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新科学怪機≪ギルソード≫ 〜兵器宿りし少年少女〜  作者: Tassy
4.盲目少女と忠犬の絆 編
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第36章 襲撃、吸血の魔女(1)



「リリーナ=フェルメール!! 私と遊んでよ!♪


殺し合えよ!! 同じ《能力》を持った私、ゼフィーネ=クライシスとさぁ!! ァアハハハッ!!


 あぁ、私から逃げようったって無駄よ!


 アンタと同じ! この自慢の《粒子器発動の覚醒瞳(ブレイン=アイズ)》で、《ギルソード使い》の居場所なら壁の向こうだって見透せる!!


 どこまでも追い詰めて炙り出して、この《ブレイン=ギルソード》で血肉の片鱗にしてあげるわ!!


 ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒィェアァ!!」




 狂った笑い声と同時に__


 漆黒紅髪の少女、ゼフィーネの繰り出す《鎖》の束が、リリーナを覆って襲い掛かる。




(っ!? まずい……! この宙吊りの状態でっ……!?)




 それ等全てが少女の顔面に喰らいつく寸前__


 リリーナは右手に《通常槍(ランス):アゼリア》を召喚し、横一文字に振り払って、紅の《鎖》を瞬時に破砕する。


 


 (ハァ……ハァ……! やっぱりそうだ……! 《ギルソード》の遠隔操作……でも精密性、あの偽看護師のそれじゃない!


 でも……まさか女の子だとは!? あの人を囮にしてシェリーを襲った、病院テロの主犯が彼女ってこと……!?


 いや、それよりもあの女の子__!


 彼女の武器であろう《紅色の鎖》、それを自分の身体のように、自在に操っていた__!? 


 どうして、私と同じ《ブレイン=ギルソード使い》が、この世に存在して__!?)




 相手の攻撃を払った直後、片手で宙吊りのまま、リリーナは思考の解析を巡らせるや、否や__ 



 即座に少女ゼフィーネの嘲り笑う声が、間髪入れずリリーナの耳元からすぐ右隣の真横から耳元に響く。



 足場すら存在しない、高度190mの空中から__




「あれぇ? まだ宙吊りになってるの!? お姉ちゃぁん?


 《ブレイン=ギルソード使い》じゃなかったァ!? 足場作っての【空中散歩】くらい余裕じゃないのぉ!?」




 (…………っ!?)




 

 威嚇と警戒を剥き出しに、リリーナがぎっと右隣を睨んだ一寸の先に、例の主犯少女の顔面が迫っていた。



 瞬時、リリーナは驚愕して目を見開く。直ぐ目の前の少女の顔が逆さに見えたからだ。



 冷静になってその全体を見渡せば__



 つい先程、《通常槍(ランス):アゼリア》で横一文字に振り払った紅色の《鎖》、それが束になり周囲一体を浮遊して、蚕の繭のように取り囲んでいる。


 

 少女ゼフィーネは、その一本に両足を引っ掛けて、サーカスの曲芸の如くぶら下がったまま、彼女を見下している。

 



(……っく! 体力が尽きそう……目眩が……!)




 研いだ鋭利な視線をゼフィーネから放さないものの__


 額や身体中大から量の汗を垂らしながら、リリーナは左腕でぶらさがったまま、ぜぇぜぇと呼吸を荒げていた。


 いくらリハビリの成果が表れているとはいえ、彼女は先のテロ騒動から丸1ヶ月近くは、病床に伏せていた身体だ。


 怪我は治りつつあるも、まだ退院すらできていない。



 病み上がりで戦う心身の負担は、自らが想像していたそれよりも遥かに大きかった。目眩、頭痛、集中力低下という症状で色濃く表れている。


 敵の少女のように、《ブレイン=ギルソード》を自在に操れる体力も気力さえも、到底持ち合わせていなかった__




 目眩と頭痛、体重を支える左腕の痛みを必死に堪えて、リリーナはゼフィーネに怒声で問いかける。





「__貴女は何者なの!? 何が目的なのよ!?


