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新科学怪機≪ギルソード≫   作者: Tassy
3.〈新都市マリューレイズ〉と武装組織の逆襲 編
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・海上の襲撃者(2)


「なぁリリーナ、奴はこのクルーザー破壊するんだよな?」




 ユウキはリリーナに問う。



 2人は床に身体を伏せたまま、操縦室の壁面や船内の隙間等を隈なく見渡していた。





「うん、この《ナノマシン》は、《拳銃型のギルソード》だけど、その※特殊能力は寄生体みたいに、壁に限らず物体があれば、そこに無限に装備を《増殖》させる能力なの……!



 《寄生》して《銃口》が出現する箇所には、本来ナノマシンが密集する前兆が必ずあるけど、残念ながら、これは異常な速さで《ナノマシン》が増殖し続けたから、今はこの船の何処もかしこもその腫瘍だらけ。


 

 この反応……間違いなく藤壺のように、一斉に《銃口》が繰り出されるわ……!



そして、敵は前方100m先の位置まで、船か何かを出して、そのまま私達を見ている……!」




「……なるほど! 遠隔攻撃で後は高みの見物ってか……? だが大体分かるぜ。奴の《ギルソード》の特性くらいは……!

なぁリリーナ、3、2、1の合図で、一気に船の外へ脱出できるか?」




「うん! 任せ………っ!? ……来る!!」




 リリーナが微笑んで返事をすると同時に、《壁の銃口》を形成する《ナノマシン》は、ついに彼等を葬るべく作動する。



 瞬間的な作動だが、その瞬時に船は《壁の銃口》で覆い尽くされ、一斉射撃をお見舞いするだろう。




「行くぜ……!」



「うん……!」



「 3……2……1……!」




 ユウキが出す合図と共に、リリーナは海に向かって叫びだす。



「《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》アァ!!」




絶叫ど同時に、クルーザーのデッキから50cm先にて、紅色の《ブレイン=ナノマシン》が出現、結合する。



 瞬く間に槍の形状が形成され、刃先がツツジの花を象った長槍、《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》がそこに姿を現した。




「でかしたぜ! リリーナ!!」




 ユウキは即座にリリーナを抱き抱えて、クルーザーを飛び降りて大海原の方へと飛んでいく。



 海へ飛び込んだのではない。ユウキが飛んた2m先に、リリーナが遠隔操作でこさえた《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》が浮遊していたので、そこを足場にするべく飛び移ったのだ。


 刹那、《紅の槍》へ着地したと同時に、船内一体を覆い尽くした《壁の銃口》が一斉砲火をしたのだろう。



 一瞬で船は穴だらけの蓮根状態となって、爆炎の炎に消えていった。




「……ふぅ! 間一髪だな……船…跡形もなく消し飛びやがったよ……! 味方がいたのにお構いなく消し飛ばすなんざ……そのイカれ具合は相変わらずだな……!」




「ユウキ、ここで足のバランスを取ってくれない? この《槍》で島の港まで運んでいくから……」





 リリーナが言うと、ユウキが足で乗っている《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》は、ゆらりと空中で動き出し、そのままビル群が目立つ人工島、〈新都市マリューレイズ〉の方角へと、時速20kmと低速で進んでいった。





「……油断しないで……! まだ敵の《ギルソード使い》の位置が、私の《目》には見えてるから……」




「あぁ、どうやら辿り着くまでには、もう一波乱ありそうだな……って……何だ? ……魚が死にまくってんぞ……?」




「へ……? 魚……?」





 ユウキとリリーナは、ふと下の水面に目をやると、その異様な光景を気味悪がった。



 水面には、大量の魚達が大量に死んでおり、鱗を水面から出して浮き上がっていた。



 まるで、旧世紀の時代に、大量の液体廃棄物を海に流れ出た際の、汚染された当時の海そのものの光景だと思えてしまう。




「酷い……どうしてこんな……! ………っ!?」




「……毒物でも海面に撒き散らしやがったのか……!? それも何の為に………!」




「………決まってんだろ! あの世の旅路のお供ってヤツだ……!!」




「……あっ!? この声知ってるぜ!?」





 まだ距離が遠いので微かだが、男の声が水面の方から聞こえる。やはりシチリアで聞いた、悪寒の走る声だ。

 


