第三章⑮
錦景女子は夜の七時を回り、喫茶マチウソワレには続々と女子が集まってきていた。フロアには円卓が並ぶ。椅子は隅に移動された。今宵は立食パーティの風味。円卓の上の丸く巨大な皿の上にはカラーゲがピラミッドのように上手いことを積み重ねられていた。積み重ねたのは篠塚だ。
外に出張しておしることラムネを販売していた散香、泉波、芳樹野、大森がマチソワに戻ってきた。
ピンクのチェックのひらひらのスカートを履いたお酒臭い内田がギターを構えて、ステージの真ん中に立った。
揺れる度に、ふんわりと踊るスカートだ。
そのスカートは、比較的小さな体の篠塚たちを大きく見せる。
篠塚が被服部の部室からマチソワに戻ると内田はどこかに消えていた。カラーゲを積んでいたら、お酒臭くなって戻ってきた。酔ったふりをしていた。バランスが上手く取れない演技をしていた。内田は、彼女なりに緊張しているみたいだった。十三年くらいぶりだから、篠塚はお酒の匂いを許してあげた。
さて、最後を始めようか。
篠塚は内田に目で合図をする。
内田は開放弦を出鱈目に鳴らした。
巨大なノイズとなり。
カラーゲを頬張る錦景女子の注意を引き付ける。
内田は弦を震わせたまま、ピックを持つ手を高く持ち上げる。
「今日は曇り空だけど、」内田はマイクに向かって言う。彼女の可笑しな声、甘くてとろけるような、ファニー・ボイスが響く。「月が地球に近い時間だね」
「聞いて、」篠塚はマイクに向かって言った。「スーパ・ムーン・ロックンロール」
色のついた様々なことが、脳ミソで回転を始めた。
「篠塚が選んだ道を行けばいいって、私は思うよ」最後に内田が言ってくれた声を思い出した。
体中で、響いている。
響いているから。
今夜、私は旅に出る。




