させることだったかもしれない。

 何と慈悲深いことだ。記録には残せないが、オレが例え大逆罪に問われても決して罪などないとそう言ってくださったことはオレの記憶に永遠に刻まれた。これが色あせることは決してない。


「さすがに緊張してそうじゃない?」


「まあな」


 帝都中枢部、神明法廷の控えの間。

 公正さを貴ぶ法廷らしい無機質な部屋にいるのはオレとオレの『弁護人』であるローレルのみだ。


 この場所に立ち入ることが許されるのは原告とその弁護人のみ。例えジークリンデ、皇族といえども立ち入ることは許されない。


 裁判開始まではあと10分ほど。

 今日にいたるまでできるかぎりの準備をしてきたが、結局どうなるかはその時になってみるまでは分からない。


 戦の時と同じだ。

 少しずつ心拍数が上がっていき、興奮に脳内物質が過剰分泌され、呼吸が浅くなる。

 

 この感覚は、悪くない。

 こういう性分だから辺境の凶戦士呼ばわりされるのだろう。


 でも、こういう場面でこの感性は役に立つ。

 ジークリンデのためになるのならいくらでも手を汚すとも。


「なんだ、捨て鉢になっているかと思ったけど、どちらかといえばやる気満々なわけ」


「裁判とはいえ敵を叩きのめす機会だからな。血は騒ぐ」


 オレの言葉にローレルは『これだから貴族は』と応じる。

 彼女のような魔導士にしてみればオレもフレキセン家の貴族共もそう違いはないのだろう。


 実際そうだ。

 オレもフレキセン家の連中も権力闘争に血道を挙げている。そのためには人を脅し、人を騙し、人を殺すことさえ躊躇わない。


 同じ人でなしだ。

 違いがあるとすれば、忠誠心の有無。まあ、オレにしてみればその一点がなによりも大事なわけだが。


「…………本当に、アタシでいいわけ?」


 ローレルが今さらそんなことを聞いてくる。

 引き受けたくせして未だに迷いがあるらしい。まあ、気持ちはわからんでもないが。


 神明裁判において原告には一人だけ己で選んだ弁護人を立てる権利がある。

 その弁護人に、オレはローレルを選んだ。


「君しかいない。そう判断したからこうして託した」


 どうしてそうしたかを改めて口に出す。

 法廷が開くまではあと数分。最後の思考の整理にはちょうどいい。


「…………まあ、でしょうね」


「だろう? ほかのみんなは戦や政治なら頼りになるが、こういう場ではどうにもな」


 本人たちが聞いたらだいぶ詰められるだろうが、事実は事実だ。

 

 例えば何でもできそうなメロディだ。

 彼女は基本的に何でもできるが、オレに関することでは理性がなくなりがちだ。


 なので、裁判でオレが責められるような事態に遭遇すれば裁判そのものをぶち壊しにしかねない。

 裁判に勝つのにその激情は不要だ。


 似たような理由で、ほかの面子も不適格。

 トモエやリーヴァではそれこそ裁判は裁判でも決闘裁判の様相を呈しかねないだろう。


 「その点、君は論理的な思考に長けている。魔導士の性《サガ》と言ってもいいだろう」


「優秀な魔導士の性よ。まあ、論理的なのは否定しないけど」


 オレの言葉がプライドを刺激したのか、少しらしさを取り戻すローレル。

 

 ローレルは魔導士としての技量に矜持を持っている。だから、普段は素性を隠していても己の技を披露できる機会は逃したくないと感じているのだ。

 こういう部分は扱いやすくて助かる。これから配下として活躍してもらっていくにあたっても、相手の勘所を抑えておくのは大事なことだ。


「それに、君は他の面子と比べて仕えるようになってからも日が浅い。その点も今回は有利に働く」


「……言ってることがもっともらしく感じられやすいってわけね。論理が呆れた話ね。結局は印象操作じゃない」


「一事が万事そういうものさ。人はいつでも証言の内容よりも、誰がそれを言ったかを重視する」

 

 特に明文化よりも慣習法よりな帝国の法律においては判決を決める第一の要素は裁判官の心象。そして、神明法廷の者たちは高精彩を旨としている。

 この点においてもトモエやメロディのようなオレにべったりな弁護人を連れてくるよりもローレルのような少しオレと離れた関係性の人間を弁護人に立てたほうが印象はいい。

  