 声のする前方11時の方向に視点をやれば、間違いなく、シチリアではっきり覚えのある外観の、男性を姿が目に入った。



 どこから拾ったのか、漁業用の小型ボートにのって、こちらを高みから見物している__





「ユウキ……早くここを……!」




「……アクバル=シャンデリゼか……? 嘘だろ……ゾンビにでもなって復活したか!?」




「……それはお前が殺したprototype(兄さん)の名前だ! 俺はその『クローン人間』で、名は『アクバル(ツヴァイ)』。そして亡き彼の仇を討つべく……この俺とこのギルソード《増殖の(インクリーズ・)小型拳銃(ハンドガン)typeReturn(タイプリターン)》で殺す……!」




 そう言って、アクバルⅡと名乗る男は、何の合図なのか、右手を振り上げる。



 そして、親指と人差し指をパチリと弾く仕草を見せる直前__


 



「ユウキ!! 早くここを離れてよ……!!」




 リリーナが必死さに駆られた顔で絶叫する。




「離れる……? って …………何っ!!?」




 水面を見た瞬間、ユウキの背筋は凍てついた。



 すでに敵の《ギルソード》は、魚の死体に取り付いていたのだ。



 大量に浮いた死体から、大量の《銃口》が寄生して顔を出し、海岸の岩に繁殖する藤壺のようにびっしりと生え揃って、それらの口の全てが、確実に2人へと狙いを定める。




「馬鹿な……!? 魚の死体は《銃口》の土台代わりかよォ……!」




「間に合って……!! 《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》……!! 緊急防御……!!」




 一瞬、対処に躊躇したユウキをカバーするように、リリーナは《紅の槍》を4本追加で発動させ、今度は上下左右360°を防御するべく周囲に配置し浮遊させる。



 同時に、2人を囲う《銃口》が、再び一斉砲火を浴びせたが、4つの《槍》を回転シールドとして回転させ、無数の《弾丸》を弾き飛ばす。



 しかし、毎秒約300発程だろうか、相当の数の《銃弾》が、連続して何十回も無限に炸裂されるので、2人を守る槍の盾も、急速に綻びが生じていく。




「くっ……!まだ耐えて………!」




 《ブレイン=ナノマシン》を脳で直接操作するリリーナは、額の包帯に汗を滲ませながらも、意識を集中させて《槍》の強度を高める。 



 しかし、その努力も虚しく、《槍》は、容赦なく襲いかかる弾丸の嵐に耐えられず、一瞬のうちにに壊れて《ナノマシン》の粒子と化して消えてしまった。



 それは、ユウキとリリーナの四方を守る《槍》だけでなく、ユウキがボードのように乗って()()にしていた《それ》まで、壊れ消える。




「クソッ……!!」




 為す術もなく、足場を失ったユウキは、そのまま海面へと落ちていく。



「《創造する(ズィミウルギア・)脳操槍剣(ブレインセイバー)》……!! 追加発動……!!」




 再びリリーナは、即座に彼のアシストに出る。



 落下地点の海面上に、さらにもう1本、《槍》を追加で発動し配置させ、ユウキの足場を増やしたのだ。




「よし! ナイスなフォローだぜ! これで……!」




 彼女を抱きながら称賛したユウキが、そこに足を乗せてバランスを取ろうとした刹那……





「うがっ………!!」





 更なる《銃弾》が容赦なく炸裂し、ユウキの右足と両腕に直撃する。



 瞬時、ユウキは、己が最も起こしてははならないと考えていた最悪の事態を、彼自身が引き起こした。



 被弾し血の飛沫が舞う両腕と右足の激痛に耐え兼ね、咄嗟にユウキは力とバランスを失い、抱いていなければならなかったリリーナを、海へ放り落としてしまう。




「しまっ……!! リリーナ……!!」




 ユウキの叫びも虚しく、リリーナの身体は為す術なく、水飛沫を上げて海に落ちた。




「やめろ……! そんな身体で海に落ちたら……!」




 これから起こる事態を予知してしまったユウキは、その恐怖に震えたが、焦り惑う時間など与えられない。




 ユウキは速攻で海に飛び込んだ。




 その瞬間__




「……!? …………!! ……!!」



 

 被弾したユウキの傷口から、焼け焦げるような痛覚が襲いかかる。



 まるで1600℃以上の熱によって溶けかけたナイフで、銃創を何度も抉られて、焦がされているような、あまりに例えようもないない拷問の如き苦痛。




(いでぇ……! くそっ……! こんな傷を負ってりゃ……当たり前のこった……ろうが……!)




