59.とりあえずボス対策会議終了
VRMMOクローズドベータ版。
ボスとの初遭遇。偵察から帰って来た内容を記録映像で確認している所である。
現在、レコードの確認はケイのかかった状態異常の種類の話題であった。
「HP減少と? 視界不良と? 虚脱と? マヒ?」
「蛇の八十禍の毒って、そんな厄介だったのか」
「蛇はHP低いし、近づくと必ず鎌首持ち上げて溜めに入る。そこでサクッと切っちゃうから、まず毒食らう事ない」
「四階層より上ではいきなり岩陰から跳んできますよ」
「げっ」
四階層以降は少し難易度が上がると言われているが、こういう地味な所も強化されている様である。
「それがなくてもこんだけ一杯いたら誰かやられそうだな」
「状態異常の予防とか回復ってあるの?」
それに関しては翡翠が知っていた。
「白石2つと回復セットの竹、木の枝、果物で状態異常の回復薬ができるよ。状態異常耐性は……白い勾玉つくればいいのかな? あとで貫名さんに確認してみるよ」
「あー、白石ってそういうのだったのか」
「しかし、でかいな八岐大蛇」
「一定以上の攻撃力があれば首の体当たりは弾けるっぽい」
「それやるためには騎士の突撃並みの攻撃力が必要なわけだが」
途中で前衛の面々が突っ込んでくる首を弾いて鳥居に向かっている場面である。
その後は青火鳥居を抜けるシーン。これでボスエリアは終了である。
ジオはふと気になって聞いた。
「ケイはこれどうやって気付いたんだ? 視界0なんだよな?」
後ろから八岐大蛇の首が迫って来ていたのに気づいた件である。
「視界が無くなって気付いたんだけど、何かぴりぴりっていうか、むずむずっていうかしない?」
「全く分からん」
赤裸裸が口を挟んだ。
「ケイさん皮膚感覚が鋭いんじゃないでしょうか? ゲーム中で動きのある物体の周囲には特有のノイズが走ってるらしいんです。それがVRゲームが感覚出力する時に、微弱な刺激になるそうです」
それを聞いてジオがケイを見る。
「肌エイム?」
「何か嫌だなそれ」
一人称シューティングゲームなどで音で敵の位置を割り出し射撃を当てる技術を耳エイムという。
「あまりメジャーじゃないんですけど、アイレスサイトって呼ばれてるらしいですよ」
一方、レコードの検証は進む。
「ケイは怒っていい」
ケイの状態異常の検証を見た感想である。
「怒ったけど誰も聞かねーんだもんよ」
「まぁ、一部の状態異常を蒲の穂で回復できるって分かったのは良かったのかな」
「何だい私ばかり悪者にして」
その後は緑火鳥居で帰るだけのシーンである。
途中で小春が白い巨大剣をぶんぶん振り回し、藪の中に居た八十禍が巻き込まれている。
布都御霊剣のスキルである。
「薬師もスキルを合わせると攻撃できるんだな」
「そうみたいだけど、スキル維持するのに三人同時、この場合、瞬、鷹、小春さんが同時にMP消費していくから効率悪いんだってさ。
それに高火力の瞬も鷹も消えてるから仮に一人の戦力が2倍になったとしても二人消えたら戦力ダウン。
布都御霊剣は実質二人専用かな」
レコードの内容は一通り確認できた。
「これ、荒魂何だと思う?」
このゲームの設定では荒魂は戦争や災害を司る神様の一面である。
その力を安全に解消するために分御霊、つまり神様の分身を禍津日神として戦わせる。という設定である。
「パワフルだから手力男?」
「大穴で須佐之男」
「八束水臣津野命」
「他にでかいって言われてる神様居たっけ……?」
「でかい神様がついてなくても八岐大蛇はこのサイズだと思うんだけど」
「……夜刀神とか? 蛇繋がりで」
ケイが考察する面々の顔を眺めながら目を回した。
「九尾の狐の時もだったけど、何か知らん神様がいっぱい出てきた」
「今あげられたのは風土記の神様が多いな。俺もこの段階だと八岐大蛇に乗ってる荒魂は思いつかない」
この段階で荒魂が確定出来る事は少ない。鑑定待ちである。作戦会議はひとまず解散となった。
シアタールームを出たら池に向かう。忍者のジョブスキルの確認である。
「インストラクターオン……水蜘蛛……ああ、隠形使う時と同じ感じか」
インストラクター。ゲーム中で技などを出すためにプレイヤーを一時的に自動操縦する仕組みである。
水蜘蛛スキルを使ったらしいジオが水面に立った。
「じゃあケイ。水面跳ぶやつ教えて!」
レイはこのためについて来ていたのであった。
「いきなり実戦は厳しいんじゃないか? 俺も能力下がってるから見本みせられないし」
VRとはいえ、ずぶぬれ確定である。
ついてきていたソライロが口を挟んだ。
「地面使って加速するやつから教えた方がいいんじゃないですか?」
サイコキネティックハンドの基本技である。
「地面の加速とは手を付く角度やタイミングがかなり違うんだよな……まぁあれやらないと、無理か。
俺、バフ使わないと見本見せられないし。まず護符型か器物型の式神使って上に移動するところから練習する?」
「え? 登攀から?」
ソライロが心底意外そうな声を出した。
「登攀の動き自体はボルダリングみたいなもんだから、こっちのが体重移動のコツとか掴みやすいんじゃないかな。少なくても俺はそうだったし」
「へー」
「その後でサイコキネティックハンド使って、倒立腕立て伏せみたいにいろんなポーズでバランスとる練習してると、カーブで重心ずれた時とかも対応できるぞ」
「テレキネ殺しの練習風景、見たいような見たくないような」
「何でもいいや。教えて教えて」
数分後。ケイ達は屋根の上で愛馬シューティングスターとともに駆け回るレイを見ないことにした。
建物の屋根や壁に耐久値が設定されていなかったのが幸いである。馬が走ったら普通踏み抜くだろう。
騎獣持ちの弱点の一つは縦移動なので、それを克服できた事に関しては感謝された。
天手力男のスキル持ち限定、文字通りの力技攻略である。