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75.対黄泉津大神戦 勝てない

「『掛(か)けまくも畏(かしこ)き 見守り給う神々に 恐(か)しこみ恐(か)しこみ白(も)まおす!』」


【思兼(おもいかねの)神(かみ)   八意思兼(やごころおもいかね)】


 MP回復したジオが分析スキルを掛け直す。辺りは暗い本降りの雨の森。

 VRMMOクローズドベータ版。ボス戦。


 エリア中央に陣取る巨大な女神の彫像のような姿。対黄泉津大神(よもつのおおかみ)戦である。

 方向を変える以外に動くことは無い。攻撃は専ら像を取り巻く八色雷公(やくさのいかづち)が行う。

 現在は空全体が低い黒雲に覆われていて視認が困難である。

 

 その雨の中で目立つのはふわふわと浮く丸い炎の玉。

 ケイのスキルである。


 ボスの居るはずの位置。肩に近い辺りの暗雲が光った。


「うおおお!」


 ケイは全力で加速する。能力を一時的に上昇させるアイテムを使用し、器物型式神の腕力で体を加速した上でのガン逃げである。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   火雷(ほのいかづち)】


 ケイのかなり後方で巨大な落雷が起こり、炎が発生した。


 森の中で隠れているジオが頷いた。


「よし、火雷(ほのいかづち)は場所ターゲット型、と。

 黒雷(くろいかづち)もそろそろ来ていい頃なんだが……やっぱ時間経過で攻撃の種類に順次追加されて行くだけで、ランダムなんだろうな」


 分析しているジオに息を切らせたケイが文句を言った。


「場所ターゲット型なら教えてくれてもいいだろ!?」

「それを確認してるんだからその調子で頑張ってくれ」


 ジオがMP回復薬を飲んだ。


 ボス戦なのにケイとジオの二人だけである。

 何故なら今回は勝つ気がない。ボスの攻撃の種類や行動パターンの検証が目的である。


 ケイはシキを出していない。ボスの攻撃がシキを掠めてMPダメージが入った場合、行動が鈍るからである。

 薬師も連れてきていないのは、今回確実に全滅する予定だからである。

 経験値ペナルティが痛いが、ペナルティ無効スキル持ちの影助(えいすけ)が見つからなかったのである。多分あちこちのパーティーから引っ張りダコになっている。


 先ほどよりやや低空の雷雲が光った。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   黒雷(くろいかづち)】


「来た!」


 ケイが加速する。

 ジオの攻撃範囲を見るスキルではケイがボスのスキルのターゲットになっている。プレイヤーをターゲットにする攻撃なのは確定である。

 このままの動きなら逃げ切れる、と思った所でケイが躓(つまづ)いたように止まる。


「ふぎゃむ!」


 雷鳴とともにケイに黒い雷が直撃した。

 倒れたケイに青白い電撃がパチパチと纏(まと)わりついている。

 感電の状態異常である。


「ケイ!?」

「いだだだだ、別に痛くないけどいだだだだ……」


 パチパチしたままギシギシと、ぎこちない動きでケイが起き、へたり込む。HPダメージで立てないのである。

 感電すると行動制限がかかったように動きが鈍くなる。更に、動くと微少ながら追加ダメージが入る。


「ああ、一時強化(バフ)が切れたのか。嫌な所で切れたな」


 ケイが躓(つまづ)いたように停止したのは強化アイテムの効果が切れたため加速ができなくなったからである。


「回復薬尽きたんだけど……ってジオもか」


 ケイの場合、素早さの強化とHP、MP、状態異常回復薬の4種類を持ち込まなければいけないので、あっという間に消費した。

 一方のジオも八意思兼(やごころおもいかね)のスキルの為に大量のMP回復薬、被弾した時のためにHPや状態異常回復薬を持ってきたが、すでに尽きていた。


「じゃあ最後の検証だ。恨むなよ達者でな」

「どーせお前も巻き込まれるだろ」


 ケイの言う間に、ジオが忍者の駆け足で遠くに離れて行く。


 ケイからその姿が見えなくなった頃、大量のスキルが表示され、落雷と雷鳴が雨のように降ってきた。



【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   鳴雷(なるいかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   伏雷(ふしいかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   土雷(つちいかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   若雷(わきいかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   折雷(さくみかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   黒雷(くろいかづち)】


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   火雷(ほのいかづち)】


 ほぼ同時に空全体が閃光に、空間が轟音に埋め尽くされた。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   大雷(おおいかづち)】


