EP3:炒飯に副作用なんて付けんじゃねぇよ……。俺を雑用として使わせる気か?
キリ悪かったので一番最初のより長いです
颯の名と緑髪、縁が細い木目調の度の強そうな眼鏡をもつ、奇妙な魔術を持つ料理人(仮)がパーティーに加わった今、俺——— 高梁 怜哉は、路地裏で夢から目覚めた。あの餡掛け炒飯を完食したのちに、謎に酷い眠気に覆われた俺はうっかり目を閉じてしまったのだ。目を擦り黄土色に汚れた目ヤニを落とすと、颯は漫画やアニメによくあるような透明な鼻提灯をピクピクと伸縮させ、机に突っ伏して小さな寝息をかいていた。
「おーい? 颯さーん?もう夜です……え?」
丸まった背中をつんとつつき、暗い空を見上げて当たり前のように声をかける。ただ、空に違和感を感じる。今さっきまで日差しが眩しい朝だったような…気が……する。星ひとつない青黒い空。時計を見ると、21時。俺の1日はどこへ消えた?ちなみに俺の財産の鮭(半分)は……不老らしい。何故誰も気づかないものなのか、と探索者に疑問の矛先を向けたくなったが、そもそも路地裏を除くような人がいることを前提として話さなければならない。誰も相手にされていない俺の負けだ。
そうして光陰の矢の時の流れに狼狽えていると、丸い背中がゆっくりと起き上がった。
「ふゎぁ…… おはようございます」
なーに呑気に挨拶してんだ。明日の生活金ほぼ0じゃねーか。あと2時間くらいで罰金取られるのをわかっているのだろうか。
「なるほど、明日の生活金がほぼ0…と。ご愁傷様です」
「いやお前炒飯に何細工したんだよ」
俺が被せるように颯の冷静な煽り言葉を遮ると、いかにも当然かのようにさらりと言葉を発した。それは静かな桃源郷を流れる小川の澄み具合と酷似しており、何を言うのが最適解かわからない状況を作り出してしまった。
「え?あぁ、隠し味として12時間以上の強烈な眠気に襲われる『ダバルパ』という木の実をすりつぶして入れただけですが…」
こいつの正体はアリエットか?痛いところだけを読み、しれっと大事をかましてくるんだけど。
「たまに性格が似ていると思われますよ。だけど、れっきとした別人です」
だろうな。けどこれ以上この実を使われると俺の魔界オセロが2手で詰む。初手から間違えてパスをしたので、もう後を引けない状態だ。
「ただ、頼むからせめて『ダバルパ』とかいう木の実を使うのをやめてくれ。俺の所持金が消えるから」
「えぇ…… 旨み成分が実の80%を占めているのに………」
颯はがっかりしたように頭に手を当て、俺に妥協を求めるのを試みた。
「これで許してくれませんか」
彼の懐から出されたスマホには、1万円の送金画面。こんなの貰っちゃっていいんですか?ありがとうございます。ではお構いなく。
「PeyPey!!!」
例の情けないチャージ音が路地裏に鳴り響いたが、月に照らされている城下町の大通りを歩く人は誰も足を止めない。半ば進んで受けとった1万円を見たが、結局俺は悪魔の『ダバルパ』を受け入れなければならない状態になった。嵌められた…
時間帯に関わらず人通りがほぼ皆無な桃源郷に入ると、すぐにSmallサイズのラドルミアに見つかった。腰の鞘にしまってある短剣をすっと取り出し刃をラドルミアに振り翳す。が、俺の唯一の武器は小さい敵モブの口に咥えられ、ひょいと奪われてしまった。そしてそこにはトラウマのアオピロルが清流の流れと共にピヨピヨ鳴いている様子のみが残った。
「おぃえちょっと何してくれてんねんこちとらまだLV.1だぞ」
句読点を失った俺とは対照的に、LV.43の颯は軽々とラドルミアを次々に狩っていく。草木に紛れて無くなってしまったので、アリエットに何かと理由をつけられて無一文に戻されないかだけが心配どころだ。一方やけに宝石が散りばめられている豪華な剣で討伐する颯は腕で額の汗を拭った。俺の惨めな様子に気づいたのか、颯は高らかに胸を張り自慢げにアドバイスを授けた。
「まだLV.1なのに、剣を奪われたのですか?やむを得ませんね。素手素足で戦いましょう。殴って蹴れば倒れますよ」
