26.対思兼神戦 粘る後衛
ジオの奇襲は失敗した。
素早く岩山から離脱するのが見える。
「やっぱ戦況分析系スキル、攻撃を読むやつか……。
となると倒す方法って……」
「一つは避けきれない範囲攻撃などで削ってく。
一つはMPでHPダメージを受けてるような物なので、MPダメージもろとも持久戦で削り切る。
一つはMPを削って鈍った所に高威力スキルを当てて削り切る。
これぐらいでしたっけ? 作戦で出たの」
純和風( )VRMMO。
現在クローズドベータテスト中。
所々高い崖や深い森が現れる三階層。今回のボスエリアである。
鬼型大禍津日神。
思兼神荒魂。
このゲームにおいて荒魂というのは戦いや災害などを担当する神様の力の一面である。力の一部を大禍津日神として暴れてもらい、戦うことで鎮めてもらうという設定である。
「とにかく皆揃ってからだな。
俺らはここで、出来るだけ八十禍の動きを止めると」
「ケイさんのスキルは出したままの方がいいですね。皆に場所が分からないとだし」
おさらいをしたケイとソライロは、岩場から離脱するジオの動きを見ていた。ボスは岩山から動かない。
「じゃあ俺は少しでも周りの八十禍倒してくる」
「ギン連れてってください。何かあったら呼び戻します」
ソライロは大狼型の騎獣型式神を出してはいるが、乗ってはいない。何かの弾みに移動して、スキルの発動条件を外れると困るからである。
このスキルは敵の動きを止めるものだが、発動場所からおよそ直径1メートル以上動くと解除されてしまう。そして解除された瞬間、止まっていた敵が押し寄せてくる。
別れ際ソライロが葡萄を頬張る。
「……飽きない?」
「ちょっとでもMP節約しないと……」
MP回復アイテムが心もとないので、余裕がある時の回復は素材入れに入っている食糧である。
回復量は非常に微々たるものであるため戦闘中使うには心もとないがスキルを使いっぱなしの時は気休めになる、程度の回復量である。
持っている食糧は葡萄葡萄葡萄である。
このゲームの葡萄は寒天膜で包まれたジュースを噛み潰すような食感である。
なぜならVRで食感を再現するのは結構難しい。
ちなみにこのゲームには空腹度対策におにぎりがあったのだが、ほとんどのユーザーは葡萄で空腹度を回復していた。
葡萄の方が取得頻度が高い事。食品だと装備アイテム枠を消費する事。というのもあるが、もう一つ大きな問題があった。
炊き立てご飯の香りがする甘い粘土は無理。
まさかの食味による使用拒否である。
これが食感に種類のある食品ならごまかしようもあったかもしれない。粒食はVRにおける食感再現の天敵であった。
現在は、とりあえず餅に変わっている。醤油の香りがする塩っぱい粘土である。
開発室には食感の再現の為にAIに出力させたおにぎり等をひたすら評価する役の人が居るとか居ないとかいう都市伝説がある。
「あ」
ギンが消えた。ソライロが呼び戻したのである。
ケイは一直線にソライロの所に戻る。
「ボスが岩場から降りて見えなくなっちゃいました。こっちに来るかも」
それを聞いて臨戦態勢に入る。
「シキ、後ろを頼む」
「みゃっ」
ギンも死角が無いように反対方向を見張っている。
ケイはボスの居た岩山方向に半身で構え、ソライロも護符型式神を自分の間近に展開する。
わずかな音も聞き漏らすまいと全員、無音で構える。
かなり時間が経った。風の音しか聞こえない。
別の方に行ったんですかね? と、ソライロがケイに声をかけようとした瞬間、ケイが動いた。
素早く振り返って護符型式神を自分たちの真上に展開する。同時に攻撃エフェクトが閃いた。
「やっぱり上から来ると思った!! この辺、背の高い木が多いからな!」
『この辺、死角になってるなーって分かるじゃん。それでタイミング合わせて振れば防御ぐらいできるって』
自分の目と鼻の先で防ぎ切られた攻撃エフェクトを見ながら、ソライロは以前のケイの言葉を思い出していた。
ボスはそのまま連撃を加えてくる。
棒術の特性か、突き込んでくる位置が変幻自在に変わるが、ケイは何とか護符型式神でしのいでいた。
合間にソライロの式神も参加するが、ボスは全ていなしている。
ケイとソライロにシキとギン達騎獣型式神が居る。ケイがソライロを庇っている形とはいえ実質四対一であるが、全くダメージを与えられる気配がない。
このボスには四人パーティーでも全く歯が立っていなかったので当然と言える。
「ケイさん! MPすごい勢いで減ってますけど!」
ボスの攻撃力が高く、当たった式神のダメージがケイ達のMPを減らしていく。
この前の二の舞である。
「マジで!? どうしよ」
「後ろから口に葡萄入れましょうか?」
「流石に二人羽織芸やってる余裕ないんだけど!?」
「範囲回復じゃだめ?!」というケイにソライロが困ったように返す。
「ここに来るまでに回復薬使っちゃって残り少ないんです」
「……小春の持ってた分も全部使ったもんな……」
ボスの居場所はランダムである。それを探すとなると相応に回復アイテムと食糧が必要だった。さもないと途中でやられるか空腹で動けなくなる。結果、食糧も回復アイテム枠を圧迫した。
満腹度。普段はほとんど気にしなくてもいいのに、長時間ダンジョンに居るとなると途端に気にしないといけなくなる厄介さである。
「後から来る人が補充に来てくれるはずですけど……普通はここまで来るまでにも消耗するから……」
応援がいつどれくらい来れるのか。それまで式神使い二人と、どこに居るか分からない忍者一人で持ちこたえないといけない。
「相手がこのスピードなら、俺は40%ぐらいのMPダメージかかっても対応できると思う」
「ういっす。両方60%切るかどっちかが50%切ったら範囲回復します」
ケイは気付かなかったが、自分のMPが50%を切ろうとしたその瞬間に事態が動いた。
ボスが距離をとり、持っていた杖を放り投げてきたのである。
「投擲あんの!?」
しかし軌道は若干山なり、対応できない速度ではない。
護符型式神で飛んでくる杖を払おうとした瞬間、ソライロが「右!」と叫ぶ声がした。
ケイは反射的に気配を感じた位置に護符型式神を置いて防ぐ。しかしそのまま一瞬で押し込まれるような感触とともに右肩に軽い衝撃を感じ、視界の動きで吹き飛ばされたことが分かった。
トッププレイヤーの言にこんなものがある「生木AIと戦う時は、視界を常に広く持って、多少の被ダメは覚悟して、絶対に一点を注目してはいけない」
現代口語訳した剣豪の秘伝書の様だが、れっきとした敵キャラクターAIの最高峰とうたわれる生命の人造樹AIへの対策である。
生木AIはプレイヤーの視線を読む。
それを利用してプレイヤーに一点を注視させるような攻撃を仕掛け、錯視のように盲点に入り込むのである。
対AI戦に特化した人がようやく対応できるぐらいの難易度であり、対人専門のプレイヤーは対策すら知らない事が多い。
ケイは森の中に吹き飛ばされ、方向が分からなくなっていた。
「しまった……」
ダメージによる行動制限でまともに立てなくなっている。
式神使いは後衛である。まともに攻撃を食らったらMPより先にHPダメージによる行動制限で立つことも覚束ない。
ここでソライロが落とされると、スキルで抑えていた周囲の八十禍が一斉に動き出す。




