74.八色雷公対策会議
「というわけで今回のボスは推定、黄泉津大神」
デウスエクスマキナ型、つまり経過時間や特定の攻撃などの内部データに従って反応するタイプ。
基本攻撃手段は恐らく八色雷公。
自動生成ダンジョンにたまにボスが登場するVRMMO。クローズドベータ版。
遭遇時のデータから、ボス対策中である。
「おう何だい何だい、そこまで分かってたら私の鑑定は要らないんじゃないかい?」
後からミーティングルームもといシアタールームに来ていた小春がやさぐれたポーズを見せる。
「いや、ボスのHPMPとかスキルの種類とか分かんないといけないから」
「よっしゃ任せとけー」
小春も本気で不要と自虐を言っているわけではない。鑑定は重宝されている。
特に今回は雷撃の種類が似ているとあって、スキル名が見れないと対応できない可能性が高い。
「知ってる人も多いと思いますけど。
八色雷公は諸説あるものの、身体部位に対応しています」
実際に攻撃の予備動作的な稲妻は女神像の関連する身体部位の辺りで起こっていた。
特に紫苑が居てくれたシーンは好天のスキルによって余計な暗雲が消えていたため分かりやすい。
複数の映像から、右足の近辺に稲妻が走った後に黄泉軍が出現するのはほぼ確定である。
右足に対応するのは伏雷であった。
「こんな分かりやすい予備動作ならやっぱ私必要ないだろ!」
小春が再びふて寝した。
「ところが他の能力が不明なんですよ」
例えば左足、推定鳴雷。
これは光と音だけで何も起こっていないように見えるのである。
「味方強化か敵弱体化とか?」
「少なくともプレイヤーの能力値に変化はないです」
「じゃあバフかな」
そして左手、推定若雷。
これは最初のエリアでジオが一撃死した雷撃である。
「でも同じ左手の雷光でダメージ少なめな時もあるんですよね」
「隠しパラメータでジオが雷撃に弱いとかじゃなくて?」
「直前に皆と一緒にジオさんが当たった電撃も左手のやつなんですけど、その時はダメージ半分も喰らってないんですよ」
「じゃあ距離かな? 木の上にいるときに当たったのはほぼ直撃だし」
「多分? もう少し調べてみないと分からないですけど」
話し合いに弾みがついて各々が話し出した頃合いでケイがジオを突いた。
「なあなあジオ、八色雷公分かんないんだけど……何か特徴とかあるの?」
「名前も含めて諸説あるんだよなぁ……。んー……まぁボスの攻撃を予測するのに役に立つかもしれないから教えとくか。
俺の知り合いは雷の起こす被害と身体部位を対応させる暗記法が元だったんじゃないかと言っていたんで、それで説明する」
ちなみに身体部位で数を記録するのは縄文時代からあった可能性があるという。
「まず左足、鳴雷これは音を伴う雷」
「……当たり前じゃね?」
「一方の右足が伏雷。これは伏している、つまり潜んでいる雷。いわゆる青天の霹靂の事じゃないかって言うんだ。上空に雲がかかってないのに起こる落雷だな。
雷鳴がしなくても、上空に雲がかかってなくても落雷する事はある。これと対比して鳴雷と呼んだという説だ。
伏雷を知ってると知らないとでは生存率が違ったはずだ。実際、現代でも雷雲が去ったんで外に出て落雷に遭うっていう事故は起こっている」
「あーなるほど」
「左手、若雷。これは脇から来る雷。もしくは分かれてくる雷。つまり側撃雷。
木とかに直撃した後、木を伝って近くに居る人に電撃が跳んでくる現象だな。
右手、土雷。左手に対応するに、地面を伝って来るように見えた現象のはずだ。つまり、歩幅電圧による感電」
「歩幅電圧知らない」
「雷ぐらいの大電流になると、地面に接している一歩分ぐらいの違いの距離でも感電するほどの電位差が発生する事があるんだよ。
それが地面を伝ったように見えたんじゃないかって事」
「へー」
「胴体に移って三つ、上から胸、火雷多分火が出る雷。腹、黒雷多分焦げるタイプの雷」
「それって分ける必要ある?」
「口頭伝承が基本の時代だと必要だと思うぞ。「黒焦げになるが当たらなければどうという事は無い」とか思ってたら火災で焼け死んじゃうだろ」
「焦げるけど火は出ないって状況って滅多に無くない?」
「古代なら錐揉み式で火を起こすから、黒くはなるけど火は点かないってむしろ日常茶飯事だったと思うぞ。木を火であぶって加工したりするし」
「あ、そうか」
「胴体三つめは……女性器とされることも多いけど、火加具土の陰部から闇山津見神が生まれてるから……要するに股間? 腹より下、太腿より上、およそ鼠径部辺りなのかな?」
「パンツの辺り?」
「多分そうじゃないか? これは折雷、多分爆発が発生するタイプの雷」
「実は何で雷で爆発が起こるのかよく分かんないんだけど」
「例えばヒビの入った濡れた石を焚火で加熱すると爆発することがある。水が気体になることで中から強力な圧力がかかるせいなんだ。雷の高電流高電圧で岩の中とかにある水分が急加熱されて水蒸気爆発を起こすらしい」
「ひえ……」
「最後に頭、大雷。恐らく広範囲に同時に直撃する分岐放電。
諸説あるから絶対この効果って事は無いけど、種類は分かってた方がいいだろ」
「それじゃあ、あの鉄人達の足元に沸いたやつも何かの雷?」
「その可能性もあるか、何かフラッシュみたいな閃光が光ってたし……」
ジオが手元のレコードを確認してみる。
「……黒い炎より一拍遅れてるな……鳴雷かこれ……? でも他の左足が光った時は何も起こってないし……カウンター限定? いやもしかして道敷大神か?」
「それってソライロのLv2スキル?」
「そう。黄泉津大神の別名、道敷大神。
道敷大神は伊邪那岐が黄泉を旅した時の靴から生まれた神様って説もあるけど、黄泉津平坂で伊邪那美が伊邪那岐に追い付いたって話から道の神様って説もある」
「何でまたそんなややこしい由来……」
「道の女神とあの世を関連付ける神話は世界各地にあるらしいから、もしかしたらそっちから来たのかもね。エリアをまたいで追ってくるのもそれが原因かも」