あっさり言ったな。まだ痒みが完治していない俺の両足で敵を蹴ることができるってのか。颯が向こうにいる自然に擬態している蛹虫を見つけ、討伐しに行こうと剣を構えたと思うと、彼は突然地面にしゃがんで鮮やかな翠の草を摘み取った。先端に小さな赤っぽい橙の実が4つ、球のように実っている。
「これはハバヤシクサですね。ヒドナーンの痒み成分によく効く実——— プチハバヤシがなると、私の愛読している動植物医学料理読本の243ページに記されておりました。草をすり潰したものはスライムの育成剤になるようです」
試しにオレンジの実を一つ齧る。柑橘類とは真反対で全く甘くなく、茄子とゴーヤの混合物の味がする。決して美味しいわけではないので、できれば食べたくない。ただ昨日からある俺の足首の傷は、短剣のように綺麗さっぱりなくなった。だからと言って俺の剣が代わりに生えてくるかというと、そうでもない。
颯は他にも目がチカチカするほどの種類の色の実と草、葉っぱを一抱えで集めて鞄にしまった。夢中のうちに桃源郷が寂れて来るほど敵モブを小さくした颯は、俺が全く経験値を稼いでないことに気づいたらしい。目の前の猛皇ラドルミアを俺に差し出してきた。こいつで素手で倒してみろと? 無謀すぎんだろ。
猛皇ラドルミアが狼狽えている俺の非売品の喧嘩を違法ルートか何かで購入したことは、表情でわかる。獣は土の地面を強く蹴り、俺に噛みつこうとしてきた。俺は努力値を すばやさ に全振りしたヤドンとして、体を極限までC字に曲げる。そのまま履き慣れた靴を犠牲にして、腹部に猛烈な蹴りを入れる。あれ?あんま体力減ってない…?
と絶望しかけたが、流石は颯だ。宝石をつけたその豪華な剣と、古びて錆びれたしょぼい剣を二刀流にし、猛皇が俺に気を取られている間に後ろから鋭い斬撃を加えた。2つの剣にかけるおカネの値段、絶対間違えたろ。
「あと1撃でやられます。攻撃を入れてください」
意地でも経験値を俺に渡そうとする颯は、ただ優しいのかお人好しなのか。握り拳を顔にぶつけると、小さい叫びをあげて小さくなって消えた。
やっぱり、一向に俺の経験値が増える気配はない。こいつだったら話聞いてくれるかも。俺が話をふっかけると、颯は剣を鞘にしまい後ろを振り向いた。
「颯。ちょっと聞いてくれ。俺の腕時計はバグで経験値が0に固定されているらしい。どうすればいい?」
近くのゴツゴツした倒木に腰をかける。運が悪いことに、俺の座布団は赤いキノコだった。少し腰を上げると、無惨に中まで潰れた丸太の上の菌類の迎えが来たらしい。ごめんよ、悪気はなかったんよ。
「颯ではなく、颯ですが。しかしその眼差しを見るに、アリエットに抗議を申し立てはしたそうですね」
もし颯が心読を習得しているとしたら、アリエットのやつより少し衰えているだろう。そちらの方が俺にとっては心を読まれるのが薄くなるので楽だが、同時に颯でさえアリエットには叶わない——— カシムド皇帝にとってはさらに叶わないので、俺と颯と魔皇族にはオゾン層とマントルほどのレベル差があることを直感的に悟った。
「『魔界なんとか研究所』はどこにあるんだ? あいつに教えてもらったんだが」
緑の癖毛を左手でかき分け、どれくらいの距離があったかを脳内の電卓で計算する颯から、何かミステリー的な雰囲気を催すようなオーラを感じた。
「『魔界機械研究所』ですか?ここから12.327kmですよ。移動時間は往復7.46時間を見込むと良いでしょう」
細かい。細かすぎて逆にわからない。0.327kmはともかく、0.46時間って何分だよ。
「27分36秒です」
もうツッコむのをやめようかと諦めかけたところで、目の前にデカい蚊のような虫が俺の視界に入った。まさに蚊のようにブーンと羽を振動させている音を放ち、俺の目をうろつかせる。デカい蝿かと思って大卒コンビニバイトにとっては小さい手で叩き潰す。元々小さい虫なので、小さくなったかわからないまま消えた。
反射神経で倒してしまったが、それが愛護団体の監視内にないことのみを願う。すると黒い腕時計が、何か通知を受け取ったバイブ音と白いスクリーンを空中に出した。
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〔マルメド〕
