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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
1. 少年ユウキと闇社会の楽園 編
8/103

・人体兵器の乱闘(3)

◇◇◇◇◇





「…ん……んぁ……?」




 しばらく浴びていなかった日光に、眩しさを感じながら、ロザリアは目を覚ました。




 直ぐに身体を起こそうと考えたが、右足と左腕の激痛が走る上に、腹部のみぞおちにまでも、打撲のような痛みが感じられる。




 ロザリアは、しばらく起き上がるのを諦めた。




 すると、何やら揺りかごに揺られているような振動と、心地よいそよ風が感じられ、さらには波音まで聞こえてくる。




慌てて回りを見渡すと、いつしか自分はパレルモ港に浮かぶ小型のボートに揺られていた。




しかも、そのボートと来たら、どこぞの客船に備えられた『救命ボート』のような、お粗末な合成不純物で造られているではないか。




 ロザリアは、自分が気絶する前の記憶を脳内で遡ってみた。



 そう、自分の命を貰おうと宣誓した、東洋人のマフィア男の姿が脳裏を過る__




 記憶が曖昧だか、マグナムで左足を撃って行動不能にしたかと思いきや、これまで見たことのないほどの、奇怪でおぞましい形と機能を持った拳銃で、命の危険に晒された__




 しかしながら、記憶が確かなのは、そこまでのそれである。




 ならば、一体どうやってあの危機から助かったのか。



 それを思い出そうとすると、ボートが縛られた先の桟橋から、年上の少年らしき話し声が聞こえてきた。




「……だからさぁ、お前もいい加減に切り替えろドアホ! 第一俺らが上陸する前から予定は狂ってたんだ! 分かるだろ? ドアホ! お前はブラック上司に加えて無能上司ですか!? お前は!?」




 その声は、聞き覚えのあるどころか、ロザリアの耳に焼きついて放れなかった筈の、忌まわしく思うそれであった。




 声を聞いた瞬間、己の腹部が痛む原因と、胸に染みる程の恥辱的な抱き方をされた記憶が鮮明に甦ってきた。




 ロザリアは手足の痛みを忘れ、思わず軽快に起き上がった。




 すると、正面の桟橋に座って電話をしている少年の姿を、はっきりと目視することができた。




 黄色いブレザーコートに黒いパンツ、中でも特徴的な外見は、怪しく彩られた赤紫色の髪と瞳__




 ロザリアはその外見を確認するなり、自身の記憶上の一致を再認識すると、気絶寸前での彼の仕打ちに対し、怒りと殺意が込み上がってきた。




「まっここは一旦俺に任せ……んっ? よう! お目覚めかお姫様?」




 ふと少年ユウキが、こちらに気がついたように振り返った。




「えぇおかげ様で……最高によく眠れたわよ……!」




 ロザリアはゆっくりと立ち上がりながら、黒いコートの内ポケットから、折り畳み式のポケットナイフを取り出した。




 先程の、マフィアの男相手には、世にも奇怪な拳銃を向けられた故に、使う手段が見つからなかったが、自慢な金色のマグナムだけでなく、マフィア足るもの、ナイフの一つは携帯しているものなのだ。





「おい怖ぇよ……何だよそれは? なんでナイフ持ってんの? なんで怒ってんの?」





「記憶を辿りなさいよ!…… アンタ随分と舐めた真似してくれたわよねぇ……!!」




「あぁ、心当たりあったわ。腹殴った件か? それはだなぁ……ちょっと企業秘密的なものがあったんだよ……な?」




「そんな理由でこの私を殴ったの!? いい度胸と神経してるわよねぇ!? 私はこれでも上流マフィアの令嬢なの! アンタ少なくとも無傷無血じゃ絶対に済まさないわよ……!?」




 完全に激昂したロザリアは、ナイフの刃先を容赦なくユウキを目掛けて突き刺そうとする。




「危な!! 待て待て待て! なんで恩人の俺が襲われなきゃならねぇんだ!?」




「アンタの無礼極まりない行動が原因でしょうがァ!! 命差し出して償えっての!!」




 すっかり混乱するユウキに構うことなく、ロザリアはナイフを縦横無尽に乱舞させる。




「だからやめろって! ……ちっ! 仕方ねぇ……!!」




「…………!?」




 刹那、ロザリアは右手に持ったナイフを、少年ユウキに素手で握られ、取り押さえられていた。




「なっ……! アンタ……!」




「おいおい……! なんでこんな可愛らしいお嬢様がマフィアやってて、かつ武器も普通に持ち歩いてんだよ。この街ヤバすぎんだろ!


