8.ぶどう
純和風(?)VRMMOベータテスト。
今時のゲームには珍しく、物語もなく、ごく単純なダンジョン攻略ものである。
オーソドックスな戦闘システムながら、かなり独特な仕様の為、現在βテスターが検証中である。
サラリーマンとスケボー少年とエルフと大正袴の四人は車座になってドロップ(?)品、もとい縁に貢がれた果物とカラフルな石ころ、木の枝などの山を眺めていた。
ケイはやたら敵のヘイトを稼ぐスキルがあるが、発動しなければこの通り、明るい林の中で平穏なピクニックの様相である。
「直毘神さんたちが持ってきてくれたんですよ」
果物や色とりどりの石ころや木の枝をみながら、縁は楽しそうである。
先程、ジオに「ダンジョン内でアイテムを置くときはコマンドからやった方がいいです。爆発するやつがあるんで」と言われた時の怯えっぷりは影を潜めている。
「……がらくたじゃないんだよな?」
「多分。ただ薬師が居ないからよく分かんないんだよな……」
「え、もしかしてこれ似てる奴も全部違うって事?」
「よく分かんないんだ。薬師の人って少ないし、武器が無いからダンジョン攻略組との接点も少ないんだ」
「武器が無い!? ってどういうこと??」
「実は俺も教えられるほど接点が無い。とりあえず石は色で分けて4人で均等に分けようか」
次は食糧らしい山にとりかかる。
「葡萄って食糧ですよね?」
「食糧ですね。満腹度とHPMPも若干回復します」
縁の質問にジオが答える。
その間にケイは謎の実を摘んで眺めていた。要も一緒に観察している。
「これってかぼちゃ?」
「ひょうたんじゃないですか?」
「へー」
ケイはこれがひょうたんかと言いながら、謎の実を眺めていたが、他の山に視線を移した。
「……枝と竹は食いもんじゃないよね?」
地面に広げた枝の山と転がる竹の一節を見る。
「……竹の方は投げると竹が生えるはずだ」
「生えるって何!?」
ジオの返答にケイが困惑していると、要が手のひらサイズの桃色の実を指した。
「これは桃ですか?」
「ちょっとレアだったと思います。それ」
「葡萄……竹……桃……」
要がしきりに考え事をしている風だ。
「何かあるの?」
ケイの質問に要が答える。
「あー……日本神話の中でこの3つが出てくるシーンがあるんですが、ちょっと変わった働きをするんですよ」
確信は持てていないようで自信なさげだ。
そんなケイと要のやり取りを見て、ジオが葡萄を差し出した。
「要さん、正解ですので一回使ってみてください。ケイも見た方が分かりやすいと思うし。爆発するの意味分かると思うし」
スキルで敵の方向を確認していたジオの予告通り。狼型の禍が森から飛び出してきた。
「じゃあいきます」
要がそれに向かって駆ける。
要が狼型の禍に葡萄を投げつける、と、爆発したかのように広がり、見る間に蔓植物の垣根ができた。
「うわ何これ?」
ケイは驚いているが、縁には予想の範疇だったらしい。要も「うわ思ったより広かった」と一瞬慌てていたが落ち着いたものである。
ジオがケイに説明を始めた。
「伊邪那岐命が黄泉、死後の世界の軍勢に追いかけられた時、身に着けていた蔓の飾りを投げつけるとそれが急成長して足止めしたんだよ。それが葡萄って言われてる。厳密に言うと蒲子って書いてある。
他にも、たかむな……投げた竹の櫛から筍が生えて足止めしたり、黄泉の国の出口の近くに生えてた桃を投げつけて黄泉の軍勢を退けたとされる」
「へー……何か聞いた事あるような……」
「伊邪那岐の話でないなら三枚のお札の昔話じゃないですか?」
「あ、それ! 投げると足止めしてくれるやつ!」
「ゲーム中では葡萄は横、筍は縦に伸びて敵を一定時間足止めしてくれる」
「桃は?」
「桃は……レアだから実際に見たことはないんだが、知り合いのレコードで見たことはある。
いわゆる爆弾? ゲーム中の処理としては結構広範囲にドーム状に防壁を作ってくれる。防壁内の相手にノックバック、吹き飛ばしダメージ与えて消えちゃう。囲まれた時とかにはいいな」
「レコードって何?」
「ダンジョン内の記録映像。許可した相手にだけ共有できるんだ。3Dで記録されてるからやられた原因とか分かりやすいぞ」
葡萄の生垣は高さ1~2m、横に5mほどだろうか。
要が投げつけたせいか、狼型の禍津日神をがっちりつかまえている。
おかげで要は難なく禍津日神を切り倒した。
現れた白犬の直毘神が、縁に追い葡萄を渡して消えた。
「こんな感じで、このゲームではよく拾える回復アイテムは足止めアイテムなどを兼ねる事が多い。
だからなのか、口に入れないと回復効果が出ないアイテムが多い」
「口に突っ込むって比喩じゃなかったのかよ。それ緊急時に難易度高くない?」
「近くで使うだけで効果のある専用回復アイテムもあるらしいから、それとの差別化かな?
あと誤爆の防止、回復に使うのか足止めに使うのかはっきり選択させたいんだと思う」
アイテムの癖が強いゲームである。