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第四話 会議という名の魔法

「全部ですか?」

エマが青ざめた。


「全部です」


「三十年分ですよ?」


「全部です」


翌朝。

冒険者ギルド二階。

会議室。

俺の周囲には資料の山。

いや、山脈だった。

依頼書。

報告書。

収支表。

事故報告。

苦情記録。

退会届。

三十年分。


エマが聞く。

「勇者様……寝ました?」


「二時間」


「少なっ!」


前職の繁忙期よりマシだった。


リリアもやって来る。

「進みましたか?」


「だいたい把握した」


「もう!?」


二人が驚いている。


俺は資料を指差した。

「問題は四つ」


「四つ?」


「いや、本当は百くらいある」


「多い!」


「でも根本原因は四つだ」


前職で学んだ。

組織の問題はたいてい複雑そうに見えて、

根っこは意外と少ない。

俺は紙に書いた。



【問題点】

①評価制度なし

②情報共有なし

③責任者不明

④会議なし



エマが首を傾げる。

「会議がないのは良いことでは?」


俺は即答した。

「ダメです」


「え?」


「会議は悪ではない」


「そうなんですか?」


「長い会議が悪なんだ」


エマとリリアが感心している。


その時。

ドアが蹴り開けられた。

ドン!


「聞いたぞ!」

ガルドだった。

Aランク冒険者。

脳筋代表。

「会議をやるらしいな!」


「やる」


「そんな暇があったら剣を振れ!」


来たな。

どこの職場にもいる。

「現場至上主義おじさん」


「誰がおじさんだ!」


「五十二歳だろ」


「うっ」


図星らしい。


ガルドは叫んだ。

「会議なんか意味がない!」


「なぜ?」


「俺たちは強い!」


「依頼達成率二十三パーセントだけど」


「うっ」


「欠勤率九十二パーセントだけど」


「ぐっ」


「赤字だけど」


「ぐはっ」


クリティカルヒットだった。


その時。

ギルドマスターも入ってきた。

「本当にやるのか?」


「やります」


「誰も来ないぞ」


俺は笑った。

「来ますよ」


「なぜわかる?」


「社会人だからです」


意味不明だったらしい。


昼。

ギルド掲示板に張り紙をした。


【全冒険者参加必須】

【不参加の場合、今後の高額依頼を制限する】



数秒後。

冒険者たちが集まった。


「来た!」

エマが驚く。


「そりゃ来る」


前職で学んだ。

人はお願いでは動かない。

ルールで動く。

会議開始。

参加者百七名。

欠席二百二十名。

思ったより来た。

俺は前に立つ。

冒険者たちは不満顔だ。

「早く終われ」

「酒飲みたい」

「めんどくさい」


実に懐かしい。

前職の会議と同じだった。

俺は黒板に書く。


【質問】

「ギルドの問題は何ですか?」



沈黙。

誰も答えない。

すると後ろから声。

「報酬が少ない」

「依頼が難しい」

「国が悪い」

「魔王軍が悪い」


好き放題だった。

俺は全部書く。

そして最後に言った。

「違います」


場内がざわつく。


「じゃあ何だ!」

ガルドが怒鳴る。


俺は黒板を叩いた。

バン!

「情報不足です」


静かになった。


「例えば」

俺は依頼書を持ち上げる。


【森のゴブリン討伐】


「この依頼」


「普通だな」


「去年何人死んだ?」


誰も知らない。


「一昨年は?」


知らない。


「五年前は?」


知らない。


「成功率は?」


知らない。


「危険度は?」


知らない。


俺はため息をつく。

「それでよく仕事受けられるな」


全員黙った。


前職だったらあり得ない。

危険作業に説明なし。

事故率不明。

過去データなし。

労基署が飛んでくる。


「お前たちは勇敢じゃない」


全員が顔を上げる。


「無謀なんだ」


その言葉は刺さったらしい。

会議室が静まり返る。

ガルドでさえ黙っている。

そして俺は言った。

「これから毎週会議をやる」


「ええええええ!」

悲鳴だった。


「嫌だ!」

「面倒!」

「拷問か!」

異世界人は会議を嫌いすぎる。


俺は続ける。

「ただし」


全員が止まる。


「十分で終わる」


沈黙。


「十分?」


「十分だ」


「本当に?」


「本当に」


前職では知っていた。

一時間の会議で決まることは、

十分でも決まる。

そして。

会議終了。

所要時間。

九分三十秒。

冒険者たちは呆然としていた。

「終わり?」


「終わりだ」


「怒鳴り合いは?」


「しない」


「根性論は?」


「しない」


「精神論は?」


「しない」


「じゃあ何をしたんだ?」


俺は答えた。

「情報共有」


その瞬間。

ギルドマスターが立ち上がった。

目を見開いている。

「まさか……」


「どうした」


「今まで三時間かかっていた会議が」


「うん」


「十分で終わった」


「うん」


ギルドマスターは震えていた。

「勇者」


「なんだ」


「お前……魔法使いか?」


俺は笑った。

「違います」


「では何者だ」


俺は答えた。


「元サラリーマンです」


誰も意味を理解できなかった。

だがその日。

王都冒険者ギルドで、

小さな伝説が生まれた。

後に人々はこう呼ぶ。

『十分会議の奇跡』


しかしその夜。

俺はまだ知らない。

ギルド最大の問題児が、まだ姿を見せていないことを。

王都最強。

Sランク冒険者。

三年間、一度も会議に出たことがない男。

その名を――『災厄のレオン』。

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