まぁ残念だけど、《俺たち》にとって、普通のナイフや拳銃は『玩具おもちゃ』同然なんでな……!」




ユウキはそう言うと、手に掴んでいたナイフの刃先を握り潰し、粉々に破砕した__




刃先は鉄屑と成り果ててユウキの手から零れ落ち、そのまま風に飛ばされ、灰色の海へと散っていった。




「っ…………!?」




 ロザリアは、得体の知れないものに対する戦慄を、再び思い知らされた__




東洋人のマフィアに襲撃された際の、意図も簡単に粉砕された自前のマグナムと、あの酷く奇怪な『壁にめり込んだ銃口』を目視した記憶が、映像の如く彼女の脳裏を過った。




「あ……あの……聞きたいんだけどさ……」




 思わず身体が震えてしまうが、なるべく我慢しながら、ロザリアは少年ユウキに問いかけた。




「アンタ達は一体何者なのよ……? それに……! あの男はどうしたの?あの「壁から生えて突き出た拳銃」は一体何なの……? そして何が目的でこのシチリアに上陸してきたのよ……!?」




 やはり自身の脳内での情報整理もままならないのか、質問の内容なども具体的まとまらずに、思い立ったままに口を開いてしまった。




「まぁ、そんな慌てなさんな。もうそんな気を張る必要はねぇんだから……!」




 ユウキは両手を頭の後ろに組んみ、混乱しているロザリアをよそに、リラックスするような雰囲気で言った。




「アンタは確か、あの東洋人マフィアに狙われていたよな。安心しろよ! アイツならもう死んでるぜ!」




「は……!? しっ……死んだ……って!?」




「そうそう! なんつーか、あの壁から寄生虫みたいに生えた《拳銃》みたいなのあったじゃん?


あれに自分から突っ込んで自滅して勝手にに蜂の巣になったってワケ! 下衆野郎だったとはいえ、哀れな最期だったよ」




 あっさり酷いことを言い放った……と、ロザリアは思ったが、自身が気絶していた際の出来事らしい。


 行動はどうあれ、命を助けられた事には、ひとまず感謝さねばなるまい__



 いずれにせよ、このユウキとかいう少年が、とりわけイレギュラーかつ、あの男と《同類》であることは、ナイフを片手で平然と砕く行為からして明確である。




 ロザリアは、刃の折れたナイフを海へ投げ捨て、今の状況を頭の中で整理しようと試みた。




 ……とは言うものの、いくら命を助けられたとはいえ、あの男のような怪物と同類のような奴と一緒にいるのは御免だ。




 これ以上、この者達に関連するような事柄など、考えてやる義理すらもない__




 ロザリアは、怪我をした片足を引きずって、そのままパレルモの海岸をあとにしようとしたが、瞬時にユウキに呼び止められた。




「ちょっと待った! 俺はまだお嬢様の質問に答え終えてないぜ。それに、ちょっと聞きたいことがあるんだよ?」




「え? あぁ、そうだったのね……!」




 彼女はため息をついて、嫌々足を止めた。




 だか次の瞬間、何故だかユウキは、表情を崩したような歪な微笑を見せ、少々威圧的な態度でロザリアに問いかける__




「アンタさぁ、マフィアの娘様なんだろ? 今アンタの一家ファミリーが、一体何どういった代物を取引しようとしてるか、何か知ってるか?」




 何を言い出すかと思えばそんな話か……と、ロザリアは落胆した。




 いくら自身が大規模なマフィアの令嬢であるとはいえ、まだ14歳の小娘だ。




 父をはじめ、この島のマフィア達が、一体どのような違法取引や悪質商法で稼いでいようとも、これまでは自分の知ったことではなかったのだ。




 知っているとしても、どうせマフィアのやることなのだから、武器や麻薬の取引・密売、また人身売買などの、至って日常的な商売にでも精を出しているのだろう。




「さぁね! 生憎だけど、私はマフィアが嫌いだし、ソイツ等のえげつない事業ビジネスにも興味ないから! 私は何と言って知ってるわけじゃ……!」




 知っているわけじゃない……ロザリアはそう台詞を言い終えて、この得体の知れない少年との関わりをきっぱり無くそうと思った。




 しかし、ふと記憶の片隅に残っていた『ある言葉』が、彼女の脳裏に木霊する__




 