 ゴボゴボと泡を吹きながら、ユウキは悶えるような苦しみの叫び嗚咽を、心にしまい込む。



 だが、それも彼は予測はついていた。



 原因は、海水の塩水もそうだが、周囲の魚を一斉に殺した際の、海中に投げ込まれた水銀等の毒性物質。



 治りかけとはいえ、流血する程の深い傷で、そんな水に身体を浸せば、人体の皮膚は拒否反応を起こして苦痛に見舞われる。そんなことは、誰もが予測できることだ。



 だからこそ、今ユウキがこの上なく案じているのは、先に海へ投げ込まれたリリーナだった。




(リリーナは……!? どこだ……!?)




 悶絶する程の痛覚を必死に堪えて、ユウキはリリーナの姿を探して、深い海水の底を目を凝らして見回した。



 見つけた。自身から2m程深い位置で、両手胸を押さえ、身体泡を吹いきながら、彼女は静かにもがき苦しんでいた。



 本来ならば、身のこなしが軽快で運動能力も極めて高いリリーナならば、たかが水深3〜5m程度など、逆に水上の敵を引っ掻き回せる程に、機敏に泳ぐことが可能である。




 だが無論、何せ先日の中東地方での激戦で重傷を負い、包帯が必要な程に傷の癒えが不完全な容態では、泳ぐどころか、まともに身体すら動かせない。




 それどころか、包帯の傷口に、海水の塩分と汚染した毒物が染み込んで、想像に堪えない激痛と苦しみが彼女を襲っているだろう。



(リリーナ……! 頼む……俺の腕に届いてくれ……)




 ユウキは息継ぎの欲求を抑え、もがきながらも伸ばしていたリリーナの左腕を辛くも掴み取る。



 そして、そのまま急速に海面へと這い上がって浮上し、「ぷはぁ……!」と、何とか2人で顔を出し、呼吸を整えることができた。



 次の瞬間……




「い"や"あ"ぁ"あ"あ"………あ"あ"あ"あ"……あ"あ"あ…あ"」




 けたたましい、生命を震わせるようなリリーナの断末魔が、彼女の耳と喉を潰すかのように、海面上に大きく響き渡る。



 やはり最悪にも、ユウキの想像は当たってしまった。



 彼女の身体の、濡れた包帯の奥にある、まだ塞ぎきれていない傷の縫合に、海水と水銀等の有毒物質が染み渡って、傷に酷く触っていたのだ。




「ぐっ……リリーナ……すぐに引き上げてやるから……暴れないでくれ……!」




「……あ"ぁ"……い"や"ぁ……! い"た"い"……い"た"い"ぃ"……く"る"……し"………!」




 リリーナを宥めながら、どこか海水から上げられる場所を探そうとするも、炉で全身を焼かれるような苦痛に苛まれる彼女は、悶え苦しんで、じたばたと暴れ回る。




「リリーナ……頼むからよぉ……! 傷にィ…………響………!?


………嘘………だ………ろ…………」




 海水が掛かって、しばらくは目がよく見えなかったが、瞬時にリリーナの身体を押さえつけたとき、ユウキは彼女の姿を見て、全身の意識が凍りついた。




 全身の傷口から、大量の血が流れ出ていた。リリーナの身体を覆う包帯と灰色のブレザーは、無残にも赤黒い血液色に染められ、海面にまで流れ出てた彼女の血によって、周囲は赤い海に変わり果てていた。




