第21話 VS帝国料理長【後編】
おまたせしました、約9ヶ月ぶりの更新です。
帝国料理長グレゴールと勝負することになったユタカは、考える。
相手はシャントルイユ帝国でナンバー1の実力を持つ料理人。
パレーレ以外の得意料理2品は彼自慢の自信ある料理であることは間違いない。いくら食が発展していないからといっても、侮ってはいけない。確実に美味しい料理をぶつけてくるのであるから。
ここは全力でいかないとまず勝てない。
そう思ったユタカは普段以上に気合いを入れてその勝負に臨んだ。
1、
ユタカは手にした人参の皮を剥いた。そして長さ3センチ幅1センチの大きさに切って面取りをしたものをいくつか用意した。また余った部分を千切りにして別々にわけた。
続いて玉ねぎを千切りにしたものと、薄切りにしたものを人参と同様に別々にわけるのだが、薄切りにした玉ねぎと千切りにした人参は一緒にしておく。
表面は濃い緑色をしているが、切ると黄色いカボチャを薄切りにしておく。
紫色の外観だが切ると中は白い茄子はヘタを取って、縦に切る。そして、下部に2ミリ間隔の切れ目をいれ広げる。
生の状態だと灰色に見えるが火を通すと鮮やかな赤色になる海老の殻とせわたを取り除き、腹部分に少し切れ目をいれる。
食材には小麦粉を予め打っておく。
小麦粉に卵黄、冷水を入れてさっくり混ぜておく(どろ)。
たっぷりの油を用意し170℃前後に熱する。
あとはどろに食材をくぐらせて油で揚げれば完成である。
2、
温めた牛乳に絞ったレモン果汁を加え軽くかき混ぜる。しばらくするとポロポロと沈殿していくものが現れる。それを布巾に流し込み、水の中に入れ振り洗う。水が濁らなくなったら軽く絞る。この白い固形物は【カッテージチーズ】である。
みじん切りにした玉ねぎをしんなりするまでよく炒める。
面取りした人参は茹でておく。そしてバターと砂糖を入れ少し煮る。
タダルの挽肉が欲しいところだが見当たらなかったため、ユタカは肉を包丁を使い高速で刻み込んだ。その結果、肉はミンチ状態になった。
ミンチ状の肉に卵と牛乳を含ませたパン粉、先程炒めた玉ねぎ、塩コショウ、におい消しのためシャントルイユでよく使われているハーブを入れて、よく練る。
粘りが出てきたところで、先程作ったカッテージチーズを生地の中心に包み込むようにして、小判型の形に整形する。
小判型に整形したものの真ん中を指で窪ませ、油のしいたフライパンで焼く。
焼き色を付け焦げないようじっくりと焼く。
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料理対決をしている会場には、なんとも言えぬ香りが漂っている。
それは食欲をそそる香ばしい香りだったり、空腹をさらに加速させる甘い香りだったりと様々であった。
そして間もなく両者共に料理は完成し、今回料理対決をする原因となった人物の前に差し出された。
「ユタカ殿。3回勝負で3品目がパレーレでよいかな?」
「はい、それで大丈夫です」
グレゴールは勝つ自信があった。
対決内容が得意料理で、3品とも得意料理で勝負だったからである。
そして対戦相手は若造ときている。手さばきには少々驚いたものの、彼よりも長く調理経験を持っている自分は帝国随一の料理人。これが勝つ自信へとつなげていた。
第一品目、差し出された料理はユタカが作った料理だ。
それは小判型をした茶色く色づいたもの。肉汁を垂らしジュージューと音を立て今焼きあがったばかりであると主張している。付け合せに人参のグラッセとパセリを添えて。
「ハンバーグか。小さい頃は大好きだった…人参は嫌いだったけどね」
ヴィレムはそう言いつつナイフで、ハンバーグを切り分けると、トローリと乳白色の何かが流れ出した。若干伸びるこれは一体何なのかと不思議に思いながらも口の中へと放り込んだ。
一口、二口噛み締めるとヴィレムの動きが一瞬止まり目を大きく開く、そして再び咀嚼し嚥下した。
「このなんともいえない鼻を突き抜ける香り。ほのかにミルクの風味がしたような…けど違う味。これとお肉と上手く合わさったハーモニーは新鮮で美味しい。…後で是非この白いモノについて教えてほしいね。…あ、人参が甘い。これなら小さい頃でも食べられたかも」
ユタカが提供した料理『チーズ入りハンバーグ』はまずまずの評価を得たようだ。
続いてグレゴールの作った料理が差し出された。
赤黒い何かに赤茶色いソースのようなものがかかった料理。
「おーこれは僕の好物料理『バフォンのソテー』じゃないか」
そう言いつつナイフを使いバフォンと呼ばれるものを切り分けて口へ運んだ。
「うん、美味しい。やっぱこれだね。バフォンにかかったこの赤ワインのソースたまらないよ」
ヴィレムはグレゴールの作ったバフォンのソテーを大絶賛した。
ユタカとグレゴールの料理を食べた時の反応から判るように、
「勝者グレゴール料理長」
一品目はグレゴールの勝ちとなった。
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二品目はグレゴールからの提供から始まった。
「これも僕の大好きな料理だね」
