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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第62話 後始末は入念に 

 戦においては前準備と同じか、それ以上に後始末は大事かつ厄介だ。

 特に相手を始末しきったのならまだしも、相手に生き残りがいる場合はより慎重に事後処理をする必要がある。


 ましてや、今回の相手はただの敵ではなく大陸全体に根を張る一大宗教勢力である『教会』。勝ちに乗じて締め付けすぎれば手痛い反撃を喰らいかねないし、逆に手を緩めてしまえばこちらをなめ腐ってまたもや蠢動を許してしまう。


 一方で、戦いに参加してくれた騎士たちや協力者たちにも、相応の褒美や旨味がなければ不安が出る。


 重んじすぎてもいけないし、軽んじすぎてもいけない。

 結局のところ、何事においてもバランスを取らねばならないというのは地位と権力を持つ者の宿痾であり、こればかりは例え皇帝になったとしても変わらないものだ。


 まあ、それでも今回は大分こちらにとってかなり優位に話を進められた。

 すべては槍の冠とあの『自律天使』の残骸を回収できたおかげだ。


 普段は方便で人を扇動している司祭共だが、オレがあの『自律天使』の頭部を突きつけると顔を引きつらせていた。ざまあみろ、というやつだ。

 予想した通り、『自律天使』を使役していたという事実は教会にとって相当に都合が悪い。なにせ魔導士を異端としているくせにその魔導士の技術の結晶を頼りにしていたんだ。これを公表されてしまえば教会の権威はがた落ち、帝都だけではなく大陸全体にまで影響は及ぶ。


 そのため教会は槍の冠の強奪と宰相殺害未遂に関しては全面的に罪を認めた。対外的には一部の司祭と信徒の暴走によるものという言い訳こそ許すことになったが、彼らはこの事件により帝都に置ける権益の大半を失うことになった。


 オレとしては事実を喧伝して教会との全面抗争も悪くないと思ってはいるんだが、現時点では予後がよろしくない。

 第三皇統派に仕掛けなかったのと同じだ。現状、1つの勢力を潰すのに全力を投じてしまえば、その隙をほかの勢力に突かれる。今は相手の基盤を削りつつ、こちらの足場を固めるべき時だ。そのためには多少の妥協も必要だ。


 といっても、今回の『槍の冠強奪事件』で第一皇統派の得られたものは大きい。なにせ、帝都の一区画をまるまる、それも交通の要所である『東第三区画』を手中を収めることになったんだからな。


 ほかにも隣接する河川の管理権や区画内での商人への徴税権等々の付属品もあるが、区画の行政権はやはり大きい。なにせ、区画内での一切に関して独裁権を持つわけだからな。


 帝都は広い上に、人口も多い。そのため帝城や宰相府が一元管理するのではなく東西それぞれに合計九つの区画を設け、それぞれを任命された貴族や皇族が管轄するという形で統治してきた。

 その九つの区画の内、約100年ほど前に教会に寄進という形で譲られたのが『東第三区画』であり、今回の騒動に際して返還されたというわけだ。


 一区画とはいえ大陸有数の人口密集地であり経済圏でもある帝の一区画だ。その行政権を握るということは広大な領地を得るにも等しく、経済規模で言えば小国のそれと比較してもそん色ないほどだ。


