57.ボス対策作戦会議の前に
「ひどい目に遭った」
「猿田彦のスキルは攻撃が集中しやすいからなぁ」
「後半はお前らのせいだよ」
VRMMOクローズドベータ版。ケイ達は緑火鳥居を抜けて町に戻って来たところである。
ボスからは逃げ切ったものの、珍しい状態異常を食らっていたせいで喜々として検証に使われてげんなりしているケイである。
「あ! 帰って来た!」
「時間かかったねー、大丈夫だった?」
広場に居たのは先に帰っていたケイ達のパーティーのサラ。そして赤裸裸達をスキルで送る途中で力尽きたらしいソライロ。その回復にまわった翡翠である。
「時間かかったのはこいつらのせい」
ケイがむすっとしながらシキに座り直した。
「何があったんです」
とりあえずレコードを確認しにプレイヤーの拠点に行くことになった。
まだ慣れない拠点の入り口を越える。
「こーれっ」
背後で聞き慣れた声が何かを叱った。
「痛っ!」
「いてっ!」
ぺぺんっと軽い音と声がした。声は鷹と瞬である。VRなので痛いわけないのだが。
その背後に居たのは、要である。
「全く、ここに連れてきたのは瞬でしょうに。
当方、勝手も分からず大変だったのですよ」
「ごめんねー…………忘れてた」
「私はあー……要さんの日程を知りませんでした」
ログイン時に探していた要の探し人、どうやらようやく合流できた様である。
「赤裸裸さんから聞きましたよ。高レベル階層に逃げ込んでいると」
「いや違うよ? マジで色々検証してただけ」
「そんな事だろうと思いました」
どうやら割と気安い仲のようである。
「当方の知り合いです」
「瑞樹鷹です。ジョブが騎士でスキルが経津主神です」
「浅根瞬。ジョブが徒士でスキルが建御雷でこれは騎獣のロク」
騎獣持ちジョブは騎士と式神使いなので瞬の騎獣ではないはずである。
何からツッコもうかまごついたところで瞬が続けた。
「あ、そうだ、レベルキャップ見つかった。レベル50」
どうやら瞬はカウンターストップ、最大レベルに到達してしまったようである。
それ以上の性能は装備型勾玉で、という事なのだろう。
「でも神スキルは伸びるっぽい。カンスト後もLv3の謎パッシブスキル出たし」
パッシブスキルで内容が書いていないため、詳細は不明だそうである。
ダンジョン内の記録、レコードを閲覧できる部屋。シアタールーム。
例によって入り口の木札でつながる部屋を変えられるため、ダブルブッキングもなんのその。VR空間の特性を生かした作りであった。
高床畳というか、腰を掛けるのにちょうどいい高さの収納付き畳が無造作に置かれている。大体畳敷きのソファー感覚である。たまに座椅子やちゃぶ台が乗っているが、座椅子等は畳収納の中に入っている。
シアタールームとは言うものの、今時は各々の手元で見たいシーンを見るのが常である。
特に今回の様に合流したり別れたりした場合、参加していたメンバーに自分たちの攻略の要点を時間付きで列挙してもらう事になる。
ケイ、瞬、ソライロが自分のレコードのデータを確認しながら壁に貼る。
「まず俺たちは俺とサラの二神連携のスキルの検証やっててー……」
「俺らは五階層で黒火鳥居を探してー……」
「俺は道敷大神の仕様変更がありましてー……」
影助が首をひねった。
「ケイとサラの二神連携、『御先に仕え奉らん』って隣接エリアに居る味方も表示されるんだよな?
ボスエリアに居る間、ボスエリアに来ようとしている瞬と鷹は表示されなかったのか?」
影助の疑問にはジオが答えた。
「合流するためのスキルだから、向こうからこっちのルートを選ぶか分からない人たちは表示されないんじゃないかな?