 こんなに大勢の病人を巻き込んで__!?


 それと、その力は誰から……!?


 どういった経緯で、その《ブレイン=ギルソード》を使役できるに至ったの!?


 【製造禁止】の非人道的兵器と呼ばれた《それ》を!?」





「……ハァ? 何なの? その趣旨が纏(まと)まってない、グッチョグチョな質問攻めは!?


 頭が悪いのかしら? いや無駄に回転早いのかしら♪


 何が目的って? まずアンタ自身よ!


 あの中東地方の騒動以来、自分がS級の抹殺対象に指定されてるの、まさか自覚ないってオチ?


 その次に………! そうねぇ__?


 詳しくは教えないわ♪ 別にバレようが私の知ったこっちゃないけど……?


 なんか、お使い頼まれてたわ〜!


 確か福祉仕様に開発された【一心同体型の《ギルソード使い》】達を手に入れて来い? とかってねぇェ!!


 キャハハハハハハハハッ!!」





 __リリーナに考える隙は与えない。



 狂った闇の少女ゼフィーネは本能のままに嘲り、間髪入れず、再び周囲に漂う《鎖》を操って、リリーナを攻撃する。




「くっ……!?」




 力の出し惜しみは、死に直結する。


 不調を押し殺して、リリーナはぶら下がる左手の鉄パイプを手放し、空中に身体を晒して急降下する__





「………《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー):薔薇の蔦芽(ローズ・ジェルム)"》!!」




 魂を震わせたリリーナの叫びに呼応して__



 右手に握る彼女の槍《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》から、紅色に煌めく茨の蔦《薔薇の蔦芽(ローズ・ジェルム)》が生え乱れ、全面を覆い塞ぎ、周囲を足場として張り巡らせる。



【……ガチャア!!】 



 鋼鉄の砕ける音がした__



 瞬く速度で、茨を纏った《長槍》をリリーナが十の字に振り払い、襲い掛かる《鎖》を、再び一斉破砕した、それ__





「ヒャハハ♪ 良い感覚と頭脳持ってんじゃん!? アンタ!


 でも逃げ場はないよ!? 《鎖(コイツ)》がずっと追いかけて! その四肢を引きちぎってやるんだからァ!!」





 狂ったゼフィーネの猛攻は、留まる兆しを見せない__


 まるで狩猟を楽しむかの如く、繰り出す《鎖》の束を増量させては、獲物と定めたリリーナへと差し向け続ける。 




「……ちっ!」



 体力的にも精神的にも、リリーナは疲弊していく__



 負担を隠しきれず、小さな舌打ちを溢した彼女は、ひとまず狭い場所への退避を判断する。



 《鎖》が目前に届くや否や__


 瞬時に周囲の《薔薇の蔦芽(ローズ・ジェルム)》を蹴り伝って、下界病棟の窓へと体当りし、身体で硝子を割って屋内へと飛び込んだ。



【ガシャァアァ!!】



 硝子の破砕される音が、耳鳴りのように響く__


 窓を破った先は、病棟の廊下だった。


 飛び込んだリリーナは背中から転がり落ちたが、同時に敵の操る《鎖》もまた、同時に窓から侵入する__


 だが間一髪、《鎖》の束は、倒れ横たえた彼女の真上目前を矢の如く通過して、全てが向かいの壁に突き刺さって、動きを止める。


 故に、彼女は降り注いだのは、罅(ひび)割れた壁素材の石膏の粉だけだった。




「ハァ……ハァ……!」



 

 しかし、攻撃は奇跡的に逃れたが、包帯の取れていない彼女の身体中には赤い血と斑点が、その額や頬、四肢から全身に渡って滲み出ていた__



 それは、室内に飛び込んだ際、破った窓硝子の破片が、彼女の皮膚を切り裂いたからだ。

 