 オーバーキルである。



 広場で起き上がったケイは既に立ち上がっていたジオに声をかけた。


「……やっぱジオも死んだな……」

「女神像の向いてる方向はやっぱ関係ないな……複数パーティーで別方向から攻撃しても全滅してたし」


「じゃあ練習用ダンジョンで透明勾玉狩ってくる」

「俺は拠点の掲示板に今回の情報書き込みに行くから」

「うん、分かったことあったら教えて」


 ケイがそう言った後ろから声を掛けられた。


「ケイ、今空いてる? 赤裸裸(せきらら)さん達がボスに挑戦したいらしくて、小春(こはる)達はソライロが送るから、赤裸裸(せきらら)さんと鉄人(てつと)送って欲しいらしいんだ。

 ボスエリア手前まででいいんだけど」


 サラである。ケイとサラの連携スキルでボス部屋まで行きたいという呼び出しであった。



 ケイと別れ、ジオはしきりに先程のボス戦のレコードを見直していた。

 自分の考えを整理するのもあって分析結果をメモしていく。


 ・道敷大神(ちしきのおおかみ)。ボス本体への攻撃に対して反撃として使用される。攻撃者の足元に黒い炎が灯り、骸骨型八十禍(やそまがつ)(黄泉軍(よもついくさ)?)を呼び出す。


 ・左足。鳴雷(なるいかづち)。効果不明。方向転換? 骸骨型八十禍(やそまがつ)の誘導説あり

 ・右足。伏雷(ふしいかづち)。八十禍(やそまがつ)を呼び出す。

 ・左手。若雷(わきいかづち)。プレイヤーの近くの場所をターゲットにした範囲攻撃。ダメージの振れ幅が大きい。稀に感電の追加効果。戦闘開始から1分後に使用。


「若雷(わきいかづち)のダメージの条件が分かんないんだよな……距離じゃなさそうなんだけど……」


 自分が被弾したケースも含め、複数のレコードを確認しながら新しく分かった事を追加していく。


 ・右手。土雷(つちいかづち)。人をターゲットにした固定ダメージの範囲攻撃。感電の追加効果。戦闘開始から2分後に使用。

 ・鼠径部付近。折雷(さくみかづち)。プレイヤーの近くの場所をターゲットにした固定ダメージの爆発系範囲攻撃。ダメージ量は爆心地からの距離に反比例。戦闘開始から約3分後に使用。

 ・腹。黒雷(くろいかづち)。人をターゲットにした単体への大ダメージ攻撃。感電の追加効果。戦闘開始から約4分後に使用。

 ・胸。火雷(ほのいかづち)。場所をターゲットにした範囲攻撃。落雷したフィールドに炎が燃える。炎に当たってもHPが減少する。いわゆるダメージゾーン。戦闘開始から約5分後に使用。


「弱体化ペナルティがあるから、おいそれと巻き込めないんだよなぁ……」


 ジオがペンを回す。


 ・頭。大雷(おおいかづち)。エリア全体にかかる連続大ダメージ攻撃。戦闘開始から5分後以降に使用。大雷(おおいかづち)が攻撃を受けた時など、特定条件で使用する事もある。


 なぜケイ達が緑火鳥居に避難しないでボスの大技を食らったかというと、現在これが最難関になっているからである。

 どんなに粘っても必ずこれを食らって全滅するのである。


「……今回俺らが食らった大雷(おおいかづち)一回だけなんだな……その前に黒雷(くろいかづち)に巻き込まれて死んでるけど……プレイヤーの残りHPとかか?」


 周囲の黒雷(くろいかづち)がケイとジオに集中した形である。追尾型単体大ダメージ攻撃の集中砲火である。大雷(おおいかづち)が来る前に死んでいた。




「もーちょい!!」


 一方、ケイが送っていったボス戦である。


 参加している小春(こはる)のスキルで、ボスのHPMPは見えている。

 ボス本体のHPMPは見えないが、八色雷公(やくさのいかづち)はもうほとんど撃破した。


 ゲームの仕様上100秒後に復活してしまうが、それも復活直後に叩くことでボスの攻撃を完全に抑え込んでいる。


「伏雷(ふしいかづち)復活!」


 その伏雷(ふしいかづち)も、術師の集中砲火を受け、復活したばかりの右足の暗雲が消える。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   道敷大神(ちしきのおおかみ)】


【事代主神(ことしろぬしのかみ)   青柴垣(あおふしがき)】


 術師の誰かに反撃が来る。それは秀吾(しゅうご)のスキルで阻まれた。

 防御スキルの周囲を骸骨型八十禍(やそまがつ)が取り囲むが、特殊な即死攻撃以外の能力は低い。

 プレイヤーはスキルの防壁の内側から一方的に攻撃できるため、確実に敵の数を減らしていく。


「ここまでは八岐大蛇(やまたのおろち)よりよっぽどやりやすいんだが……」

「このまま倒せるといいんだけど……」


 残るは胸の火雷(ほのいかづち)と頭の大雷(おおいかづち)だけである。


【二神連携   布都御霊剣(ふつのみたまのつるぎ)】


 スキルにより、火雷(ほのいかづち)が消し飛んだ。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   道敷大神(ちしきのおおかみ)】


