45.実践、連携スキル
純和風(?)VRMMOベータテスト。
ダンジョン一階層。
いまだにスキルの全容が不明なため、有志が検証している最中である。
二人分の拍手が揃って音を立てた。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【二神連携 御前に仕え奉らん】
いつものようにケイの頭上高くに浮かぶ、赤いまん丸の火の玉。
ケイの周囲、頭のすぐ上の辺りの高さに浮かぶ同じくまん丸い火の玉。鳥居の位置を示す淡い赤、緑、黄の三色である。
そして味方の位置を示す金色の火の粉が表示されている。
サラの周辺も同じことになっている。
「何で私まで……」
サラには不評である。恐らく敵のヘイトを買うからではなく、見た目の派手さによる気恥ずかしさの問題である。
「すごい綺麗ですけど」
縁はそう言うが、巨大ペンダントライトでライトアップ状態である。
しかもペアルックである。
何かのミュージックビデオのワンシーンでなければ、シャイな女の子にはなかなかしんどいかもしれない。
ジオが居たたまれなそうなサラに声をかける。
「あの、一方がキャンセルしてもスキル持続するか見たいからサラさん消してみてもいいですよ」
サラがスキルをキャンセルしてもケイの周りの火の玉は消えなかった。
今までのケイのスキルと同じ仕様であればこの火の玉には敵が寄って来るので、不用意に出しっぱなしになるのは危険である。この仕様はありがたいと言える。サラもほっとした顔である。
「……何か鳥居の側にすごい人集まってない?」
ケイが気になったのは黄色い火の玉の上。小さめの焚火ぐらいの金色の火が立ち上っているのである。
「……これは人の位置を示す火の粉とは違うんじゃないか?」
ジオが眺めて言った。
「そっちの赤い火の玉、黒い火が点いてませんか?」
「え!? 何これ!?」
縁に指摘されてはじめて気づく。
ケイの頭の側に浮かぶ赤い火は次の階層に向かう鳥居の位置を示している。それを囲むように、何か薄っすらと黒い炎が灯っているのである。
「……とりあえず、金色の火のある鳥居に行ってみようか?」
道中、サラは、ケイのスキルの八十禍ホイホイっぷりにまず驚いていた。
「普通、1階層でこんなに敵に遭遇しませんって」
「だから片方だけスキルキャンセルできるか調べたかったんだってさ」
ケイの言葉の意味が分かって、サラは周囲を見回した。
「確かに……薬師でこれに一斉に向かってこられるのは嫌かも……」
薬師は戦闘に向かない。威力の高い爆弾があるが、素材アイテムから生成しなければならない。消耗品であり、使い切ってしまうと隙もできる。装備アイテム枠は基本的に回復薬で一杯なため、持ち運びできる数も限られる。
サラは薬師で、天宇受売命のスキルも周囲の味方のHP自動回復とMP自動回復を増幅させるものである。攻撃性能は無い。
一方、その回復スキルのお陰でジオが思兼神のスキルを使い続けられている。
ケイを標的にしている八十禍の位置を把握できるので、撃退が楽なのである。
今も術師の縁に頼んで遠くから来る大蛇型の禍神を迎撃した。
このように補助としては目立たないが非常に優秀。しかしサラ本人は全く攻撃に向いていない。八十禍に標的にされたら苦戦必至である。
縁に寄って来る直毘神を見て、サラはまた目を丸くしていた。
ケイは縁の居ない時のドロップ率を思い出していた。
一方で安全が確保できれば薬師の出番。
アイテム収集はサラの出番である。
そんな風に苦も無く黄色火の鳥居に着いたが、何もない。
ケイのスキルにある謎の金色の火はそのまま。
しかし、本当に何の変哲もない鳥居である。
「……何なんだろうな……」
ケイは思わせぶりな金色の火を見て、辺りを見回した。
「鳥居の先に行ってみる? 同じ一階層ならいきなりボスとかないだろうし」
進んだ先も例によって平原である。
「んー……あっちに人がいるっぽいな」
ジオが、ケイのスキルの火の粉を確認しながら言った。
「翡翠さ~ん」
数分後、縁が遠くから向かってきていたパーティーに手を振った。
「縁さんも居たんだ! そっちのパーティーめっちゃ分かりやすいよ!」
「でしょうね……」
サラが呟いた。何せ巨大ペンダントライトみたいな火の玉である。
翡翠と一緒に居たのは要、楓、ソライロである。
合流して検証を進める事になり、改めてジオがケイとサラの二神連携『御前に仕え奉らん』のスキルに対する仮定を出した。
「金色の火、仲間の居る方の鳥居なんじゃないか?」
「ああ、じゃあこの黒い火は……?」
「……もしかしてボスの居る方か……」
今後、検証が必要な項目である。