第7話
大男は激怒した。
大男には人並みの知恵がなかった。人並み外れた大きな体以外に、なにもなかった。
いつ、誰に捨てられたのかも分からない。ただ有り余る力で、森の獣を捉えて食い、暗い巣穴に潜む。そこにはなにもなかった。
毛で覆われた頭が、ひとつの毛も残らなくなるまでの間に、大男によく似た獣に襲われたこともあった。
それは毛で覆われた獣と違い、色々な鳴き声で群れをつくっていた。見たことのない物も沢山持っていた。得体の知れないそれらで追い立てられて、痛みで一杯になったこともある。
傷が癒えるまでは息を潜めて、獣達がちがう群れを襲うところを眺めていた。食べるために獣を襲う大男には、まるで理解できない怪物たちだった。
隙を狙って一匹ずつ殺していったのは、怪物たちの襲い方を学んだからではなく、獲物の狩り方は元々知っていたからだ。
そして怪物が棲む森として、野盗すらも近寄らなくなり、時は過ぎた。
大男は獣を喰らい寝る。何度も繰り返していた。
そこに現れたちいさな獣は、美しい金の毛を靡かせていた。
大男は初めて食べる以外の接し方を学んだ。数年後には獣から人に変わった。
人の暮らしを学んだ。村人に殺されそうになったこともあったが、金の髪の少女に救われた。
ここでは人を殺してはいけないことを、少女から学んだ。
大男は決して村人たちを良く思わなかった。村人たちにとっても、大男は気持ちの良いものではなかった。
大男にとって村にいる理由は、少女が人のなかでないと生きられないからだった。
その村が燃えていた。そして目の前では、獣に少女が襲われている。
大男は激怒した。獣は殺さねばならぬ。
獣に襲われる少女に、森では一度も感じたことのない奇妙な興奮を覚えつつ、大男はかつての獣に戻っていた。
――――――
「 ハ ゲ じ ゃ な い も ん ! ! ! 」
「いやいやいや、ハゲだろ…」
「ハゲで全裸で短剣とか…」「哀れだわ」
「おいやめろ煽んな、まじで殺される」
「待ちなさい大男、殺してはいけません」
後ろ手を縄で縛られた雑魚を引き連れて、少女は現れた。