 そういう意味でも、ローレル以外の適任者はいない。


「だから、オレは君を選んだ。君が優秀な魔導士で、優秀な文官だからだ。何か異論があるか?」


「……ない。けど……」


「君が心配していることならわかる。だが、問題はない。事前に打ち合わせた通りだ」


 ローレルは大仕事を前にナイーブになっている。

 聡明な彼女なら作戦通りに事を進めれば勝訴できることは論理では理解できているはず。なのに、こうも弱気なのは精神的要因だ。


 何かを不安に思っている。ああいや、分かったぞ。先の話を彼女は気にしているのか。


「その、本当に、責任とってくれるんでしょ?」


「もちろんだ。君の身はオレの名誉にかけて守る」


「…………本当の本当に?」


 しつこいほどの確認も彼女の身の上を思えば当然のこと。

 魔導士であることが明るみに出ればもはや一人では生きていけない。権力者の庇護と後援がなければ早晩死に至る。


 つまり、ローレルの言葉通り、オレには責任がある。

 騎士として、貴族として、彼女の命と運命への責任が。


 であれば、騎士として最大限のことはせねばなるまい。


「騎士として誓いを立てよう。君の見てきたほかの騎士たちがどうかは知らないが、オレは一度立てた誓いは必ず果たす」


「……わかった。お願い」 


 ローレルに請われて、オレはその場に膝を突き、頭の中に口上を思い浮かべる。

 誓いを立てるのはこれで二度目だ。無論、ジークリンデに対して立てたものがものこそがオレの第一ではあるが、そのために働いてくれるものを無碍にすることは決してない。


「君が第一皇統派に、ジークリンデ様に仕える限り、我が盾は君を守護し、あらゆる迫害の手を退けると誓おう」


「…………アンタを信じる。魔女の言葉は重いんだから、後悔させないで」


 オレの差し出した手を、ローレルが取る。

 

 これで契約は成立だ。

 ある種の主従関係。オレは彼女を守護し、彼女はジークリンデのために尽くす、とここに定まった。


 優秀な魔導士にして文官を迎えることができた。これだけでも今回の騒動を乗り切った甲斐があったというものだ。


 あとは悠々とこれから行われる裁判に勝利するのみ。

 さあ、気張って出陣するとしよう。


◇


 ジークリンデの日記より引用


 明日はとうとうキリアンの裁判だ。

 もうわたしでもこれを止めることはできない。キリアンを信じて見守ることしかできない。そのことが悔しくて、悔しくて、悔しくてどうにかなってしまいそうだ。


 心配も、している。でも、もし裁判で負けたとしても判決を覆すためならわたしは力を尽くせるし、最悪の場合、裁判所を占拠して(検閲済み)してしまえばいい。


 でも、裁判の間はわたしはキリアンの力になれない。

 誰かが彼を弁護するならわたししかいないのに、ダメだと言われてしまった。


 理屈は分かる。

 これはあくまで臣下同士の争いであり、主君であるわたしがどちらかに加担することは政治的な意味合いをさらに複雑にしてしまうし、万が一負けてしまったら取り返しがつかない。


 それに、裁判官の心象もよくない。

 キリアンにかけられた君側の奸という汚名を強めてしまいかねないから。


 でも、それでも、わたしはキリアンを守り、彼がいかに素晴らしい騎士であり、男性であるかを主張したかった。この胸の内をすべてさらけ出してしまいたかった。


 許されることではない。皇女として、また皇帝の座を目指すものとして、個人の恋にすべてを捧げてしまおうとするなんて愚かなことだ。


 ここは、あのローレルに託すしかない。

 キリアンが信任したのならわたしもまた信任する。それがキリアンにとっての一番の援護となると信じるがゆえに。


 そうだ。ブリュンヒルデの呪いもあのローレルが解呪してくれた。

 彼女には能力があるし、信頼に値する、と思う。それに、ほかの女性と違ってキリアンになにか思い違いをするようなことも、ない、と思う、たぶん。


 キリアンも罪作りだ。もっと自分の優秀さと魅力を自覚してもらわないと困る。

 うん、今度彼本人にそう言って聞かせよう。わたしは口下手だから詩にしたためるのがいい。添削はエイラに頼もう、そうしよう。


 しかし、考えれば考えるほどキリアンとブリュンヒルデの命を狙ったフレキセンの者どもは許せない。

 裁判が結審したのちには、彼らにはありとあらゆる責め苦を味わせて(以下検閲済み)


(今回の文章の公開にあたっては宮内省からの要請による文章の検閲が行われました。しかしながら、慈悲深きオルトリンデ殿下のご寛恕により検閲は必要最低限度のものとなりました。改めて殿下のお計らいに感謝が尽きません。帝国万歳)

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