24.一時強化と式神使い
「赤裸裸さーん! 熊出たー!」
「はいはーい」
平野でケイがスキルで敵を引き付け、赤裸裸が狩る方針が決まってしばらく。
新作予定の純和風( )VRMMO。
クローズドベータテスト真っ最中である。
恐怖症の対象である敵と初戦闘を終わらせた小春をねぎらって、ダンジョン内だが休憩中である。
「というわけで赤か紫の石20個と引き換えにバフアイテム買ってかない?」
当の小春とジオは商談の真っ最中である。
「攻撃力上げるやつある? 赤石4個と交換で」
さらっと大幅値下げを要求するジオである。
「うーむお目が高い。試しで作った奴が丁度それだよ」
小春もボッてる自覚はあったようである。
商談成立により、ジオがケイを呼んだ。
「ちょっとこれ飲んでみて」
「え? 何これ何これ? 黒い三角の……ひょうたんって事はバフだよな?」
「力上げるやつ。今のうちに作用時間測りたいのもある。自分で使うのはいつでもできるから、特に薬師に使ってもらった場合」
赤裸裸もああなるほどと合点が行ったようだ。
薬師の知り合いが居ないと回復薬も揃いにくい現状、一時強化アイテムの検証が後回しになっているのである。
「ちょっとこれ飲んで木に登ってみてほしい」
「検証だっていうならとりあえず飲んでみるけど……」
ケイの了解を聞いて、ジオがスキルを使う。
【思兼神 思兼神に思はしめ】
これで一時強化が掛かっているかどうかが判別できる。とりあえずで飲んだ薬は、ケイ曰く、「何か砂糖水?」だそうである。
ジオがステータスを開いて時刻を確認する。
「計測スタート。バフの効果に寄るけど、よくあるのは3~5分、もしくはエリア内継続ってとこだな」
そして、とりあえずで木に登り始めるケイ、踏み外して滑り落ちてくる。式神使い、騎獣持ちの特性である。手足の内三カ所が垂直面に接してないと落ちてくるのだ。
一時強化で力が上がっているらしく、途中で片手を木のコブにかけ、落下が止まる。
眺めていた赤裸裸が、ジオに声をかけた。
「私は周囲を警戒してますね」
「ありがとうございます」
ジオは赤裸裸に礼を言い、ケイに向き直って再び指示を出す。
「ケイ、次は式神使っていつもみたいに加速して登ってみて」
そして赤裸裸が背を向けた途端、背後の上空からケイの声が響いた。
「え!? 力上げると式神ってこうなるの!?」
赤裸裸が見ればケイが居るのは木のてっぺんである。
「??? どうなったんですか?」
困惑する赤裸裸にジオが答えた。
「式神使いの護符型式神、サイコキネティックハンドっていうのに似てるんですよ。それって普通、物を放り投げたり使用者を加速移動させたりできるんです。
そして式神使いのアップデートの時、運営さんは「力が弱い内は難しい」ってな事を言ったらしいんです」
「なるほど、それで強化を」
聞いた赤裸裸が興味深げに頷いた。
ジオが上を向いて声をかける。
「いつもと違うとこあるかー?」
「かなり動きが重い気がするけど大体同じー」
しかし、ケイの返事と同時にジオが慌て出す。
「あ、やべ! ケイ! すげータゲられてる! そのまま降りて来て周囲の敵相手して!」
ケイが高い所に登ったことでケイのスキルの火も上空に移動したせいか、広範囲の敵の注意を引いた様である。
赤裸裸が応戦のため身構えた。
「そんでできればバフ効果が切れる瞬間も見たいから近くに居て」
「注文が多い!!」
ジオの注文に返事をしながら周囲の敵を蹴散らし始めるケイだが、反面MPがとんでもない速度で減っていく。器物型式神の負ったダメージの様である。
「え?! 俺のMPダメージ量増えてない!?」
「増えてるな。あと5撃したら尽きそう、俺らに任せて下がっ……あ」
ケイがあっさりMP切れで力尽きた。
接触時の衝撃という換算なのか? 防御力も上げれば何とかなるのか? とにかく攻撃力が上がったらなぜかケイ本人が受けるMPダメージが増えた。
残りは赤裸裸が殲滅した。
アイテムを集めに来てアイテムを消費したら本末転倒である。
MP切れでシキが出せない間、ケイは赤裸裸の騎獣、白山羊、豪登に咥えられて運ばれることになった。
「MP切れまで頑張らなくてもよかったのに」
ジオはケイを呆れながら見つめる。ケイはというと、白山羊の鼻先で咥えられた子猫状態である。
「目測誤ったの」
MPゲージの減りにぎょっとした時には力尽きていたという感じである。
不意にジオがステータス画面を開いた。