・蚊や蝿に似ているが、全く別の生物で、魔界昆虫の一種。
・2cmほどの小さい見た目で何もすることができないので、探索者に敵対はしない。
・倒すことで経験値を50得られる。夜になると体長10cmほどの猛皇マルメド(経験値は300)が必ず出没する。こちらは必ず敵対してくるので要注意。
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危ない。知らずのうちに何かを討伐すると、それが魔界の天然記念物なのかと懸念する必要が出てきそうだ。それに今は物理的に闇の世界。皇女に捧げる罰金のような税から逃れるためにも、細心の注意を払わなければならない。
「さぁ、まだ夜10時ですよ。桃源郷の最深部へ向かっていきましょう」
嘘だろ。まだ先に進むのか。そのうち多額の税を払うことになるぞ。すると颯はPDFの穴をついたかのように、自信満々なドヤ顔を俺にキリッと向けて豪語した。
「なに、11時以降は敵モブを無視すれば良いのですよ。隅々までアウトプットしたPDF p.2¹⁰に『午後11時以降の敵モブを討伐を禁じる』とはありますが、『午後11時以降は桃源郷に滞在してはならない』という規則はどこにも書かれていませんでした」
こいつの記憶力の引き出しを5つほど奪っていいか?こいつ、絶対中学の定期考査で無双してただろ。特に実技教科。
「じゃあ…行くか……」
深部に進むに反比例して、物音が静まり返っていく。既にアリエットはフカフカな高級ベッドで楽しい夢でも見る準備をしている頃だ。颯は敵を倒さなければ良いとしれっと言葉に出したが、敵に追いかけられながら城下町まで逃げるのは、探索者に非難を赤字で売ること間違いなしだろう。なるべく敵モブとの出会い頭は避けたいところだが、よりにもよって今は夜。猛皇が出没しやすいと言われるこの時間帯に、LV.1が突っ込んでいいわけがない。
「あれは…さっきの蛹虫か?」
俺が指を指した先には、黄緑の蛹に包まれている虫を発見した。体長10cmほどの蛹だ。
「あれはマルメドが羽化する準備をしている姿、ハルラーです。ただその羽化にはおよそ4ヶ月かかり、そこから成虫フィリンルとして生息できるのは僅か2週間と言われています。さぁ、バグが本物である証をもう一度見せてください」
折角準備をしているハルラーをこの拳と脚で台無しにするのは抵抗があったが、証明するために仕方なく履き慣れた靴で蹴りを入れた。蛹は同様にして消え、颯に黒い腕時計のスクリーンが先ほどと同様に投影されたのを見せた。まずハルラーのステータスが表示され、その後に俺のステータスが表示された。
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〔ハルラー〕
・マルメドがフィリンルに羽化するための準備状態。
・羽化する準備で忙しいため、探索者に敵対はしない。
・倒すことで経験値を50得られる。夜になると体長20cmほどの猛皇ハルラー(経験値は300)が必ず出没するが、ただ大きいだけで普段と同様に敵対はしない。
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〔現在の怜哉のステータス〕
・所持金: 10190円(翌朝300円入金予定)
・レベル: 1(EXP: 0)
・装備: なし
・所持品: 水
・状態異常: 「人間不信 LV.8」
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「これは……まずあなたの経験値システムがダウンしていますね。それから、それを組む回路の一部……おそらく根本的なスイッチ及びその周辺が何らかのミスで作動していないと思われます。魔界機械研究所の研究員らは細部に特にこだわり、根本的な部分は疎かになる程度興味を持たない性格の人々の集合体なので、仮にスイッチが作動していないとなると…修復は難しいかと。至難の業でしょうが」
じゃあ俺は研究所にこっそり忍び込み、システムのスイッチを入れ直さなければならない、ということか。
