31 ダークエルフの望み
「祠の外に見張りが3人、周囲の見回りに2人1組で3組
これで9人。祠内部に何人いるのかまでは分からないな」
俺の【索敵】で確認した結果を伝える。
「連中は14人は居る筈だから内部には5人か」
アリシアが指折り数える。
「とりあえず、外の3人を排除して内部に突入するか?」
ヴァルヘイムの提案に
「内部の状況が分からないのに突入するのはどうかしらね」
カトライアが難色を示す。
「ただ、ここで見ていても好転はしないでしょう」
マシウスがヴァルヘイムの案に賛同する。
「そうね、問題は時間ね。魔獣の開放の阻止それが最優先よ」
アーシェがどんな危険があろうと、と決意を口にする。
「なら、突入だね」
メリオラが待ってましたと、準備運動を始める。
「でも、無策で突入するのは危険では?」
カトライアの指摘も
「魔獣の復活より危険な事なんて無いわ」
アーシェに一蹴される。
「その阻止の為に来たのよ」
先遣隊全滅。その報告に訪れると、アーシェ達も同じ情報を持っていた。
万が一の為に持たせていた連絡用のマジックアイテムによって襲撃の報を受けたが、その後何の連絡も来ない。その為先遣隊は全滅したと判断した様だ。
朝派遣の予定だった本隊を緊急招集すると共に、すぐに行動開始できる俺たちが先行する事となった。
アーシェも俺たちに同行すると言い出し、これに長老達が「万が一の事が有るといけない」っと反対した。
それをアーシェは「我が身の責は自身で負う」と押し切った。
「どんな犠牲を払ってでも魔獣の復活は阻止する」それが今回の前提だ。
「俺とメリオラが突っ込む。ヒロとアリシアは後詰、他は援護を」
ヴァルヘイムが大剣を構える。
「じゃあ、行くよ。1・2の3!」
メリオラの合図でアーシェ達の援護の下にヴァルヘイム達が突撃していく。
しかし
「活躍の場が無い」
「終わってるし」
アーシェの『雷の矢』で見張りは音も無く倒れる。
「まぁ、アーシェに援護射撃させたらそれで終わるよな」
「さあ、中に入るわよ」
「「「・・・・」」」
活躍の場を奪われ不満げな前衛陣とは逆に、凄まじい魔法を無詠唱で正確無比に放つ彼女に後衛陣は戦慄する。
祠の内部は細長い石造りの通路の先に少し開けた広間のある神殿のような作りだった。
そこに数人の人影が有った。
「あら?意外と早い到着じゃない」
祭壇らしき場所での作業を見守っていた、ダークエルフと思われる女性が声を掛けてきた。
「なっ?見張りの連中はどうした?」
作業中の男達から驚きの声が上がる。
「奴らなら徹夜がしんどかったのか寝てるぜ。もしかしたらもう起きないかもな」
「そんな事無いわよ。ちゃんと加減したから半日をすれば起きるわよ」
「て訳だからもう諦めなよ?」
魔獣の復活がまだな以上、大陸最高の魔法士がいるこちらが遥かに有利だろう。
だが、そのことが分かっていないのか、連中に焦りの表情は無い。
「あら?ハイエルフ様にわざわざお越し頂けるのとは光栄ですわ」
優雅に一礼してみせるダークエルフには余裕すら感じた。
「諦めろ。そもそもお前達に魔獣の封印は解けない」
「あら、何故そうお思いますの?」
「魔獣の封印はエルフ・人間・精霊の手によるものだ。
エルフ・人間の封印は解けても、お前達に精霊の封印は解けない」
「フフフ、その通り、流石によくご存知で。
エルフが祠を隠し、人間が入り口を塞ぎ、精霊によって魔獣を封じる。
精霊の力がなければ魔獣の封印は解けない」
「そういう事だ、お前達に力を貸す精霊はいない」
「あら?精霊の協力など必要じゃ無いのよ?」
「なに?馬鹿なことを言うな精霊の協力無しに封印は解けない」
「そうかしら?必要なのは精霊の協力ではなく『精霊力』。
在るでしょ?精霊力の結晶が」
確かに思い当たる物が在る。
「まさか『精霊石』か?」
「御名答、なかなか物知りね、坊や。
これまでに20体ほどの精霊を捕獲してその存在を精霊石に変えたわ。
封印の解除には十分な精霊力の筈よ」
祭壇に目をやると、そこには拳大の精霊石が既に設置され終えていた。
「感謝するわ。時間稼ぎの無駄話に付き合ってくれて♪」
精霊石が淡く光、それに合せる様に祭壇も淡く発光する
「ック、問答無用で取り押さえるべきだった」
祭壇に駆け寄り精霊石を破壊する。
「あら、壊されちゃったわ
でも、もう封印は解けたから構わないけどね」
「お前達、魔獣を解き放てばどうなるか分かっているのか?」
「分かっているわ、世界は破滅でしょ?」
「なっ?馬鹿な、魔獣は封を解いた者に従うんじゃないのか?」
一番豪勢な服を纏ったリーダー格の男が驚きの声をあげる。
そんな戯言に騙されたのか?
「あら?そんな事言ったかしら?
解放者の願いを叶えてくれるっとは言ったけど。
叶えてくれそうでしょ?
『世界を滅ぼしたい』っていう私の願いを」
ゴゴゴゴ!
祠全体が激しく揺れる。壁や天井が崩れ始めている。
「崩れるぞ。全員外へ!」
出口に向かい走る。
「さあ、終わるわ。私を認めなかった世界が、私を不要だと言った世界が」
祭壇で恍惚の表情で笑う女の声が響く。
「くそ!くそっ!!」
まだ間に合った、まだ止められたのに、俺達の思い込みで封印を許してしまった
自責と後悔の念に駆られる。
地上に出た俺達は祠が崩れ落ちるのを見ていた。
「魔獣はここで食い止める。
今頃集落でも異変を感じて周辺に警戒の呼びかけ、援軍の要請をしている筈。
エルフの本隊、ギルドや国からの援軍が来るまでは俺達だけで食い止める」
ヴァルヘイムが剣を抜き準備を始める。
「貴方達は撤退しなさい。
集落まで戻り、ギルドの援軍と合流しなさい」
アーシェは撤退を示唆する。
「まだ若い貴方達がここで死ぬことは無いわ」
逃げなさい。そういう彼女の視線には感謝と慈愛の念が込められていた。
彼女の気遣いには感謝する。
「『我が身の責は自身で負う』アーシェが言ったんだぜ
俺がどうするかは、俺が決めるよ。後悔したくないから」
周りを見渡すと目線をそらす者は誰も居ない。
誰もが強い視線のまま頷く。
「まったく、馬鹿ばかりね。
類が友を呼んだのね」
ヤレヤレっと肩をすくめ嬉しそうに笑う。
ちょっと待て、類って俺が中心か?
崩れ瓦礫と化した祠を跳ね除け魔獣が、その姿を現した。
「先手必勝」
爆炎を纏ったメリオラが突っ込む。
「天与の光槍」
アーシェの生み出した極光の槍が魔獣を貫く。
光の槍に貫かれ、メリオラの特攻を正面から受け、それでも魔獣は身動ぎもしない。
前足で軽くメリオラを払うと、一歩踏み出し光の槍を砕く。
『何だ我とじゃれ合いたいのか?下等生物が』
地の底から響くような声が、直接頭に飛び込んできた。
次回はバトルメインの予定です
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