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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
ジグタル連合王国 編
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87 望むはただ平穏なる日々

「アレがそうか」

 港を一望する宿屋の一室でお目当ての物を見つけたヒロが笑みを浮かべ呟く。


 大陸南端の港町「リオネルス」

 ヒロは大陸でこの場所にしかないと言われる、ある物を求めてこの町に訪れていた。



 グリトラ帝国によるジグタル連合王国への侵攻開始から半年。

 開戦初日に帝都にて謎の帝城の消滅という事件が起こり、そこから始まった混乱にグリトラ軍の侵攻は止まったままとなっている。


 グリトラ帝国は麻痺してしまった首都機能の回復にまだ時間が掛かるだろうと言われている。

 そして、この機を逃すなと周辺の属国や、強硬的なやり方に不満を持っていた地方の独立運動が本格的に始まった。

 グリトラ帝国による大陸中央部への侵攻は数年は行えないだろうと見られている。


 その間、ジグタル連合王国をはじめとした大陸中央部の国々は『対グリトラ帝国』を念頭に置いた同盟関係を結び連携を強めていった。

 この同盟は後に『人類の恒久的な繫栄と平和』を掲げる神聖ランドリア王国が加入した事で、加盟国を19ヵ国に増やし『大陸国家連盟』と名称を変え、大陸東部の覇者グリトラ帝国をして力押しを許さぬ存在となる。

