表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馳せる空に、死体は浮かぶ  作者: 式ノ二嬢
キャスト紹介
21/29

浅井の終焉

 多くの被写体を写し、私はシャッターを押した。

 その度に多くの人を知り、多くの人の”死”を知った。私が撮る人間は半数が死者であり、半数が今も生きている。

 私の友人。漣もその一人だった。

 私は、人を知る手段としてもカメラを利用していた。言葉を多用することに長けていない私は、それを補うように観察を得意とした。

 人が美しく見える背景と同様に。その日との表情。所作。そして動機。それ等は全て、その人を形作る欠片として存在している。

 その全てに意味がある。


 __私は、友人の死の理由を知らない。

 だが、私は彼女の傷を知っている。

 __かならず自殺をしない人間ではない事を。


 私の姉は探偵だった。

 私はソレを受け継がず、未だに何物にも成れずにいる。


 妹である私は、探すことを義務としない。


 だが、しかし。この一歩を踏み入れるのに。

 踏み入れない理由も、ない筈なのだから。


 だから、私は。彼女の為に探偵になろうと思ったのだ。

 

 





 駅前の三階建て。

 小さなビルに併設された喫茶店で、待ち人を待つ。


 浅井夏樹あさいなつき

 私の友人である漣の古くからの友人であり、彼女と同じ演劇部に所属している一年生だ。

 その演技力は、激情と呼ばれた治先輩が認める程の逸材だと言われている。浅井家は、漣方面で権益を伸ばし村の発展に尽力した名家の一つであり、又、この土地においても様々な融資を行っている商人の家系だ。彼女は直系。いわゆる、お嬢様。

 成績優秀ながら、私のような平民に対してもその柔和な笑顔を絶やす事は無い。


「すみません、お待たせしましたか?」


 時計は、約束の時間の三十分前を指している。

 凛とした彼女はそう答えながら椅子の側へと立つ。

 私の許可を待っているのか、名家のお嬢様の立ち振る舞い方という訳か。私は気さくな笑顔を携えて、椅子へ腰かけるように誘導した。

 今の私は写真家であり、探偵である。


 私の先輩に対する”迷惑”というのは、この話であった。

 一日だけ、私は今探偵としてこの場所にいる。


「いえ、私もつい先ほど来たばかりです」


 そう言って、私は注文を勧める。

 あまり足を踏み入れたわけではないが、香り高いコーヒーの恥は癖になりそうだと、そんな世間話を踏み入れながら、私は本題を彼女に勧めた。

 

「では、アイスコーヒーを」


 そう注文する彼女。

 私は手元にあるアイスコーヒーを撫でながら、彼女の現状について深く反芻する。


 浅井さんは、演劇部で活動中のクラスメイトである。

 幼い頃から演劇に明け暮れていた漣を深く知る人物であり、親友であった。私以上に絆が深い関係である事に間違いはなく、彼女の常用しているバックにはおそろいのキーホルダーが下げられていたのを思い出す。

 

「それで、相談事の事ですが」

「はい、__漣さんもご存じかと思いますが_」


 数日前、私は彼女の親友であったという浅井さんと知り合った。

 友人として同じく招かれた際に、丁寧なあいさつと共に彼女の話で花を咲かせた私達は、こうして顔を合わせる機会を増やしている最中だった。

 彼女は、私が探偵事務所を構えている娘である事を知ると、驚きと謙遜を交えながら降り言った話を持ち掛ける。

 以前から、私と彼女が共通した趣味を持ち合わせている事は知っており、仲の良い友人というのも相まって。

 彼女はその言葉を口にした。


「漣が、自殺をした理由を探してもらいたいんです」


 私の友人。屋内おくないさざなみの自殺理由である。


「自殺理由__ですか」

「副部長様から聞きました。最近、貴方と親しくしていると。だから、私は貴方に心当たりがあると思うのです」

「__残念ですが、僕は貴方よりも詳しいという程ではありません」


 私は、その答えにたどり着いていない。


「彼女とは趣味があった友人です。廃墟ガールズなんて大層な名前で活動していた友達に過ぎません。趣味は理由にならない。そして、趣味を共有していたとして、彼女を知っている訳ではない。__ですから、僕は特別な事を聞いたことはありません」


 言葉を選ぶように、私はそう繋げた。


「__そうですか」

「__僕の趣味は、写真です」


 ガラス越しに広がるどんよりたくもを目の端に捉え、私は自重を含めて話を始めた。

 私は彼女を深くは知らない。数年来の友人でも、親友でもない。私が思っている程、彼女は私に興味が無いのかもしれない。


「ええ、漣市でも有名です。あの、貴方が撮られた一枚の青空の写真は私も敬愛しています」

「恥ずかしい限りです。__その上で、私は人物画を特に好みます。

 私は、私の親友を撮った事があります。その時、思ったんです。彼女には”傷”がある。彼女に聞いたところ、それは私と同じ傷でした」

「__それは?」


 私と同じ、彼女の傷。

 自然死でも病気でもなく、自分を殺した人間の成れの果て。


「貴方は、死体を見た事がありますか?」

「数年前、祖父が死んだ際ですが」

「__僕と彼女もです。然し、私達が見た死体は__。

 彼女は、焼死体になった友人の死体を。僕は、姉さんの死体を見ました。

 __おそらくですが、彼女が死んだ理由はそれにつながるのではないか。僕はそう考えています」

「何故?」

「静寂の死が与えるのは静寂な虚無感ですが、突然の死が与えるのは台風の目でした。拭き溢れた感情があり、それでも心はどこかに置かれている。その上で、フラッシュバックが続きます。その光景を、記憶から消す事は出来ない」


 その上で、無気力な自分を思い出し。前に進もうと決めるには時間は過ぎていく。人生を無駄にした思いもあった。何故、悩みを聞いてやれなかった。自殺をする予兆があったのではないか?周りの人間は、その死の重さを理解していないのではないか?

 そんな思いが積もり、自分の価値がなくなっていくように感じる。


「僕は、彼女がその死を焼きつけさせるために死んだのだと思っています。写真家である僕に、カメラのフィルムの様に。その光景を、忘れない様に……だけど。何故、そうしようと思ったのかが理解できない」


 彼女が私に思い出させた光景は、正にそれだ。


「彼女が死ぬ理由があるのか、貴方は、どう思いますか?」



 私は、浅井さんの表情を確かめる。

 真剣な表情で聞いていた彼女は、その言葉を理解するように考え。手を額に付ける。

 其処に麩の感情は見られない。不快感という感じでもない。


 少しばかり思考した後、彼女は口を開いた。



「彼女が失った友人というのは、私の妹です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