 問題は第一皇統派の得たその区画の管理を誰が行うかなのだが――、


「――では、シグヴァルト卿。貴方をわたしの代理政務官に、任命します」


 オレということになってしまった。

 ……そう告げてくるジークリンデの口角が四ミリほど上がっていることは非常に喜ばしいのだが、正直懸念点もいくつかある。


 しかしながら、ほかに選択肢がないことも事実。ジークリンデのためならば犬馬の労もいとわず、だ。


 槍の冠強奪事件から一月ののち、ジークリンデの執務室でのことだ。昼間だというのに窓から吹き込む風の冷たさが冬の訪れを感じさせた。


「謹んで拝命いたします。微力ながらジークリンデ様の御ため、御身に成り代わり民を安んじ、栄華を齎すことをここに誓約いたします」


 執務室の床に膝をつき、臣下としての礼を取る。

 ジークリンデの用意してくれた治療体制もあってけがは完全には回復している。


 すでに仕事に復帰して三週間と少し。ようやくひと段落着いて、正式に東第三区画の代理政務官に任命されたのが今日だった。


 出世ではあるし、ジークリンデのためにより大きな権力を振るえるようになったのは喜ばしいことだ。

 でも、やはり、心配事はつきないものだ。


「……なにか、あるのですか?」


 そんなオレの内心をジークリンデは見事に言い当ててしまう。

 表情に出さないように気を付けていたつもりだったのだが、さすがはジークリンデだ。


「少しばかり懸念点があります」


 ジークリンデに嘘はつけない。というよりは本心で道理を説いた方が彼女は理解してくれる。

 英明な君主とはそういうものだ。臣下の言葉が耳障りな時こそ必要なことを述べているのだと理解しておられるのだ。


 実際、ジークリンデは深く頷き、オレに続きを話すように促していた。


「現状、自分に権限が集中しすぎています。赫奕剣騎士団の副団長と政務官を兼ねるとなると、自分に何かあった時が気がかりなのです」


 オレに権限が集中しているということはオレが行動不能になると組織全体が機能不全を起こすということだ。

 確かにトップダウンで物事を決められるのは楽でいいが、オレ一人にすべてが掛かっているというのはやはり組織としては不健全だ。


「……そのようなことは言わないでください」


 だが、オレが最大の懸念を口にするとジークリンデはシュンとなってしまう。

 どうやらオレが怪我したり、病気になったり、あるいは死んだりするのを想像してしまったらしい。


 前回の事件でオレが負傷して以来、毎度こんな感じだ。心配してくれるのはありがたいのだが、正直心が痛い。オレなんか駒の一つとしていつでも使い捨ててくれてもいいのに……、


「……自分が死ぬときはジークリンデ様が死をお許しになるその時のみです。それまでは槍で貫かれようが、炎で焼かれようが、岩で潰されようが、あるいは、首を刎ねられようが立ち上がってみせますとも」


 だから、安心させるためになら歯の浮くようなセリフも口にする。いつまでも騎士ムーブは慣れないが、この際、そこら辺は言いっこなしだ。

 ちなみに、今並べた死因はすべて原作のキリアンが経験したものだ。原作のゲスはそれで死んでいたが、オレは首だけになっても戦う所存だ。あれだ、怨念で動いてジークリンデの敵の喉笛を噛みちぎるくらいはオレならできるだろ。ほら、忠誠心に溢れているし。


「……でしたら、貴方は永遠に死ねませんね」


 ジークリンデが言った。 

 なんて、なんてきれいな笑顔だ。いつもより1センチほど上がった口角なんて永久保存版では? というか、この笑顔だけで世界平和が実現するのでは? いや、実現させる。これで平和な気持ちにならないやつは人間じゃないからな、粛清してやる。


 と、いかん。嬉しすぎてトリップするところだった。


「光栄の至りです。ですが、自分も人間なので風邪などひくかもしれません。なので、少し権限を分散しておく必要があるかと」


 話題を戻して、提案を行う。

 オレの状態はさておいて、第一皇統派を組織として健全化しておく必要はある。この先オレが帝都を離れざるをえない状況があるかもしれないしな。その時に代わって権限を行使する人材と体制を整えるのはオレの義務でもある。


「……例えば、誰ですか?」


「ラインゴッズ卿とコドール卿を考えています。ラインゴッズ卿を副団長補佐ということにして、コドール卿を政務官補佐に、というのはどうでしょう」

 

「…………ラインゴッズ卿ですか」


 きわめて順当かつ、前回の事件の功にも報いる人事案だと思ったのだが、ジークリンデが難色を示す。

 ラインゴッズ卿、ということはメロヴィくんあらためメロディについては賛成できないと思っているようだ。


 ……ふーむ? オレが怪我した時に取り乱していたのを気にしているのか?


