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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第50話 反撃開始

 オレが目を覚ますと、リーヴァは先に目を覚ましてオレの顔をジーっとのぞき込んでいた。


 その真剣な表情と瞳の中のギラギラとした光に食事をお預けにされた肉食獣めいたものを感じつつも、オレはゆっくりと体を起こした。


 すると、応接机の上にはすでに淹れたてのハーブ茶が用意されている。一体、どうやってリーヴァがこれを用意したのかさっぱり分からないままオレは眠気覚ましのお茶を口にした。


 芳醇な香りがかすかな眠気を吹き飛ばす。

 夢さえ見ないまとまった睡眠のおかげで脳味噌はすっきりしていた。


 外では雨が降っている。何とはなしに不吉さを思い起こさせるが、なんのことはないと深呼吸と共に予感を吐き出した。


「よし。動くぞ。付いてこい、リーヴァ」


「はい。キリアン様」


 そのままリーヴァを引き連れて執務室を出る。

 すると、ちょうど扉の前にコドール卿が立っていた。


「おっと、取り込み中でしたか。こいつは失礼」


「…………そういうんじゃないですよ」


 コドール卿が何を勘違いしているのかは明らかなのでちゃんと否定しておく。

 背後で「ぽっ」とか頬を染めているリーヴァに関してはあとで叱っておく。


 オレはあくまで良質な睡眠のためにリーヴァの膝を借りただけだ。

 おかげで実際に絶好調だ。これもすべては第一皇統派の危機を乗り切るため、ひいてはジークリンデのため。やましいところなど何一つとしてない。でも、吹聴するのやめてほしい。いろいろと困るから。


「何か状況に変化がありましたか?」


「いえ。少なくとも宰相殿が亡くなったり、別の容疑者を確保したような気配はないですね」


「……そうですか」


 状況は動かず、か。

 バルドを帝城から運び出したのが功を奏したか? 第三皇統派あちらとしてはどうにか第一皇統派うちか、第二皇統派の責任にしたいんだろうが、ちょうどいい容疑者が見つかっていないのだろう。


 ……動くべきだな、できるだけ早く。


「それより、こいつです。お手紙が二通届いてます。と言っても両方ともいつの間にか門に挟まってたんですがね」


「ありがとうございます」


 情報源からの報告だ。事前に使いを出しておいたのが、届いたのだ。


 封を破り、両方にすぐさま目を通す。

 片方は帝都の裏社会、つまり、娼館や密輸人、その他犯罪組織に通じた人物からのもの。もう片方は帝都内の馬車の動きを把握している馬丁ばていからのものだ。


 両方ともオレが学生のころからの付き合いで、信用できる情報源だ。

 その2人からの報告は――、


「――もぐりの医者や魔導士に動きはなし。怪我人を運び出すような馬車の動きもなし。『凶風』はまだ帝都にいるようですね」


「……となると、『槍の冠』も帝都にあるということになりますね」


 コドール卿と共に二つの情報源の『特段の動きはなし』という報告からそう結論を導き出す。

 本来ならば帝都が封鎖されているとしても暗殺集団でもある『凶風』ならば脱出は容易い。


 だが、彼らには血の誓いがあり、負傷者を見捨てられない。さすがの彼らも怪我人を抱えたまま無茶はすまいと考え、裏街道で怪我の治療を受けられそうな場所を片端から探らせていたが、当てが外れたか……、


 一方で、帝都から脱出もしていない。

 馬車にも裏街道にも動きがない、という報告がその推測を裏付けている。集団が動くときにはそれなりの痕跡が残るものだ。


「リーヴァ。帝城の正門、右側の城壁だ。そこから入れ。おそらく暗殺犯も同じ経路を使ったはず。脱出の時も同じ経路がいいだろう。『客人』のこともあるからな。だが、無茶はするな。無理だと判断したらいったん戻れ」


「おまかせを」


 命を受けると、リーヴァは即座に動き出す。目にもとまらぬ身のこなしで駐屯地の外へと駆けて行った。


 どうやらあいつも絶好調だ。膝枕の副次効果だな。帝城内に入ったら必ず欲しい情報と客人を連れて来てくれるだろう。


 …………できれば、宰相グスタブ卿には生きていてもらった方がいい。彼が自分を襲い、『槍の冠』を強奪した集団について証言してくれれば第一皇統派には有利になる、はずだ。


「――副団長! 副団長、どこですか!?」


 血相を変えた騎士団員が駆け込んできたのはその時だった。

 あきらかに只事じゃない。もしや襲撃か!?