ペロッと舌を出して自身の唇を舐めたヴィレムは、目の前に出された料理を食べたくてウズウズしていた。
親指程の長さの俵型したこれは、キツネ色の衣に包まれている。カリッとした食感、真ん中をナイフで切り開けると白と赤みのある身とが合わさったクリーミーなものが湯気を立てながら流れていく。
「はぁ、文句なしだよ。外はカリッとしていて中はカニとホワイトソースが見事にマッチしていてとても美味しい。この風味がまた食欲をそそるね」
『カニクリームコロッケ』はとても良い評価を受けたようである。
手元にあるグラスに注がれた水で口直し。ユタカの番が回ってきた。
「…素晴らしい」
思わず零れたその言葉は、ユタカの作った料理に対してである。
「綺麗だね。迫力あるし見とれてしまったよ」
赤や紫や緑などの色合いはさることながら、薄黄色い衣が花を咲かせるように華やかに纏うこの姿。ユタカが提供する日本料理「天ぷら」はまさに芸術である。
実はユタカ、地球にいたころ某スーパーのデリカでアルバイトをしていた時があった。おもに惣菜、つまり天ぷらやフライを中心に作っていた。
クリームコロッケも作れるが、難しいのだ。しかし天ぷらも衣をサクッと仕上げるのは案外難しい。ユタカはそのアルバイトの経験を生かし、日本人として天ぷらは上手く作りたい一心で得意料理にまですることが出来たのだ。
そして今その日本料理を得意料理としてヴィレムに差し出している。
「これはナスかな?…へぇ切り方ひとつでだいぶ見た目に差があるんだね。っとこれは海老だよね、こんなに姿が変わるものなんだ」
サマリの塩を付けて食べてくださいと説明し、ヴィレムは海老天から口へと運んだ。
サクッサクッと音を立て、食感を楽しみながら食べていく。
「歯ごたえというか、食感が素晴らしい。外はサックサク、中は海老がプリップリ。塩が素材の味をよく引き出してるよ」
美味しい美味しいと口に出しつつ、ナスやカボチャへ次々に手を伸ばし、ヴィレムは見事に完食した。
「最高に美味しかった。コロッケとは違う食感をありがとう」
ついにはお礼を言われる始末。
このことから判るように、二品目は
「勝者ユタカ販売員」
となった。
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最後三品目はパレーレである。
両者共に1勝1敗。
グレゴールは、勝ちは自分であると自信たっぷりである。毎回ヴィレムに差し出しているパレーレはグレゴールが作ったものであるから、勝利を確信しているのだろう。
一方ユタカは目を閉じて結果を待っていた。
ヴィレムの目の前にはユタカ、グレゴールの作ったパレーレが差し出された。長方形の上と下が茶色く中身は黄色くふんわりとしている。見た目では両者共に変わりはない。
まずはグレゴールのパレーレから手を伸ばしたヴィレム。
フォークを使い一口サイズにしてそのまま口の中へと運ぶ。
「うん、いつも食べてるパレーレだ。美味しい」
と笑顔になったヴィレムは言った。
続いてユタカの作ったパレーレに手を伸ばした彼は同じようにフォークで一口サイズにして口の中へと運ぶ。
「美味しい。そして懐かしいよ。小さい頃に戻ったかのような感覚…何でだろ、涙が出てきた」
ツーと涙の雫が頬を伝ってこぼれ落ちた。
彼は小さい頃の思い出に浸っているかのよいに、目を閉じ天井に顔を向けている。
しばらくして彼は目を開いて呟くように言葉を出した。
「今まで食べてきたパレーレに比べると少し弾力があるというか、絶妙なふんわり具合だよ。舌触りが素晴らしい。あとミエルとは違う甘さがしつこくなくとても上品だ。この甘さの風味なのかな、懐かしく思わせてくれたのは」
ヴィレムはユタカが作ったパレーレの感想を述べ、提供された分を全てを食べてしまった。グレゴール作のパレーレは半分以上手につけていない。
結果は見えている。
完食された方の勝ちである。
「勝者ユタカ販売員」
3回戦の結果ユタカは、
2勝1敗である。
つまり、
「おめでとう。勝ちは君だユタカ殿」
ヴィレムはそう言い放ちユタカに手を差し出した。
「ありがとうございますヴィレム様」
二人はしっかりと握手を交わした。
この勝敗に不満なのかグレゴールは眉間にシワを寄せるが、ユタカの作ったパレーレを食べて素直に負けを認めたという。
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「ところでユタカ殿。あんなに美味しいパレーレを食べたのは初めてだよ。良かったら作り方と材料をグレゴールに教えてやってほしいんだ。それと『チーズ』と『天ぷら』も出来れば教えていただきたい。それなりに礼はしようと思うんだけど、どうだい?」
「はい、大丈夫ですよ」
ユタカの指命は食を発展させること。これがきっかけで、新しい食材や料理が広まるのは彼にとっては願ってもないことである。
しかしそうなると『セルク』について話さなければならない。
ユタカはセルクの大樹についても詳しく話し砂糖の作り方なども順を追って語り始めるのだった。
そしてその話しは皇帝へと伝えられることになった。