「あ、バフ解けた。やっぱ5,6分ってとこだ」
ジオはジオでスキルでケイにかかったアイテムの効果を調べていた様である。
ケイは豪登に咥えられたままぼやいている。
「殴ったらMP減るって何なの……? バグじゃないのか……?」
「バグかもしれないけど一度運営に聞いてみた方がいいな。案外仕様かも。お前の実力だとレベル上限達したら単騎でボスと殴り合えそうだし」
「流石に多分それはない」
横で色々聞いていた赤裸裸が頷く。
「ふむ、そうなると守りと早さも上げたら本来の使い方ができそうな気はしますね」
「早さって上げるとどうなるんですか? 反応速度はプレイヤー技能だし」
「このゲームだと素早さというより加速度という感じですね。ドンッと踏みしめた時の初速が違う、という感じです」
「あー、なるほど」
しかしまともに使おうと思ったら6分で装備アイテム枠3つ消費はきつい。
とりあえず本来の目的だった小春はこの探索でダンジョンに慣れた様である。
色々収穫はあった。と思われる。
一行は緑火鳥居を抜け、町に戻った。
「これからは薬屋でもよろしくな! ってうわ!!」
小春は緑火鳥居を抜けた所で話しかけてきたのだが、言い終わらない内に飛び退いた。
すぐ後ろから馬が飛び出してきたからである。
馬上のプレイヤーは軽く謝ってきた。
「悪い悪い」
「鉄人!?」
「ジオか?」
現れたのは白髪の短髪に額当て。茶色っぽい馬に乗った赤っぽい鎧の騎士である。
プレイヤー名、荒田鉄人。伊邪那岐命のスキル持ちの騎士。馬の名前は鹿毛坊。
「赤裸裸さんだ」
「翡翠さんお久しぶりです」
鉄人の後ろに乗っていたのは魔法少女風薬師の翡翠であった。
「うおっとぉ!?」
さらに後ろから声が聞こえた。緑火鳥居を抜けてきたのだろう、基本パーティーは四人一組なのだから当たり前と言える。
ケイが振り返るとでっかい狼と目が合った。
「ソライロ、と影助? 何か珍しい取り合わせだな」
蔵面の式神使い、ソライロの式神に後ろ向きに座り、後方に構えていたドレッドヘアーの徒士、影助が刀を収めて答えた。
「俺は全滅用の保険。このメンツでボス戦行ってみたんだ」
影助は経験値ペナルティ無効、全滅しても経験値一時没収などを免れるパッシブスキルを持っている。
「へー、どうだった?」
「全然ダメだった」
ケイに答えたのは鉄人である。
詳しくはレコード、ダンジョン内記録映像を見せてもらう。その再生部屋に入って、鉄人は事情を説明し始めた。
「俺達二人はスキルが行動阻害系なんだ」
鉄人が自分とソライロを指して言う。
「ボスには行動阻害系スキルは効かなかった。そこまでは予想の範疇だから、八十禍対策していったんだ。基本的に厄介なのは八十禍だと思ってたから」
今回のボス戦では八十禍が高度に連携して攻撃してくるのが特徴である。そのため今回鉄人達はスキルで八十禍の動きを止める方針で行った。
しかしそれを封じたらボス本体が突っ込んできたそうである。
「ボスの攻撃は一部ノックバック効果がある」
映像では影助が吹っ飛ばされたりしていた。
ソライロは式神のギンがクッションになって耐えた。そこを鉄人が援護し、翡翠が回復している。
ボスの攻撃は長めの杖を使った杖術と体術を組み合わせたような風である。
鉄人が補足する。
「俺達の行動阻害スキルは発動場所から離れると解ける。スキル使用中に動けるのは直径1メートルぐらい。そこから出るとスキルが消える。
不意打ちで吹っ飛ばされても片方が対応できるように二人で交互にスキルを使ってたんだが、ボスを迎撃しようと何をやっても、器用に避けるんだ」
恐らく、映像のボスは一撃も喰らっていない。異常である。
「信じがたいけど、本体は生木AIでも、ボスのスキルがメタAIの情報を使った戦況分析・行動予測系の可能性がある」
「何でそう思った?」
「一つは接近戦だと死角からの攻撃でも対応する事」
映像のボスは背後からの攻撃を苦も無く躱していた。
「もう一つはたまに離脱する。ほら」
何の前触れもなく、ボスは森の中に消えた。
「ダメージを食らってないし戦況が変化したわけでもないのに離脱する。
接近戦ではMPを消費して何かスキルを使ってて、MPが消耗したら離脱してるんじゃないかって仮説だ」
「なるほど?」
「最終的にヒットアンドアウェイを仕掛けられて埒が明かなくなったんで逃げてきた。
待ちの作戦じゃ恐らく勝てない。ボスがMPを回復できないように攻め続けるか逃げられないように囲むかしないと」




