やらなきゃならないときがある。
キャッチコピー選手権の最終審査員たちは、最終審査を終え困惑していた。キャッチコピー選手権は学生の部と一般の部と2つがあるのだが、一般の部に問題があった。
最初は、会社勤務の新人コピーライターやコピーライター志望の広告会社の社員くらいしか出していなかったこの賞だが、60年もやっていると応募者数も応募コピー数も50万を余裕で超える。最終審査は50万本全部見るわけでは無いが、今年のコピーは例年と違っていたのだ。
「コピーの質、明らかによくなってませんか? 現役コピーライターも出しているとは言え」
「そうだね、これは我々最終審査員もおちおちしていられなくなった……大体一次審査員と同じ会社であまり立場が変わらないクリエイターも応募するようなったら、出来レースを疑われてしまうかもしれない」
「なんというか……審査員とさほど変わりない立場の人も応募してると、審査の意味ってなんなんでしょうって気になりません?」
「…………」
審査員の後藤、倉田、そして審査員長の畑中が話している間、難しい顔をして応募されたコピーを睨んでいたのが花井だ。
「面白くないな」
「何がですか?」
「面白くないんですよ、審査が」
花井はひとつのコピーが印刷された紙を、手で叩く。
「なんですか、これ。皆さん見ました? 『審査員になった人間は、すでに死んだ人間だ』」って。腹立つ」
「まぁまぁ、我々はもう実際そんなに現場にいないし」
畑中が落ち着くように促したが、花井は聞いたこっちゃないという感じで続ける。
「俺だってまだまだ現役ですよ。なんで素人に負けなきゃいけないんだ。こうやって指くわえて『すごいですねぇ〜、あなたが金賞ですよ!』なんて言いたくないんですよ」
「……ふむ」
怒っている花井に、畑中は少し考えてから提案した。
「だったらさ、君もまた賞レースに出てみる?」
「え?」
「だから、もう審査員をやめて、君も賞に出すの。やってみたら?」
「畑中さん!」
後藤が諌めようとするが、畑中は止まらなかった。
「ここにいる審査員の皆さんで、『まだまだやれるぞ!』って人は審査員をやめて、来年から一次審査から応募していいですよ。なぁに、『元審査員が応募したらいけない』なんて規約ないですからね。僕らのコピーを若い人たちに見てもらいましょうや」
その場がざわつくが、しばらくすると花井が声を上げた。
「面白そうじゃないですか、やりましょうよ。それ」
「じゃ、決まり」
こうしてキャッチコピー選手権は、翌年から元審査員もプレイヤーとして参加することが決定した。
「まだまだ終わんねぇぞ!」
「おうっ!」
審査員……いや、元・審査員たちはやる気に満ち溢れていた。