あくまで俺らが使う鳥居の向こうに人やボスが居るか居ないかを表示するだけ」
「なるほど?」
「仕様変更があったんだが」
と、鉄人が話を始めた。
「道敷大神。使うとHPが吹っ飛ぶようになった」
「MPも吹っ飛びましたね」
ソライロがレコードを出して補足した。
映像で確認すると、まずソライロのMPが急速に消耗していくことに慌てていた。急いで赤裸裸が抜けた瞬間、HPを喪失してソライロが倒れる。
慌てて翡翠がスキルを連発してソライロのHPを回復し、とにかく赤裸裸に事情を伝えないと、という事で、鉄人がボスエリアに向かう。
鉄人が潜り抜けた時はソライロのHPは大幅に消耗したものの残っていて、残り少なかったMPを完全に消耗して力尽きていた。
「この消耗の違いは何だ?」
ジオの疑問に赤裸裸は当たりを付けていたようだ。
「通過する人のHPMPに影響されるのかもしれません。
私、HPは四桁近いんですが、MPは低いんですよ」
「あー……」
レコードを巻き戻してソライロが消耗したHPMPを確認する。
「二人のHPMPとソライロの消耗を確認すれば、道敷大神の使用コストが分かるな」
レコードは起こったデータすべてが残っているので、視点の切り替えから味方のパラメータの変化まで見ようと思えば見れる。
鳥居を通る場面のHPを見比べていたサラが気が付いた。
「概算で通る人のHPMPの三分の一。二人とも全快状態だから瀕死の時に通ったらコスト下がるかは分からないけど」
「ボスの特性にもよるだろうけど、瀕死でボスエリアには入りたくねーな」
レコードを見ていた誰かから声が上がった。
「赤裸裸さん、鳥居くぐる前と後でちょっとHP減ってない?」
「鉄人が通った時は?」
「鉄人のHPの変化は無いよ。代わりにかMPがちょっと減ってる」
「……ソライロが受けきれなかったコストが本人に行くんじゃね?」
赤裸裸が納得する様に頷いた。
「この仕様変更は宇迦之御霊神の時にやった、二人ずつボスエリアに移動させるやつの防止でしょうかね」
「今後レベルや勾玉で強化した人をガンガン送り込めば勝てちゃう可能性が高いからな」
このゲーム、ダンジョン攻略とボス攻略で多様なジョブとスキルを活躍させられるようにバランスを構築するのを目標にしていると思われる。
「でも何気に二回道敷大神使っても同じ場所に出るんだな」
宇迦之御霊神戦ではボスエリアの違う場所に出てしまうので合流が難しかった。
今回、後から来た鉄人も先に来た赤裸裸のそばに出ている。
「んー、実はエリア内で連続で道敷大神使った検証はしてないんで、ここに仕様変更あったのかは分からないです。
消耗の他にはっきり使いづらくなったところは道敷大神で出てくる黒火鳥居、階層の火の玉が出て来なくなったんですよね」
映像で確認すると、確かに鳥居の向こうが薄っすらと見え、黒い炎に煙っているという風に変更されている。
以前は先は真っ暗、ボスの居る階層が火の玉の数で表示された。
「どういう事だろ?」
「この前、階層表示をヒントに皆でボスエリアに突入してたから対策されたんじゃない?」
「あれぐらいヒントないと合流は無理だよ~……」
「……もしかしてボスエリアの位置が階層から独立してランダムになったとか?
ケイ達のスキルの仕様を見るに、エリアを通過するごとにフラグが溜まっていって、一定以上溜まるとボス直通鳥居が出てくるんじゃないか?」
「……なるほど検証の余地ありか」
ジオが頷いた。
「つまり……皆が上階層でボスと遭遇してるからって安心して低階層を歩き回ってても、突然のボスエリアに遭遇っていう事態がある?」
「しばらく仕様を確認しないと分からないけど」
ついでにケイ達のスキルの検証結果である。
ボスエリア前にサラがダンジョンから離脱しても、連携スキルは消えない事を確認する。
「サラとケイ、二人別れても連携スキルは両方に発動するんだよな? 二手に別れれば合流早くならないか?」
しかしこの連携スキルが苦手なサラが渋い顔をした。他にも問題があることをジオが指摘する。
「そうだけど、一緒にダンジョン入らないと連携スキル使えないだろ?
二、二で分かれるとして誰が行く? 挑発作用もあるから八十禍すごい寄って来るけどサラさんはあまり戦えないし。誰にどこで会えるかは運だし」
「……確かに難しそうだな」
「せめて皆で一階層に入ってスキルで捜索してもらったらどれくらいの時間で合流できるか検証した方がいいかも」
すんなりボスまで行かせない仕様である。
そしてレコードはケイ達のボスエリア侵入へ。
「最初ボス分かんなかったんだよな」
どうせなのでプレイヤーの視点で見てもらう。
「でか!?」
「ぃえ!? 今回のボスって蛇!?」
悲鳴を上げたのはサラである。
隣の小春が同情するように耳打ちした。
「サラ、高騰する前に蛇の比礼買っといた方がいいよ。ボスエリア周辺エリアでも関連する八十禍出てくるから」
「そうする……」
顔色を無くしてるサラを見て、ケイが慌ててレコードの再生を一時停止した。
「あ、じゃあこの先見ない方がいい、マジで見ない方がいいし、サラは絶対ボスエリア行かない方がいい」