 皮膚を深く裂いたか、身体中の血の斑点は目立っていく。




「……ぁ……くぅ……! 情けない……! 療養とはいえ……しばらく実戦から放れただけで……こんな様なの……!?」



 傷の痛みも身体の疲弊をも堪え、歯を食いしばりつつ、リリーナがやっと身体を起こして立膝をついた。



 すると、その前方から__




【クゥ〜ン……! ゥウ〜ン………!】




「えっ!? セイ……バー……!? いや……違っ……!」




 彼女の正面から、小さく獣の鳴き声が聞こえた。


 シェリーの連れた白い大型犬と思い、慌てて顔を上げたが、どうやら違ったようだ。



【ゥウン……ヒスッ……フゥ……】


 

 リリーナの前には、肌色の中型犬が彷徨っていた。脚を震えながら恐る恐るこちらへ歩み寄ってくる。


 よく見れば、先のそれとは犬種も違った。



 この犬種は『ラブラドール・レトリバー』__

 シェリーのホワイトシェパードよりは小さいが、救助犬や介助犬に従事している。


 人に寄り添い、共に仕事をする程に、優しく素直な性格。


 無論、今は非常時とはいえ、病院内にイヌ科の動物が往来するのは、当然理由は1つだ。




「あぁ、大丈夫! もう怖くないよ……! ご主人様とはぐれたんだね。私がついてるから、こっちへおいで……!」




 リリーナは身体から滴る血に一切構わず、目の前の迷い犬を守ろうと、歩み寄る。


 その中型犬には朝のハーネスが結ばれ、やはり軍の医療・福祉管理機関から認定された、赤い赤十字の勲章が着けられていた。


 病院にいた誰かの、大切な介助犬、パートナーである。




 この時、リリーナは一度、周囲をより警戒する__



(__妙だけど、何故か今はアイツの攻撃が止まってる! 遠目から私の様子でも伺ってるのかな……!?


 いや、相手の能力は私と同じ! 逃げも隠れもできないし、すぐに特殊な《覚醒瞳(アイズ)》で感知されて叩かれる!


どうして攻撃してこない!? いや、私には関係ない!


 様子を伺ってるならそれでいい。その隙に私はやるべきことをやるだけ__!)





 __そう心で決心したリリーナ。まずは、目の前で震える介助犬に、そっと手を差し伸べる。





「おいで~、もう怖くないよ♪ 私と一緒に、ご主人様のところへ、帰ろう? ねっ__?」




 リリーナがそう言って、流血に濡れた右手を差し伸べた。


 その刹那__




 突如、あの《鎖》の束が怨霊の如く現れ、迷い犬の背中から腹を瞬く間に、無惨に串刺しにする__

 



【……ゥアォオ"……ォ……ン………!!】




 壮絶な全身の苦痛に、目の前の中型犬は悲鳴を上げた。


 艶やかで奇麗な毛皮と身体からは、血飛沫の花が咲き乱れ、壁や床までも血の赤に染まる。




「っ!!? えっ……あぁ……!?」




 コンマ数秒と経たない__


 あまりに速く、唐突に訪れた危機を前に、リリーナは驚愕のあまり硬直し、声を震わせるしかなかった。




 しかし、悪夢を見せつけられたのは、次の瞬間__




 《鎖》で貫かれた中型犬が、鈍い呻きを上げて、徐々に肉体の血や水分が吸い上げられる。



 干からびて、痩せこけて、艶を失い、生命にあるべき機能を徐々に静止させていく__





【……ゥ"……ゥ………ォ…………】




 瞬く間に、誰かにとっての大切なパートナーは、目の前で力尽き、醜く干からびたミイラと化して絶命した__




「……………っ!??」




 2秒と経たない僅かな時間の中__



 一体何を目の当たりにしたのか、思考回路が熱膨張を起こしたように、リリーナの脳は働かなかった。



 直後、その背後から__


 あの黒服の主犯少女、その人影が徐々にリリーナへと迫り寄り、近づく足音と共に、狂気の笑い声を響かせる。 




「フフッ……ハハハッ! 何ぃその馬鹿みたいな呆け面は!?