「うわ」


 瞬(しゅん)の周りに赤黒い火が燃え上がる。


【黄泉津大神(よもつのおおかみ)   大雷(おおいかづち)】


 そして轟音とともに視界一杯の電撃が降り注いだ。




「八色雷公(やくさのいかづち)全部倒すんじゃなければどうすりゃいいんだよもー!!」


 町の広場で倒れたまま、瞬(しゅん)がじたばたしている。

 隣で要(かなめ)も少し疲れたように答えた。


「前回は還矢(かえしや)で大雷(おおいかづち)倒しても止まりませんでしたからね」

「連続大ダメージ攻撃ですから、HP勾玉割ってやり過ごすってわけにもいかないんですよねぇ」


 応じた赤裸裸(せきらら)がのろのろ立ち上がった。

 鷹(よう)が力無く相槌をうつ。


「倒す順番でもあるんですかね……それか、戦闘の途中で私たちが殲滅攻撃のフラグを踏んでるのか……」


 全滅である。


「あー……皆、念のためペナルティ受けてないか確認してね?」


 影助(えいすけ)である。『自分の居たエリア内の脱落者の経験値ペナルティ無効』という変わった常時発動(パッシブ)スキルで、効果時間がまだはっきり分かっていなかったりする。

 例えば好天のパッシブスキルは本人が倒れるとその瞬間効果が消えるが、まさか影助(えいすけ)本人にペナルティ無効の恩恵が入らないというのも理不尽であるせいか、少なくとも影助(えいすけ)が脱落するまでは効果が続く。

 では今回のように全員がほぼ同時に壊滅という状況ではどう作用するか、その効果時間はまだ検証不足であった。


 結局、今回も影助(えいすけ)のスキルのお陰で経験値ペナルティは避けられているが、全体的にげんなりした雰囲気が漂っている。


 勝利条件が分からないのである。


 必ず最後はとんでもない威力の大雷(おおいかづち)と、残った八色雷公(やくさのいかづち)がエリア全体に降り注いで負けるのである。


「あの巨人型がダミーで本体が別の姿とかありませんか?」


「時間いっぱい使って影助(えいすけ)さんに敵を止めてもらって、アンさんを中心に索敵した事ありますけど、それっぽいのは見つかりませんでした」

「ボスは巨人型って鑑定されてるんだよなぁ……」


 楓(かえで)の提案に赤裸裸(せきらら)と小春(こはる)が首を振る。


「あ! 途中でボスエリアを離脱してみるとか? このボス、エリア跨ぐっていう珍しい特性があるし!」


 目を輝かせて提案する小春(こはる)にちゃっと軽く手を挙げて秀吾(しゅうご)が答える。


「それはもう僕らがやってみました。恐らく最初からやり直しになります」

「だめだったかよー……」


 小春(こはる)がへたり込む。しかし阿漕(あこぎ)なことを次から次へと思いつく小春(こはる)である。


「でもさ~、もー誰かを囮にして大雷(おおいかづち)終わったタイミングでボスエリアに滑り込むしか無くね?」

「うーむ、本当にそれぐらいしか思い浮かばないのが困る……」


 連絡を取る手段がないため、実際にそんなタイミングで滑り込めたら奇跡である。


「いやしかし時間経過で使うスキルが変わってくることは分かってるので……本当に試してみますか? 全滅から脱落までは1分ありますから」


「大雷(おおいかづち)が来る直前に誰か緑火鳥居で戻ってもらって、ソライロの道敷大神(ちしきのおおかみ)で突入するとか」




 という事で駆り出されたケイである。

 ケイが頼まれた理由は、鳥居を探すために作戦に必要で、騎獣持ちで機動力が落ちず、たまたまレベルダウンのペナルティを受けてHPMPが減っていたため、ソライロの鳥居を通りやすかったからである。


 そんなわけで大雷(おおいかづち)の直前に離脱、町でソライロと合流し、道敷大神(ちしきのおおかみ)で皆の激戦の跡地に戻ってきた。


「うわー……」


 地面がえぐれ、火が燃え盛る惨状であった。


「ボス……居なくなってる?」


 ボスエリアはここのはずだが、ボスの姿は見当たらない。


「誰かが倒した……とかじゃないんだよな??」


 骸骨型の八十禍(やそまがつ)がうろうろしているのに気づき、ケイはボスエリアを離脱した。


 その後も、何事もなかったかのようにボスは姿を現した。

 どうやら大雷(おおいかづち)後に滑り込んでも戦闘継続扱いにしてもらえないようである。


 こういった調子で色々試してみるのだが、全く攻略の糸口が見えない。バグなんじゃないかとかボスと見せかけたデストラップなんじゃないの? という意見まで出ている。


 ボス戦に挑む人は減り、アイテムを補充したりレコードを確認して対策を練ったりしている。


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