第22話 お菓子教室
約二年ぶりの更新です
「ふぅ、、、」
一息ついたユタカは、深呼吸をし始めた。
つい先程、所見の間にてユタカはシャントルイユ帝国の皇帝と話し合いをしていたのだった。
その内容は、帝国側がセルクシロップとセルクシュガーの製造方法及びクレープの作り方を知りたいということであった。
ユタカにとってシロップと砂糖そしてクレープというスイーツを広めることが出来るチャンス。
当然、ユタカはそれを了承した。
こうしてシャントルイユ帝国がシュガー帝国とも呼ばれる日はそう遠くはない未来である。
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シャントルイユ帝国の料理長ことグレゴールに、ユタカはセルクシュガーの使い方を教えた。そしてどのような料理に合うのかを何度も試作している。
その試作の料理が出来上がる度に、ヴィレムは試食をした。元々食べることが好きな彼にとってはとても楽しみな時間である。
「お待たせ致しました。どうぞお召し上がりください」
「あぁ、いただくとするよ」
山型の頂上にある焦茶色のソースは黄色く少々弾力がある滑らかな側面を滴り落ちる。それをスプーンで、上から下へと振り下ろしすくい上げる。
スプーンの上ではプルプルと震えて焦茶色のソースと絡み合い、踊っている。
そんな、光景を楽しみながら、ヴィレムの目は子供のように輝く。直ぐさま、スプーンでそれを口に放り込み一瞬で嚥下した。
つるんと簡単に飲み込める滑らかな舌触り、一口食べるとすぐにまたそれを欲してもう一口食べてしまう。気付いた頃にはカツカツとスプーンで器を突ついて、もうそこにはそれがないことを意味していた。
「はぁ、美味しかった。また頼むよ」
「かしこまりました。ヴィレム様は、本当に【プリン】が大好きなんですね。ユタカ殿には本当に感謝しなくてはなりませんな」
「まぁね。プリンを食べたときの衝撃といったら忘れられないよ!口の中で溶けたかと思えばつるんと喉を通ってて、胃に落ち着いた時には幸せな気分になってるんだ。そしてこの甘いけど少しほろ苦さのあるソースが素晴らしい!まさか苦味が美味しいと感じるなんて思いもしなかったよ」
苦味のあるソース、カラメルソースはセルクシュガーを焦がすようにして火にかけ作ったソースである。
幸せの余韻に浸りながら、ヴィレムは呟いた。
「ユタカ殿、素晴らしいスイーツをありがとう。感謝してるぞ」
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「お、お願いします!」
店じまいをしているユタカ達の元へ、1人の女性がキレイに90度の角度をつけ、頭を下げながらお願いして来た。
「えーと、とりあえず顔を上げてください」
ユタカがそう言うと、女性は顔を上げて、真剣な眼差しでユタカを見た。
「それで、お願いというのは一体何でしょう?」
「はい。単刀直入言います。私にクレープとアイスクリームの作り方を教えてくださいお願いします」
そう言われたユタカは、当然とばかりに快諾した。
すると、、、
「あ、あの、すみません。僕にもクレープとアイスクリームの作り方を教えて欲しいのですが」
ユタカと女性の会話を聞いていたのか、少年も声をかけて来た。
「あたしもお願いします」
「おれも、おれも!」
1人また1人増え、クレープやアイスクリームの作り方を教えとほしいと頼み込んでくる。
勿論ユタカは了承した。
最終的には総勢10人にクレープとアイスクリームの作り方を教えることになった。
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「えー、それでは、皆様にクレープやアイスクリームなどのお菓子の作り方をお教えします。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
現在、講師、生徒10人、そしてシアとメルを含む13人がいる。
「お、俺を忘れるな!」
勢いよくガバッと扉を開けて駆け付けたオイゲンを含む計14人でお菓子教室が始まった。
場所は、1番最初にクレープの作り方を教えて欲しいと頼みこんできた女性が経営しているお店である。お店自体が広めゆえ厨房に全員入りきることが出来た。
「では、最初に•••手を洗いましょうか」
全員手をキレイに洗うところから始まった。
ユタカとしては当たり前のことなのだが、異世界ゆえに手を洗わないなんてことがありえるからである。人の口に入るものなので、衛生的に安全に食べられる食べ物を提供していきたいとユタカは思っていた。食中毒なんて真っ平御免である。
全員が手を洗っている間に、ユタカは必要な食材の分量を計っていた。皆が手を洗い終わり、材料を見せ作りながら説明をする。
「まずはクレープの生地から作りましょう。必要な材料は、小麦粉、牛乳、卵、溶かしバター•••そして<砂糖>です。砂糖とはミエルとは違った甘さのある調味料です。しつこくない甘さが特徴であっさりし・・・皆さん?」
生徒達の視線は砂糖にいっていた。
彼ら彼女らにとってミエル以外の甘い調味料となるものの存在は知らなかった。ミエル自体高級品なため、尚更砂糖というものが気になったようだ。ヴィレムやグレゴールらに関係する者には知られてはいるが、世間ではまだ知られていない。
そこでユタカは砂糖を3000サロ(3キログラム)程詰めた麻袋を生徒達に配った。
「えーと、砂糖は世に広まると思います。とはいえしばらくは時間がかかるでしょう。ですので、皆さんに差し上げます」
生徒達は驚いた。
世間に広まるとはいえミエル程の甘さを持つものを大量に貰えるなんて思ってもいなかったからだ。
「これは高価なものなんじゃ・・・」
「ミエル程甘いものだし、安くはないだろう・・・・」
「本当に、もらってもよいのですか?!
