↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再演  作者: らいと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/60

第39章 双極

皆既日蝕から、しばらく経った。


 あの日、多くの人が見たという異常は、結局どこにも記録されていなかった。


 カメラも、観測機器も、残していたのは普通の皆既日蝕だけだった。


 一時は大きく報道されたものの、原因は分からない。


 やがて、ニュースで取り上げられることも少なくなっていった。


     *


 浅田正人は、研究室にいた。


 モニターには、世界各地で観測された雷光現象の記録が並んでいる。


 音もなく、雷のような光が横に走る。


 そして、消えたあとには何も残らない。


 正人がこの現象を追い始めた頃は、数年に一度確認される程度だった。


 それが、年に一度ほどになった。


 やがて、数か月に一度。


 最近では、世界のどこかで月に一度か二度は確認されている。


「……増えてるな」


 世界全体で見れば、まだ頻繁とは言えない。


 だが、長年追ってきた正人には、その変化がはっきりと見えていた。


 しかも、変わっているのは頻度だけではない。


 正人は、衛星の観測記録を開いた。


 初期に捉えられた熱源は、数百度程度。


 その後、五百度を超えた。


 千度。


 そして、直近の記録。


 ――一五〇〇度超。


「……また上がってる」


 別の衛星にも、同じ時刻、同じ場所で高温を示す数値が残っている。


 だが、現象が消えたあとには何もない。


 焼け跡もない。


 残留熱もない。


 高温だったことを示すのは、衛星に残された観測記録だけだった。


 正人は、過去の数値を追った。


 数百度。


 五百度。


 千度。


 一五〇〇度。


「……どこまで上がる」


 上限があるのか。


 それとも、このまま上がり続けるのか。


 正人は、一五〇〇という数字を見つめた。


 そのとき、机の上の電話が鳴った。


「はい、浅田です」


 相手の話を聞く。


 正人の表情が変わった。


「……いつですか」


 メモに時刻を書き込む。


「場所は?」


 続けて座標。


「通信が途絶えたのは?」


 正人は別の画面を開いた。


「その前後に、発光は確認されていますか」


 少し間があった。


 正人の手が止まる。


「……分かりました。記録を送ってください」


 電話を切る。


 聞いた時刻と座標を入力した。


 直近の雷光現象の記録が表示される。


 ほぼ同じ場所。


 時刻も近い。


 ほどなくして、詳細が届いた。


 一機の旅客機が飛行中に通信を絶ち、その直後、レーダーから消失。


 現在も機体は確認されていない。


 正人は黙って、過去の記録を呼び出した。


 以前にも、一度あった。


 雷光現象が確認された空域で、航空機が消えている。


 一度なら、偶然かもしれない。


 だが――。


「……二度目か」


     *


 その夜。


 真司は、自宅で論文を書いていた。


 何度か文章を書き直してみたが、どうにも考えがまとまらない。


「……ちょっと休むか」


 椅子にもたれ、冷めかけた珈琲に手を伸ばす。


 ふと、以前の書き込みを思い出した。


 真司は気分転換に、学術系掲示板を開いた。


 あれから返事が来ていないか。


 少し気になっていた。


 以前の書き込みを開く。


 ――あなたの世界での日蝕は、普通でしたか?


 その下に、一つの返信がついていた。


 ――こちらでは、皆既日蝕は発生していません。


「……え?」


 さらに、その下に続いている。


 ――次回は、約八年後に予定されています。


「……八年後?」


 真司は読み返した。


 こちらでは、皆既日蝕はすでに起きている。


 しかも、以前から予測されていたものだった。


 それが、向こうでは八年後。


 真司は返信欄を開いた。


 少し考えてから、文字を打つ。


 ――以前、僕と話していた方ですか?


 送信する。


 しばらく待った。


 返事はない。


 真司は画面を見つめた。


 以前やり取りした相手の書き込みは、痕跡もなく消えた。


 運営にも記録は残っていなかった。


 その掲示板に、今度は返事が来ている。


「……誰なんだ?」


     *


 翌日。


 真司は講義を終えると、舞を探していた。


 研究室にはいない。


 廊下を歩きながら、スマートフォンを取り出す。


 昨夜の返信は、まだ残っていた。


「あ、真司さん」


 声に振り向く。


 廊下の向こうから、舞が歩いてきた。


「舞さん。ちょうど探してました」


「私を?」


「ちょっと見てほしいものがあって」


 真司はスマートフォンを差し出した。


 舞が画面を見る。


「掲示板?」


「前に話したやつです」


「ああ……書き込みが消えたっていう」


「はい」


 舞の目が、返信のところで止まった。


「……八年後?」


「こっちでは、この前の日蝕は予定通りでした」


「じゃあ、この人のところでは……」


「起きてないことになる」


 舞は、もう一度画面を見た。


「この人、前にやり取りしてた人?」


「分かりません。それを聞いたんですけど、返事はまだありません」


「……これ、お父さんに見せてもいいですか?」


「お願いします」


 舞はスマートフォンを返した。


「ちょうど、父も気になることがあるみたいなので」


「気になること?」


 舞は一瞬、言葉を選んだ。


「雷光現象です」


 真司が舞を見る。


「また、何かあったんですか?」


「詳しくは聞いてません。ただ――」


 舞は少し表情を曇らせた。


「昨日から、ずっとデータを調べてます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。