第3章 人体兵器の乱闘(1)
ディムール=サマルカンド(40歳前後)
〈ヴェルニーニ=ファミリー〉に雇われた傭兵マフィアではあるが、実は〈とある国際テロ組織〉から派遣された一員であり、超兵器≪ギルソード≫を所有している。
所有ギルソードは《増殖の小型拳銃 (インクリーズ・ハンドガン)》
《特殊能力》と呼ばれる固有能力が備えられており、《“ナノマシン”》で造られた弾丸が、生物の肉体以外の構成物体に被弾した場合、胞子の如く寄生し、繁殖して拳銃銃口と姿を表し狙撃できる《壁の銃口》を生成できる。
※《ギルソード》に関する詳しい解説は、次回の本編にて説明してまいります。
物音一つ響かないパレルモの市街地に漂うのは、まるで戦慄に捉われるような、無音と静粛__
少年、ユウキ=アラストルは、煉瓦造りの建物の屋上から薄暗い一本の路地道を、狩人のような目つきで見下ろしていた。
目線の先には、東洋人の系統であろう、マフィアの男の姿がある__
黒いネクタイとビジネススーツを身に纏った男は、側壁にもたれ掛かり、足下に大量の血溜まりを作ったまま、野獣のような眼光でユウキ達を睨みつけていた。
「……お前、一応名を聞こうか!? 俺みたいな化物に喧嘩売った怖いもの知らずだからよォ! 敬意を表してやるぜ!」
男は静かに口を開く__
「フンッ! お褒めに与り光栄なことだ! 俺は『ユウキ=アラストル』! 以後、お見知りおきを……ってな」
ユウキもまた静かに、威圧を込めた台詞を返す。
静かに鋭く睨み合う両者は、互いの剣幕な表情をより一層固めていく。
「……あ……あのですね……助けてくれた所ありがたいんだけど……まずは降ろしてくれないかしら……?」
手元に抱かれた少女が、苦情を漏らす。
ユウキは先程から、男から助け出した少女、ロザリア=ヴィットーリオを姫君のように抱き抱えていた。
二の腕と脚部の脹脛に、銃弾による怪我を負っていたが、そんな状態に似合わぬしかめっ面で、堂々とユウキに訴えかけていた。
「あぁ悪い悪い、忘れてたぜ。つーか、随分とヤバい状況に陥ってるよなアンタも……! 今降ろすけど、立てるか?」
「あら紳士的なお言葉……素敵なことね……」
社交的な礼を言ったロザリアだが、手足の痛みは予想以上に激しく、思わず「いっ……!」と痛々しい声を漏らしてしまう。
しかし、彼女の内に宿る、マフィアの令嬢という誇りとプライドは揺るぎなく、意地でも自力で立たんと、懸命に足を地につけようとする。
刹那__
ユウキは突如血相を変えて、これを阻止するかのように、彼女を抱え込んで後方へ回避した。
「えっ!? ちょ……!!」
一瞬の内に、ロザリアは唖然とした__
この約コンマ数秒の間、少年ユウキが足をつけていたその場は、閃光を纏った弾丸が八方から飛び交い、鉱物が砕けるような破壊音と共に、無数の弾痕がその地に刻まれた。
「おいおい、ユウキのお兄ちゃん? 俺がそんな暇を与えると思うかい?こりゃ流れ的によぉ! 二人まとめて蜂の巣化決定だろうがぁ!!」
男は愉悦に浸ったような表情で、手に持ったベレッタ型拳銃(《ギルソード》の本体)の銃口を屋上に向ける。
「えっ……なっ何? 何が起きてるの……!?」
「あの野郎……! あの《前代未聞の超兵器》の使い方を一端に習得してやがる……!!」
ユウキは強張った表情に変えて、周りを再確認するように見渡した。
四方はこの屋上と同じ高さの建造物が立ち並び、その屋上までの距離は目と鼻の先だ__
目を凝らせば、正面には煉瓦と煉瓦の隙間に塗られたセメントから、銀色の銃口が銀色の光をちらつかせ、こちらを覗いている。