「彼らの監視力は人一倍強いですから、ライトで照らされて多額の罰金を支払う、ということも想像の範囲内ですよ」
これから先は波乱の道のりを辿ることになると覚悟を少しばかり覚えたとき、蝿の羽の音量が10倍ほど大きくなって帰ってきた。体長10cm。え?猛皇?……イテッ、こいつもヒドナーンのように刺してくるんじゃねーかよ。
「『敵対する』と書かれているのを見ませんでしたか?示されているならその通りになるのが普通ですよ」
呆れたようにアドバイスする颯。
「そんなのどこにも書いて……あった」
PDFにそんなことは載ってないと言いたかったが、敵モブステータスの欄にしっかりと赤字で書かれていた。この猛皇はただ潰すだけでは倒れない。ちょこまかと逃げる小さな黒い物体に、俺の素手攻撃をお見舞いしろと。
「ちょい手伝ってくれんか」
15発の拳と7発の蹴りが全く攻撃となっていない俺を横目に、颯は再び草や実の森林採集を行っていた。
幸運の偶然にも、俺の素振りを引く手がダメージを与えて羽は羽ばたきをやめた。一応だが、本当に一応だが、一件落着だ。
「颯!!これどうすればいい?!」
「颯です!!歯向かうわけにもいきませんしとりあえず逃げましょう!!!」
俺と颯は、3体の猛皇ラドルミアから絶賛逃走中だ。あのデカいマルメドを叩いた20分後にアリエットが就寝し、敵モブを倒してはならない時間帯となったので、戦うわけにはいかない。勿論戦った後は罰金が徴収されるので、貴重な1万円を無駄な税金でアリエットに献上したくないのは颯も同じだろう。しかしそんなところで、美味い炒飯のツケ2がやってきた。
「いってええええぇぇぇ!!!!」
眠気の次は腹痛が俺に襲いかかってきた。食べ物を口にした後に運動するとそうなるのは当たり前だが、今回の痛みは現実とはかけ離れているほど格段に重くなっている。やっとの思いで桃源郷の入り口から城下町へ飛び出したが、猛皇は構わず俺と颯を追いかけ回していた。
「私の道具を足止めをするために使ってください!!」
路地裏に向けて地面を蹴り、速やかに颯のドラム缶や鉄板を適当に並べストッパーにさせ、路地裏を迷路のように駆け巡る。うまく猛皇を巻くことができたそうだが、炒飯を食い、半日眠ったにもかかわらず俺の体力はもう0だ。しかし、流石は颯。腹痛で腹をさする俺に、再び神の手を差し出してきた。
「今日はもう遅いですね。私の家は最近家具を新調したばかりで、客室もあるのです。そこに今日は特別に泊まらせましょう。序でに朝食も準備しておきますから」
いやぁ、ありがたいわ。新品の家具とアリエットが使うようなフカフカベッドを、俺もタダで使うことができるのか。しかも朝食付き。現実でのアンハッピーが魔界でハッピーになって帰ってきたらしい。
「そんな豪華なものをいただいていいのか!?」
俺が食い気味に聞くと、さぞ当たり前かのように言葉を返した。
「『君子に二言なし』と言うでしょう。それと同じですよ。約束はしっかりと守らなくてはならないですから」
今いる場所から10分ほど歩いた一つの住宅街(高級)の中に、彼の家はあった。
「うっそだろ…」
俺は言葉にすることができないほど、高級な街並みを目に焼き付けた。1軒あたり推定5千万円はする。富裕層だけが暮らすことのできる街なのか、元々特待サービスがあったのか。颯は目の前にある最も大きい家の前を右に曲がり、3件隣の扉の鍵を開けた。
「さぁ、中へ。客室は2階です」
中へ案内されると、当初の俺の思い描いていた家の姿がここにあった。1階には軟らかいソファと壁掛けテレビ、そして颯の自室のようだ。キッチンと炊飯器は完備で、何故か木製の椅子にはデカいスライムが鎮座している。
「え…え?あのスライムは……?」
座りながら(?)気持ちよさそうな睡眠時間を堪能している紫のスライム。鼻下から伸ばす ちょび髭は金ピカで、さらに困惑を覚えた。
「あぁ、私のペットです。猛皇スライミドの一種で、どうやら特殊色を纏っているようで」
え?ペット?飼い慣らしているの?飼い犬ならぬ飼いスライミド?しかも特殊色?
