第三章⑪
喫茶マチウソワレは今宵開催される宴のテーマは、カラーゲだった。明日開かれる球宴の英気を養うため、円卓の上にはピラミッドのようにカラーゲが積まれ、女子たちに振る舞われるのだ。それは篠塚が錦景女子だった頃から変わらないことの一つだった。午後七時の開店に向け、料理部はマチソワの隣の家庭科室でカラーゲを揚げている。開店時刻がいつもよりも遅めなのは、主要メンバの四人、散香シオン、泉波ナルミ、芳樹野ルカ、それから新入生の大森テルコが赤と青と紫の煉瓦道に並ぶ模擬店に出張しているからだ。マチソワは開放されていて、すでにまばらに女子たちが席に座り初めているけれど、彼女たちが戻ってきてからが開店だ。それに合わせて、シノヅカカノコ・アンド・オーバドクターズ・アンド・ミス・ウチダのロックンロールが始まる。
上半身をセーラ服に変えた篠塚は一人、早い時間からここに来て、機材の準備をしていた。中東に映画を攝りに行くドラムの井筒と結婚する折口も時期に来て、音を合わせていた。
錦景女子大理工学部准教授の内田は最後に来た。セーラ服姿の彼女を見て篠塚は、十三年前くらいを思い出して、目元が熱くなった。内田はいつも通りお酒臭かった。お酒臭くて一見して酔っている風に見えるけれど酔わないのが内田だ。きちんとギターも持ってきている。
「もうずっと弾いてないからなぁ、」内田のギターは黒いジャグマスタ。内田はシールドのプラグをアンプに挿し、音を鳴らした。内田が好きな『恋のピンチヒッタ』をやり始める。井筒、折口、篠塚も合わせる。錦景女子も騒ぎ始めた。演奏終了。疎らな拍手。「まあ、こんなもんかな」
篠塚は何も変わっていない内田が嬉しかった。
「ねぇ、内田、」スティックを回しながら井筒が聞く。「さっきから気になっていたんだけど」
「あ、井筒も?」折口がベースをスタンドに降ろして、汗を拭いながら言う。「私も気になっていたんだけど」
「え、何、二人とも?」篠塚が聞く。
「……気付いちゃった?」内田はアンニュイに言う。「気付いちゃったかぁ」
『うん』井筒と折口が同時に頷く。
でも、篠塚は何も気付かない。「え、何?」
「ごめんね、カノコ、実は、さ、」内田は肩を落として言う。「洗濯したら、駄目になっちゃって」
「だから何を?」
「スカート」
篠塚は内田の下半身を見る。そういえば、篠塚は内田の上半身のセーラ服姿に見とれてしまっていて、彼女の下半身まで確かめる余裕はなかった。内田の下半身は、セーラ服に標準装備されている普通のスカートだった。チェック柄のひらひらなスカートじゃない。
「チェックじゃないじゃん!」篠塚は叫んだ。「ひらひらじゃないじゃん!」
「えへへっ」内田は愛らしく笑っている。
その笑顔も十三年前くらいと何も変わらない。
いや、少し。
変わったのかな。