 悪夢を見せられたものだ。そう思える程に、思い当たる限りの最悪の事態だった。




 それを見せられたユウキは、まるで精神と理性は、その衝動によって削り取られ、遠のいていく感触に襲われる。





「…ぐっ…………うっ……ごぽっ……! げほっ………!」




 突如、リリーナの口から、大量の赤黒い血が吐き出される。



 そして、虚ろな目をしたリリーナの顔色は、死人のような青白い肌となり、徐々にその声と呼吸が、命を吸い取られていくように、弱まって静かになっていく。




「…………ユ……キ……私…………寒………ぃ…………」




「おい……冗談はよしてくれ……! なぁ!! こんな所で死ぬんじゃねぇ!! 俺を置いて逝くなよ相棒……!!」





 ユウキは激しく動揺していた。意識は恐怖と焦燥感に支配されて、生きた心地が奪われていく。




 だが、ユウキは血だらけのリリーナを再度見て、何かどうしようのない違和感を覚えた。





「何だ……おかしいぜ……! この出血量は異常だろ……!? これは開いたどころじゃねぇ……むしろ傷を(えぐ)ったような……!?」




 彼女の主治医は、まだ塞ぎきれてはいないものの、治りかけていると言ったのだ。



 赤い包帯で覆われて見えないが、まるで、せっかく施した縫合にナイフを突き立てて悪化させたような。それ程の出血量だ。




 海中の有毒物質もあるだろうが、明らかに何かがリリーナの傷に悪さをしている。ユウキはそう確信した。




「……いい光景だ……! 最高の景色だぜっ! えぇ!? ユウキ=アラストルぅう……!?」




「……あ"ぁ"!?」




 ユウキの背後から、聞きたくもない、あの薄気味悪い声が聞こえてくる。


 虫唾が走る腹立たしさを必死に堪えて振り向けば、やはり、アクバルⅡと名乗る男の姿があった。


 限界まで近づいた小型ボートの上から、上機嫌にユウキ達を見下ろして、薄気味悪く微笑んでいる。




「あぁ、そういや言い忘れてたぜ。俺ァその海によォ、毒物もそうだが、やべぇもん入れちまったんだよ……


……このボトル、なにか知ってるか?」




 アクバルⅡはそう言うと、白衣の懐から1本の医薬品用のボトルを取り出して、ユウキの目の前に見せつけた。


 黒漆塗りの分厚い瓶ボトルのラベルは、危険物を周知させる骸骨の印と"DANGER"の文字が目立って表記されている。




「てめぇ一体………がはっ! ……っ! ごぷっ!」




突如、ユウキの口からも、赤黒い血液が吐き出される。




「ぐっ……! ハァ……ハァ……! なっ……何だよ……これ……!」




「あぁん? コイツを知らねぇのかァ? ほら、ナイチンゲールっていう外傷用の特効薬ってあるだろぉ?



 この薬品はその反対で外傷に塗って殺す毒薬『ジル・ド・レェ』だ!



 同じ旧西暦時代末期に、高級特効薬『ナイチンゲール』が各国の軍医に流通した裏で、コイツは極秘に捕虜収容所や軍管轄の牢獄で出回ってた殺人薬でよぉ!



 傷ついた敵兵に、殺された同胞の無念と恨みを晴らすために、わざと傷口にコイツを塗りだくって、拷問のように容態を悪化させて、一晩中苦しめて殺したらしいぜぇ?



 嘘だと思うならお前……さっき俺がお見舞いしてやった《銃弾》の傷……見てみな?」




「何っ………!?」




 ユウキは、被弾した両腕のうちの左側を、即座に浸かっていた海水から上げて、己が顔の正面でそれを見る。


「……なっ……!? 何だ……これ……!?」


 ユウキは驚愕を覚えた。同時に、何故リリーナの傷が開いて流血に苦しんでいたのか、理解できた。


 傷口の色が変色している、まるで化膿が進行させたような、緑掛かったどす黒いそれ。そして傷の深さに似合わぬ程に、赤黒い血液が、地下水が麓から湧き出るかのように溢れていく。




「ッハハハハ……! その薬は一度外傷に触れちまったらよぉ! 液体に溶け込んだ『有害マイクロマシン』がぁ! 徐々にお前等の細胞繊維や血液を破壊していくんだぜぇ!?



身体の免疫再生を増進させる『ナイチンゲール』と真逆の働きでなぁ! もう今頃は内蔵まで徐々に破壊してらァ!!



何も《ギルソード》だけを使って戦うのが《ギルソード使い》じゃねぇんだよ!? あくまで手段だ!


 prototype(兄さん)の教えはちゃ〜んと俺の中に生きてるんだよ!



キヒヒッ! 終わりだガキ共ォ!!」





「ぐっ……ガハッ……ゲホッ……! リリーナ……すまねぇ……」




 毒薬が全身に回って、すっかり血の気が引いたユウキは、青白い肌をした手で、リリーナの頭を撫でた。



 すでに彼女の呼吸は聞こえず、死人のように動かない。その生命が、まもなく事切れようとしている。




「おっと! これはいけねぇ! 俺は確かにお前に宣告していたなぁ……? この海に浸かって死んだら、俺が嘘つきになっちまう! だから約束通り……これでとどめを指してやるよ!」





 突如、リリーナの身体の右胸から、アクバルⅡの《銃口》が寄生して顔を出す。



 その先に狙うのは当然、ユウキの心臓である。




「……どうした? 遺言くらいは聞いておいてやるぜ? お前が何を思って死ぬのかは興味がないわけじゃねえ……」




 アクバルの余裕に満ちた台詞に対し、ユウキは絶え絶えな息を吐き捨てるように、こう言った。



 死の淵に追いやられた者の目とは思えない。衰弱しきってはいるが、何かに勝ち誇ったような瞳。





「………そうだなぁ……この状況で……せめて……悔いを残さねぇ欲を………成し遂げるとすれば……


………この耳で聞いてやるぜ……! テメェの断末魔をなァ……!!」

 

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