「こ、ここにいらっしゃいましたか!」


「何事だ! 敵襲か!?」


「い、いえ、ですが、地下牢に御急ぎを! このままではトモエ教官が囚人を殺しかねません!」


 襲撃以上にやばい事態だった。


 現在、駐屯所の地下牢に拘禁されている囚人はただ一人。ヨルドバーン公爵令息イーライ・ヴェル・ヨルドバーンのみだ。

 こいつの罪状はオレことキリアン・シグヴァルトの暗殺未遂の黒幕。それを知ってトモエがどう反応するかくらい予想しておくべきだった。


 ちなみに、実行犯であるところのブラン卿に関しては牢屋ではなく別室に軟禁してある。

 これもまた離間の計の一種だ。例え罪人であってもやむを得ない事情があるのであれば第一皇統派は温情を持って取り扱うとなれば、今、イーライに無理やり協力させられている者たちもこちらに降伏しやすい。


 しかし、今、イーライを殺すのはまずい。罰するにしても一応正当な手続きを踏んでから出ないとむしろこちらが謀殺したのだと難癖を付けられかねないぞ。


「誰が止めている! メロヴィくんはどうした!」


「ラインゴッズ卿は仮眠中です! 地下牢には今10人ほどが!」


 廊下を走り、階段を駆け下りる。どうにか間に合うと信じたいが、正直言って望み薄だ。


「トモエ教官! どうかお鎮まりを!」


「な、なんて力だ! もっと人を呼んで来い!」


「ふんばれー! ここでお止しないと副団長までお怒りになるぞ!」


「ひっ!? は、はやく、この蛮人をわ、私から遠ざけろ! わ、私は公爵令息だぞ!」


「煽るんじゃねえよ! このバカ! 誰かアイツ黙らせろ! そっちの方が早いぞ!」


 地下牢の扉を開くと喧騒が聞こえてくる。

 その内容から察するにまだイーライの息の根は止まっていないらしい。助かった。


「ふ、副団長だ! よかった、副団長が来たぞ!」


「副団長! トモエ殿を止めてください! お早く! もうもちません!」


 視界に入れてようやく何が起きているのか理解する。


 金砕棒を振りかぶったトモエの右腕を赫奕剣騎士団の騎士たちが10人がかりでなんとか止めている。

 さながら人間の鎖だ。それでもじりじりと引きずられているのはトモエの怪力に驚嘆するほかないが。


 トモエは昨夜の蒼いドレスからいつもの着物姿に戻っている。無表情で騎士たちを引きずるその姿はさながら暴走機関車のようだった。


 一休みにして着替えを済ませたら、オレがイーライを拘束したことを思い出して制裁を加えることにしたってところか。

 困ったな、このままイーライがミンチ肉になるのを見てみたい気もするぞ。


 しかし、オレには立場があり、ここで卑劣漢と臆病者の合い挽き肉を作るのはジークリンデのためにはならない。ここは涙を呑んで止めねば。


「ダメだぞ、トモエ。今はダメだ」


 仕方がないので覚悟を決めて、イーライとトモエの間に割って入る。

 まさしく必殺の間合いだ。トモエが金砕棒を振り下ろせばミンチになるのはオレだな。盾もないし、防ぎきようがない。


「――っ!」


 それを理解してか、トモエは金砕棒を止める。彼女が力を緩めたことで騎士たちが背後でドタドタと転げた。


 さすがはトモエが鍛えただけのことはある。彼らが踏ん張ってくれなかったらオレは間に合わずに人間ハンバーグ殺人事件が起きていただろう。

 晩餐会の警備での仕事ぶりもそうだが、もう弱小騎士団扱いはできないな。数こそ少ないが精鋭揃いだ。


「ご苦労だった。あとは大丈夫だ。下がっていてくれ」


「は、はい、副団長。ご、ご武運を」


 退出していく騎士たち。あとあと褒賞を出してやらないとな。ある意味では彼らが第一皇統派の危機を救ったんだから。


 さて、オレも仕事をしないと。せっかくの状況も利用したいしな。


「トモエ」


 どこか拗ねたような顔で金砕棒を担いでいるトモエに、アイコンタクトを行う。

 以心伝心、とはいかないがトモエならばこれでオレの意図を察してくれるはず。


 実際、トモエはどこか得心したような顔をしているから大丈夫だ。まあ、おそらく。やり過ぎたら止めればいいし……、


「さて、ヨルドバーン公爵令息殿。ご気分はいかがでしょうか?」


「ご、ご気分だと! い、いいはずがないだろう! そ、即刻私を開放しろ! 辺境の野蛮人め!」


 オレが話しかけると少しだけ威勢のよさを取り戻すイーライ。

 なけなしのプライドであれ、学生時代の恨みであれ、縋るものはないよりもある方がいい。へし折りがいもあるしな。


「ああ、そうですか。まあ、どのような態度をとられるかはあなたの自由ですが」


「――っ!?」


