権利
ある朝(ほとんど夜中)、俺はいつもより早く起きてしまった。
窓の方に顔を向けると、朝だって言うのにまだ真っ暗で、エネミーもうろついてた。
ちょうどのどが渇いて水を飲もうと思い、自室から出てリビングに行くと、
テーブルに小さな紙一枚が置かれていた。
俺は首を傾げてその紙を手に取ってみる。
小学一年生と間違われるほど汚く拙い文章と字で書かれていた。
「 で い
て き す
ま 」
俺はその文章を解読した瞬間、反射的に小家から飛び出した。
胸がやけるような焦りを感じながら、ひたすら走った。
霧をはらんだような冬の夜更けの冷たい空気が硬い粉のように痛かった。
吐く息はすべて、白かった。
辺りを見回しても、ゆかの姿は見えなかった。
俺はようやく無線でりんに報告しようとした。
無線のノイズが晴れると、りんの声が聞こえ始める。
りん「こんな真朝に、、まだ暗いよ、、どうしたの、、??」
浅木「ッ、は、りんっ、!兵器、あいつ、、人間兵器が、!!」
りん「ん、、ちょっとまって、、っ、え?!」
どうやらりんはリビングのテーブルの置き手紙に気づいたようで、
目が覚めたような声を出す。
りん「まって今準備していくからっ、!!」
そう言って無線は切れてしまった。
俺はただ、走り続けてゆかの姿を探した。
しばらくすると、後ろから足音が聞こえてくる。
振り返るとそこには薄着のりんが息を切らしながらこちらへ走ってきた。
りん「はぁっ、、はぁっ、、!ゆか、まだ、、見つかってないの、?!」
りんは心配そうな表情で周りを見回す。
浅木「ッ、今手分けして探すとエネミーの討伐に時間がかかるっ、!
一緒に探そう、」
りんはその言葉に驚いたかのように目を大きく見開いてから、微笑む。
りん「昔の浅木ならそんなこと言ってくれなかった、w」
そう言ってから俺たちは一緒にゆかを探し始めた。
生き残ってる建物の隙間や、自動販売機の下など隅々まで確認してみたが、
ゆかは一向に姿を現す気配がない。
りん「ゆかのことだから、!もしかしたら入れ違ってるかも、!!
小屋でのんびり待ってたらケロッと返ってくるかもしれないし、!!」
俺は一度諦めて、小屋へ向かうことにした。
すると突然、何かにぶつかる。
見上げると、巨大個体のエネミーだった。
巨大個体のエネミーは、大人数でないと倒せないくらいの強さで、
二人なんかじゃ太刀打ちできない。
俺は素早く判断して、連絡せず逃げようとした瞬間、
エネミーがりんの腕を強く掴んで引きちぎろうとしていた。
りん「ぃ”っ、、!?」
りんはあまりの痛みに顔を歪めながらも、必死に抵抗する。
俺は慌てて銃を向けエネミーを撃ってみる。
だがエネミーの体を貫通すること無く、弾き飛ばされる。
するとエネミーがゆっくりと俺の方を振り向く。
俺は戦闘態勢を整えて背後に回ろうとする。
前に四肢の凶器で腕を深く切りつけられる。
浅木「ッ、、ぁ”ーくそ、、」
俺は焼けるような激しい痛みを我慢してもう片方の手で何発もエネミーを撃つ。
攻撃は一ミリも効いていないようで、表情を全く変えずにりんの髪の毛を強く掴む。
りん「ぃ”たい痛い痛いっ?!!?!自慢がなくなるからやめてよぉっ、!!」
りんは抵抗して強くエネミーの腕を切り裂く。
エネミーは少し驚いたような表情をして再び攻撃を加える。
りんは華麗に攻撃を避けて足を切り落とす。
エネミーはゆっくりと倒れて動かなくなる。
なんとかなったと思い安堵のため息をついたもつかの間、俺の左腕の感覚が突然なくなる。
俺は不思議に思って視線を下に向けると、完全に腕がなくなっていた。
浅木「っ、はぁ、??ッぃ”っ、、」
後から激痛が襲い、俺は地面に這う。
のたうち回るほどの激痛を必死に堪えていると、エネミーが起き上がる。
エネミーは俺の方へと近づき、とどめを刺そうと腕を大きく振り上げる。
俺は強く目を瞑った。
グシャッッ
鈍い音がなった。
目をゆっくりと開くと、巨大個体のエネミーは完全に息絶えていた。
ゆか「、、、、」