また右方にも、花を咲かせたプランターから、そして左方にはインテリアとして置かれた女性の石像の腹部から、拳銃の頭部のみを切り取ったような《壁の銃口》が5.6本、それらの場所から無性植物のように、煉瓦壁から顔を出していた。
「いいねぇ、この《ギルソード》ってヤツを授かったおかげで、俺は生涯でこれ以上にない幸福を手に入れた! こんな超絶ハッピーな気分は一生涯感じられんだろうよ!!」
「へぇ!? そりゃおめでたい話なァ祝っておくぜ! これでアンタも殺戮兵器の人生確定だなァ!!」
「ククッ……ハハハッ!! 吠え面見せやがれクソガキィ!!」
男は、この世の欲を掌握した王のような、傲慢なる笑みを浮かべ、所有するギルソードである《増殖の小型拳銃》のトリガーを引いた。
《壁の銃口》は薬莢の匂いと轟音を震い立たせ、目視確認した限りの各所定位置に顕在する地点から、一気に銃弾を炸裂させる。
「きゃァ……!!」
抱き抱えられたロザリアが、悲鳴を上げて肩に掴みかかる刹那、ユウキは俊足なる回避運動で、傍にある階段通路口の陰に滑り込んだ。
瞬時に回りは轟音に包まれ、煉瓦やコンクリート、花瓶などが大量に砕け散る様が伺える。
「ねぇ何とかならないの……!? 私ここで蜂の巣になるの……まっぴら御免よ……!」
ロザリアはすっかり涙目になって、ユウキに訴えかける。
「あっ? なるぜ? 何とかね♪」
「そんな……! ……って? ……なるの!?」
「大丈夫だ、アンタが目を覚ましたその時には、少なくともこの悪夢は収まるぜ?」
ユウキはニッコリ微笑んでそう言い放ち、震えるロザリアを安心させると、徐に拳を突き上げて、ロザリアの腹部に直撃させる。
「ぐっ……! かはっ……!」
ロザリアは嘔吐を起こすような声を上げた直後、その場でぐったりと全身の筋力をユウキの腕に預けた。
ユウキは気を失ったロザリアを、比較的瓦礫やガラスの破片などが散らばっていない所に横たわらせる。
そして、極端に薄型なスマートフォン端末をポケットから取り出し、それを耳に当てた。ある者へと連絡を繋げた。
「悪いなァ、こっから先は重要機密だから、見られたくねぇんだ……! 勘弁してくれよな……!
さて……! キルトの野郎は応じねぇな、寝てんじゃねーか!?」
『……起きてるぞ! おいユウキ! お前、シチリア島に上陸したら真っ先に連絡しろと言っただろ! 今まで何をやっていた! まさかマフィアと一悶着起こしたんじゃないだろうなァ!?』
応じられて早々、乱射される機関銃のように説教を食らう。ユウキはあらかじめ想定はしていたが、(やっぱりブラックな営業の上司かよ!)などと、思わないことはない。
「ったく、四六時中うっせーなオイ! 大正解だがどうした! まずは、お前の愚痴説教は後回しな!」
『あっ!? お前本当に殺すぞ!』
「……1つ目の《ギルソード》見つかった! なんかマフィアらしき男に使われてやがる……!」
『何……!? クッソ……! 遅かったか!!』
キルトと呼ばれる電話の相手は、最悪の予感が的中したと言わんばかりに、その場で5秒ほど沈黙する。
「こうなったら仕方ねぇよキルト! 俺はあくまで目の前の事実を述べたまでだ。残された手段は決まってる!
《人体兵器》ってのは、『生きている』こと事態が一番の弱点だからな……!
方法は1つしかねぇだろ……!」
ユウキはそう言うと、電話を切って立ち上がった。
そして己が左手の握った拳を天に突き上げ、思惑通り事を進める絶対の自身を象徴するかのように、うっすらと微笑を浮かべた。
「何も《ギルソード》を使えるのは、お前だけじゃねぇんだよ!意味は……その身を以って分からせてやるぜ……!」