生徒達は安くはないだろうと予想しつつも、貰えるなら貰いたかった。
「かまいませんよ、是非受け取ってください。砂糖は素晴らしいものです。料理にも使えますし。・・・少々話が脱線しましたが説明の続きをします。先程の材料をボールに入れ、ホイッパーでよく混ぜます。ダマにならないように気をつけましょう。そして今混ぜたモノを1時間以上冷蔵庫で寝かせます。こうして時間が経ったモノがこれです」
どこから出したのか、ユタカは1時間以上寝かせたクレープになる生地を取り出した。どこかで見たことがあるようなこの展開の仕方はこの世界で知る者はいない。
「寝かせたことにより、焼く時、均一に広がりやすくなる生地となります」
薄黄色くトロッとした液体状のクレープとなる生地をレードルですくって落とし、どのくらいの粘り具合いがあるのかを皆に見せた。
「それでは、クレープを焼きます。熱したフライパンに油を引いてなじませます。そして火から外し、フライパンを水で濡らした布巾に置いて少し冷ましたら生地を流し入れます。均一に薄く広がり流れたところで、また火にかけます。ある程度火が通り生地のまわりの淵がキツネ色に色付いてきたらひっくり返します。この時、生地が破れないように気を付けてください。再度火を通せば焼き上がり、生地の完成です」
ユタカが焼いたクレープ生地は、程良く焼き色が付いた網目状の、クレープ独特の模様がついていた。
「生地が焼き上がりました。では皆さん、ここまでの工程をやってみましょう」
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生徒達は皆一生懸命真剣に、フライパンと睨めっこをしている。
どうやら焼き加減が難しいようで、焦げてしまったり、焦げていなくても焼き色がイマイチであったり、ひっくり返す時に破れてしまったりと様々。何度も練習して自身でコツを掴むしかないのである。
しばらくして、何度も焼くうちに慣れてきたのか生徒達は中々上手く生地を焼き上げてきた。
それを見ていたユタカは頷き、次の工程に移る説明を始める。
「クレープの生地が出来きました。お次はクレープ生地に挟む中身を作りましょう。生クリームとナナバを使います。生クリームは泡立てることが出来ます。こうやって…」
生クリームに空気を入れるようホイッパーでかき混ぜると、次第に粘度が増し、ツンと角が立つ程の状態になった。
「こ、これがあの【天使の口溶け】と呼ばれるものですか!」
「ふむ、これがそうなのか」
「ツヤがあって綺麗だわ!」
彼らには生クリームを泡立てるという発想はなかった。しかしユタカによってその認識は変わったのである。
「仕上げにかかります。先程焼いた生地に泡立てた生クリームとナナバを乗せ、巻きます」
くるっと手馴れた手付きで生地を巻き、お皿の上に盛り付けた。
「これは、オマケで」
ユタカは斜めに波打つようセルクシロップを
降り注いだ。そしてミントのような葉っぱも添える。
「完成です」
生徒達は完成したクレープを凝視した。
ユタカがいつもクレープとして提供してきたものと違い皿に盛り付けられており、緑色のミントのような葉っぱを乗せることでアクセントとなる。
「素晴らしい...」
「実に美しいですな!」
「ジュルリ...。凄く美味しそう!」
見た目が良いと、美味しさ倍増。見た目は大事である。
「先生!あの、先生が作ったクレープを味見したいのですが...」
ユタカはどうぞ皆で味見してくださいと言うと、生徒達は目を輝かせ物凄い勢いでクレープを口に運んでいく。
生徒達は恍惚した表情でそれを平らげ、自分達も美味しいクレープを作れるようになろうと気合いがより一層入ったのだった。
クレープの講義を終えたユタカはアイスクリームの作り方も実践しながら教えた。生徒達は興奮しながらも熱心に講義を受けたのだった。
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教室の評判が良かったのか、あるいは美味しいお菓子の作り方を教わることが出来るからなのか、それとも砂糖が貰えるからなのか。
理由はどれにせよ、口コミでユタカのお菓子教室は広まった。
噂を聞き付けた人達の要望によってお菓子教室は数日間開らかれた。
元々甘いものが好きなユタカではあるが、甘いものが続くとさすがに飽きる。
当初の目的だったメープルシロップ (セルクシロップ)を作り手に入れ、さらに砂糖 (セルクシュガー)までも手に入れることが出来たユタカは今後の方針を考える。
甘いものの次は、塩っぱいものが欲しいところ。現状としては、塩以外の調味料は葡萄酢と砂糖。他は今のところユタカは見かけていない。
「うーむ、どうしたものか」
地球にいる時の記憶を辿り悩んでいる最中、ユタカはふとあることを思い出す。
「シアとメルは私の護衛としてこの街にいてくれているんだ」
それはとても重要なことだった。