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再演  作者: らいと


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第59章 分岐

その日の夜。


 真司は、浅田から送られてきた写真を見ていた。


 旅客機から回収された部品。


 その横には、現在使われている同じ用途の部品が並べられている。


 よく似ている。


 真司には、どこが違うのかほとんど分からなかった。


 写真と一緒に、舞が調べた内容が簡単にまとめられている。


 歯数。


 穴の位置。


 固定部分。


 寸法。


 どれも大きく違うわけではない。


 だが、現在確認できる製造資料とは一致しない。


「……同じ飛行機なのに?」


 機体番号は一致している。


 そこはすでに確認されていた。


 記録上、この旅客機は確かに存在している。


 にもかかわらず、その中に使われている部品の一部が、こちらに残されている製造資料と合わない。


 真司は写真を拡大した。


 違う。


 だが、まったく違うわけではない。


 むしろ――


「似すぎてる……」


 スマートフォンが鳴った。


 浅田だった。


「もしもし」


『送ったもの、見たか?』


「今見てました」


『どう思う?』


「俺には、ほとんど同じに見えます」


『そうだろうな』


「でも違うんですよね」


『ああ』


 浅田は少し間を置いた。


『機体番号は同じだ。そこは前に確認した通りだ』


「なのに、中の部品が違う」


『正確には、こちらで確認できる仕様と一致しない』


「製造時期の違いとかじゃないんですか?」


『当然、そこも調べている』


「メーカー側の変更とか」


『それもな』


「じゃあ、まだ普通に説明できる可能性はある」


『もちろんある』


 浅田は即答した。


『今の段階で、それ以上のことを言うつもりはない』


「ですよね」


『ただ――』


 浅田の声が少し低くなった。


『舞が気にしているのは、一つの部品じゃない』


「何個もある?」


『ああ』


 しばらくして、電話の向こうで声が変わった。


『真司?』


「舞?」


『代わってもらった』


「写真見たよ」


『どうだった?』


「正直、違いを説明されないと分からない」


『普通はそうだと思う』


 真司は画面を切り替えた。


 固定用の金具。


 歯車。


 接続部分。


 用途はそれぞれ違う。


 それでも、どれも見覚えのある形に近い。


「昨日言ってた意味、少し分かった」


『何が?』


「全部、知らない部品なら分かるって話」


『うん』


「でも、そうじゃない」


『そう』


「似すぎてる」


 電話の向こうで、舞が小さく息を吐いた。


『私もそこが気になってる』


「同じ機体番号なのに?」


『うん』


「じゃあ、同じ飛行機なんだよな」


『記録だけ見ればね』


「でも中身が少し違う」


『そう』


 真司は写真を見つめた。


「偽物って可能性は?」


『もちろん調べてる』


「部品を交換してたとか」


『それもある』


「だったら――」


『ただね』


 舞が遮った。


『交換された部品が何個かある、って感じとも少し違うの』


「どう違う?」


『考え方が似てる』


「考え方?」


『例えば、この部分を固定するなら、ここに金具を置く』


「うん」


『回転を伝えるなら、この大きさにする』


「うん」


『そういう基本的な発想は、こっちのものとほとんど同じ』


「でも形が違う」


『少しだけね』


 真司は黙った。


『まったく別の技術で作られたようには見えない』


「じゃあ?」


『分からない』


 舞は少し考えた。


『違うものを作ろうとしたようにも見えないんだよね』


「同じものを作ろうとした?」


『そんな感じ』


「同じところを目指したのに」


『うん』


「少し違うものになった」


 真司はそう言ってから黙った。


 何かが引っかかった。


 同じところを目指している。


 ほとんど同じ。


 でも、少し違う。


 昨日のCognitiveとの会話が頭に浮かぶ。


 普段は認識できないもの。


 一時的に見えるもの。


 消えたのではなく、見えなくなっただけかもしれないもの。


 そして――


 平行世界線。


「舞」


『なに?』


「同じところから始まってたとしたら?」