 しかし、それは30年以上後の話である。




 あの日、ガラティオン要塞に降り立ったヒロ達を出迎えたのは、完全武装のジグタル軍だった。

 何の連絡もなく突然巨竜が現れたのだ、よくよく考えてみれば当然の話である。

 見知らぬ巨大な竜が降り立てば臨戦態勢で軍が臨むのは当然だろう。


 そこへエルフの援軍を率いて来ていた太長老リディウスが「ハイエルフであるアルシェイラス様に剣を向けるとは何事だ」と凄まじい剣幕で抗議を始めた。

 そうして、ようやく兵が剣を下げた頃、御前会議でヒロの顔を知っていた将校が現れ一同は開放された。


 夕方になり要塞に帰還したフレデリック達と再会したヒロ達は、そのまま要塞内の転移陣から王城へと移動した。


 居並ぶ王と重臣の前で勝利の報告をするフレデリック。

 その後ろに並ぶ者達の中に見知らぬ顔が幾つも有る事をいぶかしむ者もいるが、誰も口を挟む事は無かった。

 誰もが勝利を祝い、偉業を成し遂げたフレデリックを賞讃した。


 しかし、その場でフレデリックは自身がその賞讃を受ける訳にはいかないと語った。

「本陣の奇襲に成功したのは、ヒロ殿が援軍を連れてきて下さったからです」


 本陣での一戦で、グリトラ軍の将軍を捕らえたのはセルジュだった。

 最も多くの兵を討ったのはアルシェイラスだろう。

 最も多くの兵に恐れられたのはルーリドゥールだろう。

 だが、勝てたのは彼女等を連れてきたヒロのおかげだとフレデリックは話した。


 実はこれは、フレデリックの意思によるものだけではなく、ゲルディオによって指示されたものでもあった。

 一体どんな思惑があってヒロを戦勝の立役者にしたのかはこの時点では誰にも読めていなかった。


 危険を推して参戦した他国ロギナスの大貴族の子弟に名誉を与えることで、その後のいざこざを回避しようとしているのだと見る者。

 エルフとドワーフという今後を考えると協力は不可欠と思える他種族の手前、どちらからも異論の出にくい人物にしたのだと見る者。

 様々な憶測が飛び交った。


 そんな中で、この話を単純に「然り」と頷く者達が居た。

 フレデリック配下の兵達だ。

 ほとんどの者はアルシェイラス達の活躍をその目では見ていない。

 だが、多くの者がヒロの活躍はその目で見ていた。

 包囲され殲滅されるのも時間の問題かと思っていた時、自分達を救ってくれたのはヒロだった。

 最も多くの敵を討ったのはアルシェイラスかもしれないが、最も多くの味方を救ったのはヒロだった。


 そうして一部の兵から流れ出した噂は瞬く間にジグタル軍の一般兵の間を流れた。

 当然ながら尾ヒレをつけて。

 中には「あの黄金の竜はヒロ様の下僕らしい」と本人が聞いたら憤慨する事間違いなしの物も在った。

 ジグタル最大の幸運は、この噂が耳に入る前にルーリドゥールが大森林に帰った事だったかもしれない。



 そしてヒロの苦難が始まった。


 ヒロがロギナスへと帰国したのはそれから5日後、ナタリアとエリザベスが大峡谷から戻った2日後の事だった。


 自国の勝利以上にヒロの無事を喜ぶ二人との再会は「エリザベスの手を握った」と怒りだしたルイスにより短いものと為った。

 それでも2人が心から喜んでくれた事がヒロにも嬉しかった。


 しかし、翌日ゲルディオより告げられた今後の展望の話に聞き捨て為らない部分があった。


 それは、

「エリザベスと俺が婚約?」

「そうだ。今後を考えればジグタルのみでグリトラを押さえることは不可能。他国の支援が必要不可欠になる。その為に大陸中央で強い影響力を持つロギナスとの同盟は有効だ。

 王女の婚姻を持って強固な同盟関係を結ぶのが良いだろう」

「何で俺?」

「1つ、貴様は王家の血を引く大貴族だ。条件として十分。

 2つ、貴様はジグタル内で知らぬ者はいない程の大功を成した。国民は喜ぶだろう。

 3つ、貴様は情に甘いようだ。優秀な手駒は是非身内にしておきたい。

 他にも理由は幾つか有るがメインはこんな所だ」

「手駒って、本人の前で言うか?」

「御為ごかしてどうする。

 まぁ、そう深く考えるな、今後の展望の1つに過ぎん」


 どうやらゲルディオは、ロギナス貴族のヒロを救国の英雄に仕立て上げ、そのヒロとエリザベスに婚姻を結ばせることで様々な利益を生み出そうと画策しているようだ。

 可能性の1つと言いながら、ゲルディオが本気でやる気なのは明らかだった。


 そして、この段階でルイスがる気の目をしていたのも明らかだった。


 ヒロがジグタルから逃げ出す事を決めたのは、その翌日に「エリザベスがゲルディオの案に乗り気だ」という噂を聞いた直後だった。


 大使館からグリフ侯爵家の家名に物を言わせ使用させて貰った転移陣でロギナスへと戻ったヒロを待っていたのは、祖父エリスリードの説教だった。

 それは、エリザベスに拉致された事に対するもので、内容はアリシアに言われたものとほぼ同様であった。

 基本姿勢が放任主義に近いグリフ家の当主は、勝手に参戦した事には特に咎める事は無かった。


 しかし、相対しておきながら皇帝ラグヴェルを討ち漏らした件も含め、休暇の残りを『鍛え直す』事に費やされたのは言うまでも無い。



 休暇が明け、フェルディール学院に戻ったヒロを待っていたのは、様々な国からの勧誘だった。

 ヒロはゲルディオの策略によりその名を広く知らしめていた。


 フェルディール学院はミスラに在るのだが、ミスラの国営という訳ではない。

 周辺の国々の支援と卒業生の寄付によって運営されている。

 その卒業生も様々な国に仕官している。

 つまり『様々な国の思惑が入り込んでいる』という事だ。

 学院を卒業した後はロギナスに戻るかもしれない。そうなれば勧誘する機会はほぼ無いと言える。

 まだどこの国のものでも無い今の内に、この規格外の人物を是非とも手に入れたい。

 様々な国や機関による争奪戦が始まった。


 結果ヒロから心休まる日々が奪われていった。

 連日やってくる仕官の誘い。

 連日途切れることの無い着飾った女性からのお誘い。

 連日現れる、名を上げようという武芸者からの挑戦。

 時折やってくる刺客。


「ハァ~。何処か遠くに行きたい」

 彼がそうぼやいたのも無理からぬ事だろう。




 そんな生活が続く事半年。ヒロはある決意をした。

「何処か遠くへ行こう。俺の事を誰も知らない所へ」


 そして彼は知る。

 大陸南端の港町「リオネルス」そこがこの大陸で唯一の大陸間交易船が来る町である事を。


 例によって例の如く、グリフ家の面々はヒロの思いを好意的に受け取った。

 武の道に生き、身を立ててきた彼等にとって10年程度の修行の旅に出るのは別に珍しい事でもない。むしろそれで当然とすら考えていた。

 エリスリードも若かりし頃に大陸を旅して回った。その経験は無駄ではないと身を持って知っている。

 その武者修行の旅先が別大陸。誰の助けも期待出来ない、己だけで身を立てるしかない、志が高いと讃えた。


 ルーリドゥールのお手製『双口収納袋』で連絡を取り合える事。

 いざと為ればそれを使って転移陣を送る事が出来る事。

 反対する理由が特に見つからず、ヒロの武者修行の旅は承認された。


 そうしてヒロは大陸南端の港町「リオネルス」に来ていた。



「オウ!アンタか?船に乗りたいってのは?」

「ああ、運賃は払う。水も食料も自前で用意する。ただ乗せてくれれば良い」


「まぁ、乗せるのは構わねぇんだがよ、良いのか?出航したら30日は海の上だぞ?場合に寄っちゃあ巨大な海獣に出くわすかもしれないぞ?」

「ああ、構わない。海獣が出たら俺が追い払ってやる。俺はヒロ・ラウンド・グリフだぞ?」

「知らねぇな。アンタがコッチでどんだけ有名人だろうと向こうじゃ誰も知らねぇよ」

 それこそがヒロの望むところだ。




「よし!錨を上げろ。帆を張れ」

 ヒロを乗せた交易船が港を出る。


 風向きとその強さに拠るが目的地までは約30日。


「さて、しばらくは船旅。その後は、まぁ着いてから考えよう」

 新たな生活に心弾ませるヒロ。


 穏やかな波と日差しと風の中、航海は順調に進んで行く。



 だが、

「姐御!来ましたぜ、交易船ですぜ!」

「そうかい。喫水は?」

「深く沈んでまさぁ。ありゃぁ、たんまり積み込んでますぜ」

「良いねぇ。ヤロウ共、仕事だよ!持ち場に就きな!」

「「「アイ・マム!!」」」

 後に海賊姫と呼ばれ恐れられる美貌の女海賊、アイリーン・ローグ。

 彼女との出会いがヒロの運命と海賊の勢力図を大きく変える事をまだ誰も知らない。


 彼の知らぬ所で危機は迫る。

 自身の乗る交易船に忍び寄る海賊船。

 そして、置いて行かれた事に怒りに震える数名をその背に乗せた黄金の竜。



 望むはただ平穏なる日々。


 だがそんな日は当面訪れない。 

これにて完結となります。


最後までお読み頂いた皆様に感謝いたします。

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