「なにか、ご懸念でも?」


「…………いえ、そういうわけではありません」


「ふむ。確かに先の事件では動揺を見せましたが、経験を積めばそれも克服できるかと思います。そのためにも機会を与えるべきかと」


「………………そうですね。貴方に任せます」


 それでも少し不安そうなジークリンデ。

 彼女の懸念も理解できるが、メロディ以上の人材となるとそうはいない。ここは任せて成長を期待するのが一番だとオレは思う。


 ……しかし、人材不足の感は否めないか。定期的に募集を掛けているし、常にアンテナは張っているが、やはり時期的な問題は大きい。原作でもこの時期はあまり人材が集まらない時期だしな……、


 いや、ないものねだりをしても仕方ない。今はあるだけの人材で最善を尽くすのみだ。


「自分の政務官就任に関してですが、あとは、ありていに申し上げれば、やっかみを買うかと」


「…………そのようなものがいるのですか」


 ジークリンデのまなじりがほんのゼロコンマ数ミリだけ上がる。

 オレの出世にぶつくさ言う何者かを想像して、怒りを向けておられるのだ。


 なんて思いやりの深いお方なのだろう。臣下であるオレの境遇まで深く憂慮してくださるとは……!


 だが、事実として出る杭は打たれるということわざはこの世界でも通用する。


「先の権限の集中もそうですが、自分はジークリンデ様より格別のご恩情をいただいております。それを面白く思わないお歴々がいらっしゃるのは確かかと思います」


「…………愚かな」


 ジークリンデの声には心底忌々し気な響きがある。彼女の脳裏に第一皇統派の貴族の内の誰が浮かんでいるかは予想がつくが、みだりをそれを口にするのはいろいろとよろしくない。先入観を持つべきではないしな。


 しかし、それはおいておいても、オレが第一皇統派で権限を握ることで自分たちの地位が脅かされるのではないかと考えるものが出てきてもおかしくはないのは事実だ。

 そういう輩は夏場の虫と同じで必ずどこかからか湧くもので、根絶はできない。であれば、害がないように飼いならす必要がある。


 幸いこの世界では重鎮であるドルウェナ辺境伯の信任を得られているが、他にも重鎮はいるし、そこら辺に好かれていると思えるほどオレは行儀がよろしくない。


 いや、オレが嫌われるのは別にどうでもいいんだが、ここまで立場が上がるとオレに対するヘイトはジークリンデへの実害に繋がりかねない。買わずに済む恨みは買わないに越したことはないだろう。


「ですので、ジークリンデ様の御名で書状を出すというのはどうでしょうか。東三区で得られた利益は第一皇統派全体に還元されるゆえこぞって参画されたし、とこんな感じで」


 ジークリンデが嫌がるのは分かっているのであえて砕けた口調でそう提案する。

 書状にしたためたところで形式的なものでしかないので信用されるかどうかは相手次第ではあるが、しないよりはいい。オレへのヘイトコントロールになるし、ジークリンデの名望も得られるしな。


「…………わかりました。貴方のために」


「ありがとうございます、ジークリンデ様」


 臣下として、そして恐れながらジークリンデの望む友人として礼を述べる。


 ……これで一応、政務官就任に関わる懸念点には対処できた。ここまでやってもそのうち何か問題が噴き出すだろうが、アドリブにも慣れてきた。開き直りではなくその都度対処するほかないだろう。


 ジークリンデのためだ。気合を入れろよ、オレ。


「…………キリアン。仮に、誰が敵になっても、わたしはあなたの味方です」


「っ! はいっ! このキリアン・シグヴァルト、今のお言葉、とこしえに魂に刻みます!」


 そんなオレにジークリンデは報いてくれる。思わず拝跪した膝は感動に震えていた。


 臣下として口にするのは憚れるが、オレもジークリンデとまったく同じ気持ちだ。

 彼女のためならオレは世界のすべてを敵にしても戦い続ける。忠誠とはそういうものであり、オレはそのためにこの世界に転生したんだからな。


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