【なぁお前……《人体兵器》ってヤツが実在したら……信じるか?】





 それは、数時間前の旧大聖堂(カッテドラーレ)にて、ライバルファミリーの次期頭領、ローツェが言っていた台詞であった。




 それを聞いた当初は、全く理解できず、気にも止めなかった。




 それが今になって、ロザリアはその言葉の意味をようやく理解し、記憶に思い起こしては背筋が凍る。




 もし今回の取引で、あの東洋人の男はもちろんのこと、この少年も同じく持っているであろう、あの奇怪で気味の悪い《異形の武器》を購入するとなれば、島中のマフィア達が、あのような化け物になるのだろうか。




 それが現実となれば、これ以上に身震いする悪夢は存在しない__




「……どうしたよお嬢様? 別に喋ったら殺されるとかそういう事情なら、もう喋らなくていいぜ? 他を当たるだけだ……!」




 暫く微動だにしないロザリアの気を察したユウキは、頭の後ろへ組んでいた手を解き、ゆっくりとその場を立ち去ろうとした。






「………待ちなさいよ!」




 ロザリアは、ユウキがボートを泊めた位置から離れようとする寸前で、衝動的に叫んで呼び止めた。




 この時、少年ユウキに対する憤慨と嫌悪に満ちたロザリアの感情が、いつしか期待と好奇心に変わっていたのだ__




「……状況がコロコロと変わっていってさぁ……! 私も頭がパニックで訳が分からないのよねぇ? でも! こういった状況でもさ? お互い何かの因果があってだと思うし……どう?


 アンタの求めてる答えは持っていないけど、調べる協力くらいはしてあげてもいいわよ?」




「何だァ!? 何やら気前の良さそうな台詞を期待してもいい感じがするんだが……?」




「えぇそうよ。でも相応の条件はあるわね?


アンタさぁ……この島の目的が済むまでに、私に雇われる気にならない?


 アンタは今晩の食べ物と寝床、何よりも目的の手掛かりが必要でしょ?


 私は狙われてるから、命を張って守ってくれる『護衛(ボディーガード)』が必要だし……!


 ほら! アンタと私、お互いに有益な関係になれると思わない?」




 そう言葉に表したロザリア表情は、ユウキのそれと同じく、歪んだ笑顔で彩られていた。




 自身の大嫌いなマフィアの忌々しい暗躍行為とその企みを、何よりも取引の内容とその代物である『兵器』の正体と所有目的を、このユウキと名乗る少年を使って暴き、あわよくば島の平和のために妨害できるのではないか。




 さらに幸運が降り注ぐのなら、マフィア達が維持する『勢力の均衡』を破壊し、マフィアによる独裁的な政治をも揺るがす事すらも可能であろう___



 いつしかロザリアの心は、そんな野心に満ちていた__




「へぇ? そいつは光栄なお言葉だ! 俺はアンタの護衛(ボディーガード)とやらを務めればいいのか?」




「そうね、取り敢えず私の身の安全保障を、しっかりとね!


 まっ、そんなわけで、改めて私の名は、ロザリア=ヴィットーリオよ! ロザリアでいいから、よろしく!」




「改めまして、ユウキ=アラストル! お見知りおきをってな!」




「まっ取りあえず、少し街を案内するわ。お父様は会合の最中だから家には帰れないし、何より調べたい事がいっぱいあるんだからね!」




「お好きにどうぞ? 喧嘩の強い人間が傍にいれば、ひとまず安心だろ?」




「ふふっ、サンキュ♪」




 互いに名乗り合った二人は意気投合し、そのままボートを泊めた桟橋とパレルモ港を後に、中心街へ赴く。




 しかしながら、状況の把握は未だ困難を極めている。




 今このシチリア諸島で、一体何が起きているのか__




 このような状況下で、少年ユウキを受け入れたことは、正しい判断なのか間違ったそれなのか__




 事態の全てを理解し、分析し、掌握することは、この時のロザリアには叶わなかった。



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