 オレが後ろでに合図をすると、トモエが一歩前に出る。金砕棒が石畳に擦れて火花を上げた。


 簡単かつシンプルな脅しだ。だが、効果的だ。

 イーライは恐怖のあまり壁際まであとずさり、ビクビクと震えていた。


 よし、いいぞ。どうやらトモエがトラウマになったらしい。それもそうか、本気で殺されるかもしれないなんて思うのはこれが初めてだろうしな。


「ご承知とは思いますが、自分はあまり気の長い方ではありません。もしあなたが、そんな愚かなことはなさらないと信じていますが、ジークリンデ様を少しでも侮辱すれば、自分は彼女を止めないでしょう。理解できましたか?」


「わ、わかった……! だ、だから、その女を私に近づけるな……!」


「素直にこちらの質問に答えてくださるならそうしますとも」


 ビビり倒している相手のコントロールはそう難しくない。特にイーライのように何の信念も持ち合わせず、感情で動くだけの輩が相手の時は特に。


「では、公爵令息殿。最初の質問です。今回の自分への暗殺未遂、あれはすべて貴方の発案ですか?」


「わ、わたしは、罪など認めない! あ、暗殺など命じていない!」


「ふむ。素直に答えてほしい、と言ったばかりですが」


 がちんと金砕棒の先端が地面に落ちる。石畳にひびが入り、イーライは追い詰められた猫のように部屋の隅ですくみ上った。


 精神的にも限界が近いのか、ぶつぶつと独り言まで始まっている。

 もともと有り余る自己顕示欲と反比例するように精神的には脆い男だが、ここまで無様をさらすとは思ってもみなかった。


「わた、私は、あ、暗殺など……そ、そうだ、あの女、あの女のせいだ。あの女が、私をたぶらかしたんだ、そ、そうじゃなきゃ、こ、こんなことには……」


 だが、おかげでこれ以上脅さなくても有用な情報が聞けそうだ。

 恥知らずもいいところだが、こいつは本当にここに囚われているのが自分の責任だとは思っていない。だから、そこをつついてやれば聞いてもいないことまで話してくれるはずだ。


「女ですか。そうですか、であれば、話が違ってきますね。貴方に責任はない。その話が本当であれば、ですが」


「ほ、本当だ! わ、私は騙されたんだ! あの毒を使えば確実だと、しょ、証拠も臣下を使えば残らないと! わ、私が罪に問われることはないと、そう言ってたんだ!」


「…………どんな女ですか。名前は、素性は、あるいは、誰の手のものですか」


 おそらくは第三皇統派か、あるいは『凶風』のメンバーだ。

 どちらにせよ、その女は第一皇統派の意識を『槍の冠』と宰相グスタブ卿の逸らす陽動としてイーライのオレへの恨みを利用した。


 であれば――、


「わ、わからない、な、なにも……! あの女は、知人の紹介で近づいてきて、それで……!」


 まあ、相手もプロだ。

 イーライのような口の軽い輩に本当の素性や目的なんて明かすはずもない。さすがに外見的な特徴くらいはイーライでも覚えているだろうが、それこそ、そんなものはいくらでも偽装できる。


 それでも聞くだけは聞いておくか。もしかしたら少しくらいは役に立つかもしれない。


「そ、そうだ、お、おれはわるくない、わるくないんだ……」


 ああ、くそ、追い詰めすぎたか? 怯えている分には構わないが、正気を失われては困る。


「だ、だいたい、ジークリンデが悪いんだ」


 あ? なにを言いやがるつもりだ、こいつ。


「キリアン……!?」


 思わず振りかぶった右拳をトモエが抑える。

 いつの間にか立場が逆転しているが構うものか。仮に正気を失っているにしても知ったことじゃない。


 こいつが自分の愚かさをジークリンデのせいにしようものならオレが拳で訂正してやる。


「お、おれはただ、《《療養所》》なんて無駄なものはやめろといっただけなのに、ど、どうして、こんな……」


 だが、オレの視界が赤く染まるより先に、その単語が耳朶を叩いた。


 療養所? ああ、ジークリンデが私財を投じてやっている療養所のことか。

 そもそもどうしてジークリンデに婚約を断られたのかを考えてるんだろうが、悪いのは100パーセントこのクソ馬鹿だ。ジークリンデの慈悲の心を理解できない奴など100万回死ねばいい。どれ、オレがその記念すべき1回目を……1回目を……、


 ……待てよ、そうか『療養所』! 

 ジークリンデの療養所は裏社会に属していないにも関わらず、誰にも知られずかつ無料で治療を受けられる場所だ! 凶風は間違いなくそこにいる……!


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