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馳せる空に、死体は浮かぶ  作者: 式ノ二嬢
探偵の末
12/29

天城霧が続いた理由

 幾万の言葉が届かなくても。

 この思いが尽きる事は無く、幾千の言葉が無に帰しても歩みは止まらない。


 君こそが情熱であり。

 君こそが進むべき人だ。

 それ以来、俺は関係を持つ事なく”探偵”から遠ざかった。

 高校に進学した後、彼女が写真部に所属しているのを知ったのは風の噂だ。どうやら、この学校には頼りがいのある主導的立場の女子先輩がいるらしい……と。

 彼女は晴天と呼ばれる役職を持ち、この学校の心理カウンセラーも納得がいく話術で人の心を掌握したようだ。その上で、彼女はこの学校における問題について様々な助言をしていると。


 そして、俺達が再会したのは。


 彼女が執筆した連作を終えた、後の話である。








 何時も通り、台本を眺める。

 趣味は変わらず、調理と写真撮影だけを続けた俺は、何時しかつまらない男のままであったのかもしれない。自分では、これを楽しいと思う事も。面倒くさいと思う事も。

 日常の延長線上になった影響かそんな思いを抱く事はなく、何気ない日常として続いていた。場所は明け沈む教室。晴天の名が記された台本を基に、頭の中で人を演じる。

 他人と自分を分別するタガを緩くし、その人物の言動を、心境を、状態を理解していく。その上で人を演じれば、多少不格好でも他人となる。


「__いや、森君の仕方は相変わらずだね」


 目の前の彼は、苦笑しながらそう吐いた。

 名を井辻と呼ぶこの男は、俺の古くからの友人の一人である。

 様々な関係を気づいている俺だが、この男とは切っても切れない縁で満たされているようで、入学早々割り振られたクラスの名前にこの男の名前が刻まれていた時は、天命である事に諦めを抱いた。

 腐れ縁という程断てない関係に、性格の差異があるにしても彼との関係は良好には違いない。彼は書跡を刻むのを趣味としており、唯一の取り柄としており。

 その能力は秀でていると言わざる負えない。


 故に、このような言い回しがスラスラと出てくるのだろう。


「相変わらずの次に、何が出る」

「相変わらず、……なんというか。趣味を謳歌している。自由人といった所かな?」


 自由扱いされるの甚だ遺憾だ。

 目の前の自由人にそれを吐く事は簡単だ。が、それを言う度様々な言い回しを以て返すだろう。

 とは言え、薄味になるとはいえ。言い返すことを止めはしないのだが。


「俺を、おまえの先輩と一緒にするな」

「うちの先輩は確かに自由人だよ?でもベクトルが違う。種類が違う、発想が違う。何より、趣味に真面目じゃない。彼女は真面目なところに真面目なのだよ」


 真面目で一生懸命で、それでも趣味として成立している君とは違い。

 脚本家。いや、小説家見習いは次のように付け加える。

 部活動を謳歌するのも、こうして暇な時間に身を委ねるのも対外だと。ならお前も部活動に邁進すればいいと続けるが、彼はその気がないらしく愛しの先輩がいない今はまさに暇であると認めざる負えないと。

 そんな言葉を並べながら、天城霧の”活動”に手を貸すのも飽きた所だと言葉を〆た。


「お前の言い回しも、もはや自由人を通り越してテロリストって所だが?」


 俺の知る探偵に似てきたらしい。


「なに?治安が悪いとでも」

「治安なんかが存在しないと言っている」


 人を巻き込む事を考えろと言っている。

 目の前のテロリストは、楽しそうに人を見ている。

 俺は何度目か分からないため息を付いて台本を仕舞った。時刻は六時を過ぎ、夏の暑さは霧散されたかのように無い。蝉時雨が五月蠅いという季節は過ぎて、秋の静寂は冬に繋がるようだ。

 周囲に人は無く、部活動に勤しむ彼らの声も落ち着いている。茜色の空が時報となる様に、生徒諸君は退出する旨の放送が流れる。


「……そういえば」


 顧問の新井田の野暮用で部活動が中止となった此方とは違い、未だに部室を訪れる写真部諸君は部活動を謳歌している筈だ。

 自由人の部活動が気が緩んでいるソレだという事は置いといて、もしも暇を潰すだけなのなら「他にやりようがいくらでもあるだろう。

 その理由を話そうとはしないし、俺も又、話すことなく時間が過ぎたわけだが……。

 

天城あのヒュドラは、どうしたんだ?」


 __ふと、そんな言葉が浮かんだ。


「__ああ、天城さん。ゴマ麦茶の命日だからね、何時もの所じゃないかな?」

「……そうか」


 天城霧は、一年以上たった今でも現役を貫いている。

 天真爛漫でこの中の誰よりも自由人という言葉が似合う彼女は、彼女らしく様々な活動を起こしてはこの高校生活を謳歌していた。

 ”それ”は俺の知る天城霧と同じように、何時も通り変わりなく。変わりない人生を歩んでいる。

 猫が死んでふさぎ込んだという事も無く。カラ元気を振り回している訳でもなく。

 その挙動も心情も疑い深い程に、変わりなく。


「花、買った方がいいか」

「だね、書店街の方に寄ろうか?」


 彼女が愛したゴマ麦茶の遺体は、街の山側にある旧ダム近くの高台に埋めた。

 夜景が一望できると天城のお気に入りのスポットは、山岳の裏道を進むために人通りも無く、手入れが施されていない道筋は素人目では分からない。子供の頃から知り得ている俺達はともかくとして、その存在を知る者は居ないだろう。


「声を掛けるのは何時だってお前の仕事ったな?」

「でも、あの猫は君に懐いていたからね」


 二人目の飼い主として__と。

 井辻は、訳も分からぬ理論を飛躍させる。


 自称を含めた小説家は、手荷物をまとめ終えたようだが席を立とうとはしなかった。どうやらこちらからのアクションが必要らしい。


「……ところで、おまえは何時までそうしているつもりだ?」

「森君の読書が終わるまでかな?」


 読書が終わったのはお前の知る限りだ。

 退屈凌ぎに、相違ないらしいと俺は気づく。


「__じゃ、行くか?井辻」

「行きますか。森君」


 俺の言葉を待っていたように、友人は席を立った。









 文科系部活動の活動が活発である我が校では、晴天という役職が存在する。

 噂好きな友人が話していた。とある劇場作家達の話。


 それは代々三年から一年に繋がり、様々な文科系部活動の発展に努めた。

 我が校は、文科系部活動が積極的に執り行われている珍しい学校であるが、その根底にある存在であるのは晴天である。


 探偵は、何時の間にやら晴天となっていた。


 そして、俺は。

 

 俺は何時しか、”激情”と呼ばれた。

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