「いやいやいやいや、そんな猛皇をペットにできるわけないでしょ」
俺が全力で否定すると、颯はいつものようにしれっと出会いを語った。スライミドは体を伸縮させながら、ウトウトしている。
「私も初めはペットにするなんて微塵も思っていませんでした。でも、スライミドの方から『仲間にしてくれ』としつこい申し出があったので、渋々こうやって仲間にしてやっているのです」
会話が耳に入ったのか、スライミドが目を覚ました。…スライミドに耳なんてあるのか?
「プルル…… 颯、其奴は新しい仲間か?」
スライミドは新しい人間が来たことを感じ、飼い主に質問した。当の飼い主は、ペットをただの説明で起こしてしまって申し訳ないと謝り、スライムの問いに答えた。
「スリート、起こしてしまってすまない。そうです、怜哉と名乗り、魔界はまだ2日目だそうで」
スリートと呼ばれる紫のスライミドは、ジト目で俺を見た後に挨拶代わりの会釈をした。こいつは悪いやつではなさそう……か?
「ほおぅ…… よろしくな……プルルッ」
こちらこそ、と返そうとしたが、その前に一つ。
「え?え?猛皇スライミドって人間の言葉喋れるの?」
無知の俺を置いていくように、颯は俺の困惑した様子をキョトンとした顔で見て、短く答えた。
「そうですが」
それを受け入れる以外の方法は皆無らしい。ただ、依然として仲間にした理由がわからない。
「スリート、とか言ったか。お前はどうして颯の仲間になったんだ?」
俺が尋ねると、スリートは目を閉じて睡眠モードに入ろうとしていたところだった。金色の髭も下に垂らし、完全におやすみモードだ。
「プルッ…どうやら、財産が豊富であったと直感的に悟ったからだ……プルル………では、おやすみ」
「図々しい奴かよ」
就寝の挨拶の返答がこれで申し訳ないが、俺の中の第一印象は『図々しい奴』になった。魔界中の猛皇スライミドが十人十色であることを望む。それが現実かどうかは実際に他の猛皇スライミドに出会わないと判別できないが。
「まあ、そんな呆れずに。次は客室を案内しますよ」
颯は2階へ続く木製の階段の4段目で、後ろを振り向いて手すりを掴んでいた。
「はぁ。雲行きが怪しすぎるんだけどなぁ……」
トン、トンと2つの足音が不規則に聞こえる階段を登る間に、俺のおカネ稼ぎの幸先が不安になってきた。
「プルルッ……」
既に異色のスライムは、椅子の上で深い眠りについていた。
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部屋に案内された俺は、その部屋の美しさに言葉を飲んだ。日光がよく入る大型窓、アリエットの使うようなフカフカそうなベッド、もう一台の大型テレビ、高機能のエアコンと飾り棚が綺麗に並び、部屋も整理整頓されている。少なくとも、俺の1LDKの部屋全ての広さを足したものより面積値が大きい。
「えぇこんな部屋いいんですか?!」
「ああ。この部屋は自由に使っていい。ただ———」
「ひゃっほぉぅぅ!!!」
『自由に使っていい』この台詞を待っていた。俺は思わず、高級ベッドに体を預け飛び込んだ。だけど、颯の表情が何かおかしいような…?
「はぁ……。今伝えるのはやめておきましょう………」
その呟きに、俺は聞く耳を持たなかった。次の日、ものすごーーく後悔する羽目になるとも知らずに。
結局、俺は初心者なのに、魔界2日目から早々LV.43の天然男に連れ回される日々を送ることになった。あとはこの鮭が翌朝生米になってないことを祈るのみだ。
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〔現在の怜哉のステータス〕
・所持金: 10190円(翌朝300円入金予定)
・レベル: 1(EXP: 0)
・装備: なし
・所持品: 鮭(1/2) 、水
・状態異常: 「人間不信 LV.8」
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