 何に対してショックを受けてんのォ?


 そこの犬がいきなりミイラ化したからァ!? それとも、目の前で死んでいく命を救えなかったからァ!?」


 


 目の前で命が散った。

 これは悲しみか、怒りか、悔しさか__


 感情も思考も整理できないまま、リリーナは呆然と後方を振り向いた。


 そこには、自ら操る《鎖》を身体に絡めて、依然として狂気の微笑みを崩さない、少女ゼフィーネ=クライシスの姿。



 獲物を捉えた狩人の目で、こちらとの距離を縮めていく。




「ねぇ、何をしたの……!? さっきの看護師の人もそうだけど、殺したのはアンタでしょ……!?


 何が目的かさっぱり読めないけど……!!


 どんな神経してたら、そんな簡単に命を奪えるのよ!!」




 纏まらない思考は、やがて怒りに支配され、リリーナは敵意を剥き出しに目を尖らせ、ゼフィーネを睨みつけた。


 右手にはまだ、《通常槍(ランス):アゼリア》をずっと握りしめている。武装は差し支えない__



 激情に満ちたリリーナは、一切の躊躇もなく、その細く煌めく紅色の刃で、ゼフィーネに向かって駆け出そうとした。



 その、瞬く刹那__




「__よく見ろっての♪」



 ゼフィーネが嘲笑うや否や、リリーナの左腕が突如、何かに引っ張られた。まるで巨大な杭に刺されて、引き千切られる。そうな激痛が疾走(はし)る__




「っが……!? えぇ……何が……?」




 痛みを堪えながら、リリーナは引っ張られる自身の左腕に目をやった。



 いつの間にだろうか__


 彼女の細い腕、その上腕と肘部に、太く棘で覆われた《紅の鎖》が2本刺され、皮膚内部に食い込んでいる。

 



「しまっ……!? 何……これ!? 腕の中に鎖が……!?」




「ッハハハ!! この馬鹿がっ! ホントにダッサァ!?


 犬1匹死んだ程度で、ここまで露骨な隙を見せるなんて思わなかったんだけど!?


 アンタもその横たわった残骸と同じように、全身の血液を吸い尽くしてあげるわ!!


 私の操る遠隔操作(ブレイン=)異能武器(ギルソード)、《吸血する(ヴァンパイア=)脳操紅鎖(ブレインチェーン)》で、その身体もミイラ決定ねぇ!! 


 吸収しろ! 固有奥義『吸血鬼の(ヴァンパイアズ=)貪欲(ディザイア)』__!!」


 


「ぅあ……がっ……ぃや………!」




 左腕に刺さる《鎖(チェーン)》が赤黒く変色して、リリーナの身体から血を吸い出していく。


 少女の意識は無論、視界も、身体のあらゆる感覚をも、その肌色が蒼白と化して__


 その肌艶と共に、生命機能が奪われ、蝕まれる。



(あっ……血が……少なぃ……意識……が……!)




「アッハハハハハッ!! 無様にも程があるわ!!


 世の中、良いヤツから死んでくって、ディズレーリから聞いたけど、本当だったのね!!


 恨むんなら、余計な情緒に振り回されたアンタの愚直さを恨むことねぇ!! あァ傑作ぅ!!


 ククッ! 別にアンタはそこの迷い犬みたく、一瞬では殺さないわ♪ 時間をかけて血を吸い上げて、ゆっくり干物にしてあげるから〜!♪」



 血が失われ、衰弱してゆくリリーナを、ゼフィーネはこれでもかと言う程に、毒を吐き、嘲笑う。




(うっ……くっ……! ダメ……こんな……とこで……!)




 感覚と生命機能が失われ、意識を失いつつあるリリーナは、崩れ落ちるように両膝をつく__



 自身の命が徐々に薄れゆくのを、少女は直に感じさせられていた。




 

※24/4/5タイトルを変更しました。申し訳ありませんが、ご了承の程、宜しくお願いいたします。

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