『え?』


「この飛行機」


 真司は画面に表示された部品を見る。


「最初から別物だったんじゃなくて」


『うん』


「同じ技術があって」


 次の写真へ切り替える。


「同じ目的があって」


 さらに次。


「ほとんど同じものを作ってた」


『……』


「でも、どこかで少し違う選択をした」


『設計が?』


「設計だけじゃなくて」


 真司は椅子に座り直した。


「もっと前から」


『前?』


「技術の進み方とか」


 言葉にしながら、自分の中で形になっていく。


「同じところまで進んでた。でも、途中で少し違う選択をする」


『うん』


「その違いが積み重なったら?」


 舞は少し黙った。


『似てるけど、違うものになる』


「そう」


 真司は机の上の父のノートを見る。


「世界そのものでも同じだとしたら?」


 電話の向こうが静かになった。


『真司』


「掲示板の相手が言ってた」


『平行世界?』


「ああ」


 真司は立ち上がった。


「向こうでは日蝕が起きた」


『うん』


「こっちでは起きてない」


『……』


「でも太陽もある。月もある」


 窓の外へ目を向ける。


「全部が違うわけじゃない」


『ほとんど同じ……』


「そう」


 真司は振り返った。


 モニターには、よく似た二つの部品。


「同じところから始まって」


 少し間を置く。


「途中で分かれた」


『……世界が?』


「もし、そうなら」


 真司は写真を見つめた。


「この飛行機は、向こうにもあった」


 舞は何も答えなかった。


「同じ機体番号で」


 真司は続ける。


「同じ用途の部品を使って」


 画面の中には、わずかに違う二つの形。


「でも、少しだけ違う」


『……分岐したってこと?』


 真司はその言葉に目を止めた。


「分岐……」


 口にする。


「そうか」


『真司?』


「悪い。あとでまた連絡する」


『うん』


 通話を切った。


 真司はすぐにパソコンを開いた。


 Cognitiveを起動する。


「ひとつ聞きたい」


『はい』


「平行世界っていうものがあるとして」


『はい』


「二つの世界が、最初から別々だったんじゃなくて」


 真司は少し考えた。


「途中までは同じだった、って考え方はある?」


『仮説上、そのような考え方はあります』


「同じ過去を持ってる?」


『そのように想定する考え方もあります』


「でも、途中で何かが変わる」


『はい』


「そこから違う結果になる」


『分岐として説明される場合があります』


 真司は画面を見つめた。


「分岐……」


 もう一度、呟く。


「だったら、分かれる前のものは似てるよな」


『共通する過去を持つと仮定するなら、類似する可能性はあります』


「技術も」


『はい』


「飛行機も」


『可能性はあります』


「機体番号まで同じでも?」


 少し間が空いた。


『分岐以前に同一の履歴を持っていたと仮定するなら、矛盾はしません』


 真司の目が止まった。


「……なるほど」


 こちらの世界にある飛行機。


 どこか別の世界にある、よく似た飛行機。


 同じところから始まったのなら。


 同じ番号を持っていても、おかしくはない。


 だが――


 真司は眉を寄せた。


「待てよ」


『はい』


「それなら、もう一つ変だ」


『何がですか』


「今までのは消えた」


『何を指していますか』


「天体のずれ」


『はい』


「あの月」


『はい』


「掲示板の書き込み」


『はい』


「見えたけど、最後は見えなくなった」


『その通りです』


「でも、旅客機は違う」


『はい』


「消えてない」


『はい』


「まだある」


 真司は画面を見つめた。


「部品だって残ってる」


『はい』


 しばらく沈黙が続いた。


 天体は戻った。


 月は消えた。


 書き込みも消えた。


 これまでは、どれも一時的だった。


 だが――


 旅客機は残った。


 こちら側に。


 形を持ったまま。


「……見えるだけじゃなくなった?」


 Cognitiveから返事はなかった。


 真司は画面を見つめる。


 数秒後。


 短い文章が表示された。


『少なくとも、これまでとは異なる結果です』


 真司は何も言わなかった。

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