第二章⑪
そして金曜日の放課後。
ユウカは写真部の部室にいた。ミドリもいて、彼女はキャスタ付きの椅子に背もたれを前にして座り、あっちに行ったり、こっちに行ったりして、ユウカの邪魔をする。ユウカは写真部の部室を可愛くしようとしていた。ピンクの量が多い雑貨を買ってきて飾りつけた。ピンクの華を差した花瓶を窓際に置いた。ミドリの量からファンシィ・キディ・ラビットの特大のぬいぐるみを持ってきて、椅子に座らせてみた。自宅からアルバムを持ってきて、棚に並べた。ホワイトボードに、女の子の写真を貼りまくる。すると、部屋の雰囲気はガラリと変わった。後は、ピンクのカーテンを買ってくれば、完璧だ。
「ユウちゃんはピンクが好きなんだねぇ、」ミドリはニヤニヤしながら言う。「この前の土曜日も、ピンクの服を着ていたよね」
「女の子は皆、ピンクが好きでしょう、」ユウカは腰に手を当て、振り返りミドリに言う。「これから様々な女の子たちが私たちのところに来て、撮影を頼むことでしょう、だから、部屋はピンクがいいと思って」
「さすが部長っ、」ミドリは両手を広げ、時計回りにゆっくり回転しながら言う。「考えることが違うねっ」
「どうして回転したの?」
ミドリが言うように、ユウカは写真部の部長になった。ついさっき、生徒会に必要書類を提出したばかりだ。そこには会長の黒須ウタコの姿はなくて、生徒会長代理の雪車ヶ野ヨシノと新しく生徒会の秘書になったばかりの朱澄エイコがいた。書類は簡単なチェックの後、受理された。雪車ヶ野は鼻先の前に五指を組み、どことなく優雅に祈った。「写真部部長、谷崎ユウカに、神の加護があらんことを」
ユウカが写真部に入ることを決断したのは、ここがどうやら、錦景女子という世界での、自分の居場所らしいって思ったからだ。部員はユウカだけだけれど、ミドリの住処のこの場所、素敵な二人の被写体のご近所さんの向かいのこの場所を拠点にして、写真を取ること。それが自分らしいことだって思えたからだ。ここは自分の居場所だ。だから、自分の色に染める。
「ねぇ、ミドリ、」ユウカはホワイトボードの隅に愛らしい猫のキャラクタを書いているミドリに向かって言う。「明日はカーテンを買いに行こうね」
そのとき、扉がノックされた。
準備が出来たみたいだ。
モチコトとリリコの二人は、王子様とお姫様の衣装に身を包んでいた。
撮影は講堂の前。
バロック調の建築の正面は、二人のキスの背景に相応しい。
今日はSDカードにも、バッテリにも、レンズにも、何も問題はなかった。
周囲から女の子たちが消えて。
二人だけの世界になる。
ユウカはレンズで越しに見て、その世界に息を飲む。
その一瞬に。
二人はキスをした。
シャッタを切る。
またとない一瞬を切り取ることに成功。
ユウカのフォト・フォルダに、新たな一枚が加わった。
ユウカは生徒会に認可を得て、月曜日、昇降口前の掲示板にポスタサイズで印刷した、二人のキスの写真を貼った。
騒がしくなったのは、その日だけ。
二人の関係を知らなかった女の子たちが、少し騒いだだけ。
次の日からはもう、二人の関係は、錦景女子に普通になった。