ゆかの視線は、冷たかった。
いつもの、無邪気であどけなくて、好奇心旺盛で幼児のような
キラキラした瞳はどこにもなかった。
俺は真っ白な雪を赤で汚したままゆかを見つめる。
ゆかはエネミーに追い打ちをかけるように左腕を前に出し、発砲する。
ミサイルのように大きな弾を発砲するが、ゆかは反動で一歩も動かなかった。
するとエネミーに直撃、そして完全消滅した。
ゆか「、、、」
りんはゆかの姿が見えてから終始驚いた表情をしていた。
俺は左腕の痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がり、ゆかに近づく。
ゆか「おにいさ、」
パァンッッ
俺は右手で強くゆかの頬を叩いた。
辺りが静寂で埋め尽くされる。
ゆかは叩かれた頬を撫でて目を丸くし、その場に立ち尽くしている。
浅木「、、、バカ。
心配した。」
りん「っ、そ、そうだよ、!!心配したけど、、!!」
ゆか「、、、ごめんなさい、」
ゆかは下を俯いて小さく呟く。
浅木「、、はぁ”〜〜〜〜〜、、、
いいよ。事情は後で聞く。」
そう言って俺達は小屋へ戻った。
思ったより遠くへ行っていたようで、つま先がしもやけになってしまっていた。
ゆか「おにいさんのばか、、
斬られた左腕ちゃんと持って帰ってよ、、、」
ゆかは呆れたような視線で俺を見つめ、なくなったはずの俺の左腕を見せる。
浅木「バカはどっちだよバカ。」
ゆか「はいはいごめんなさいくっつけてあげるから」
救急箱をがさごそと漁るゆかを見て違和感を感じる。
浅木「おい、兵器、、くっつけるっつってるけど、どうやって、」
ゆかはこちらを振り向いて首を傾げる。
ゆか「どうやってって、、縫うんだよ。そんな事も知らないの?」
浅木「違う違う。お前にできるかって話。」
ゆか「舐めないで。義務教育は受けてないけど、医療関係には長けてるんだから。」
ゆかは針と糸を持って俺に近づく。
浅木「待て待て待て待て。麻酔は??麻酔は????」
ゆか「はぁ?そんなの無いよ。救急箱がそんなに万能だと思わないで。」
浅木「ふざけんなお前麻酔無しとか死ぬだろ」
ゆか「死なない死なない。」
ゆかは俺を適当にあしらって俺の上に乗る。
浅木「ばかばかやめろやめろ」
俺は必死に抵抗するが、兵器には敵わないらしい。
俺の腕を掴むゆかの腕は、殴ったらすぐに折れてしまいそうなほど細かった。
どんなに鍛えても、細いものは変わらないのだと実感した瞬間、
俺の左腕に再び激痛が走る。
目線を下に向けると、針が刺さっている。
浅木「ぉ”まっ、え、、!!ぃ”っ、、た、、」
ゆか「はーい大丈夫大丈夫痛かったら左手あげてくださいねぇ
あ、あげる左手なかったか。ごめんごめん」
浅木「ま”っ、じでお前”っ、、!!」
俺は歯ぎしりして強くゆかを睨みつける。
ゆかは怯むこともなくただ淡々と俺の腕を縫い付けていく。
一針一針刺すたびに激痛が走る。
浅木「ッ、ぁ”、無理”っ、死ぬっ、これ死ぬってっ、、!!」
ある程度の痛みは訓練で耐えてきたが、これほど痛みが続くことはなかった。
ゆか「、、はぁ、」
ゆかはため息をついて近くにあったタオルを俺の口の中に突っ込む。
浅木「ん”ぐっ、、ッふ、、ぅ”」
俺は必死に激痛に耐える。
しばらくすると、パチン、と糸切りバサミの音が聞こえる。
ゆか「はい。終わり。今日はこのままソファで寝てくださ〜い。」
ゆかはそう言って掛け布団を俺の部屋から持ってきて、俺にかけた。
浅木「はっ、、はぁっ、お前、、まじで、、殺すぞ、、」
ゆか「、、んー、、まぁ、殺されても大丈夫なんだけど、、」
ゆかの反応に俺は一瞬たじろぐ。
浅木「、、、生きたく、、ない、のか、」
ゆかは少し考え込むような素振りをしてから口を開く。
ゆか「今すぐ死ぬ理由もないから生きてるだけ。
ほんと、
それだけ。」
ゆかは小さな声で呟いてすぐに自室に向かってしまう。
ゆかが、何かを隠していることはわかった。
俺に、それを聞く権利はあるのだろうか。




