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緑の地球  作者: 陸うなぎ
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第2章 【2】 集落の人達

6.

「無事か?サン、どこも刺されてない?」

まだ息が乱れながらも、アレキドはサンライトに呼びかける。

「⋯はぁはぁ、う、うん、アレ兄、大丈夫、何とかね!」

サンライトも全速力で走った為に息も上がっている。


2人は何とか森の入口まで走って戻ってこれた。

死にものぐるいで走ったおかげだ。


家もすこし遠くに確認できる所までやって来れて、2人は安心してため息をつく。


そして視線を同時に合わせた。


「オオスズメバチなんてな!」

「オオスズメバチだったねっ!」


そうして声が合ったことに笑い出す。


「びっくりしたよねぇー!まさかあそこで強敵が襲ってくると思わなかった」


2人で青ざめながら全速力で逃げたのが面白かったのかクスクスとサンライトが笑う。


「だよなー、でも、オオスズメバチの頭にはキノコが生えてるだろ?木の幻覚とか利用して油断させれば取れたのになぁ、あの美味なキノコ⋯」


アレキドは特別な香りと歯ごたえ抜群のキノコ料理に思いを馳せて顔がふにゃっと歪んだ。


そんなアレキドを見て、サンライトは呆れ顔で言う。


「幻覚の木の効果は、私たちにも効いちゃうでしょ?そんな、いちかバチかの賭けはしなくていいよ」


「まぁ、そうだけど、食べたかったなぁ⋯」

「はいはい、アレ兄、暗くなる前に帰るよっ!」


そんな未練タラタラなアレキドを引っ張って、サンライトは家へと戻って行った。


家へと入り、狩りの道具と採取して来た戦利品を置く。

床に細かい蔓で編んだ敷物を引いて、そこへ今回の戦利品を並べてみた。


薬の元になる樹皮や、草、そして木の実も沢山取れた。

充分な収穫にアレキドとサンライトは満足だった。


今日はご馳走に出来るね、とサンライトの顔が綻ぶ。

アレキドも嬉しそうに頷いた。


早速2人は小さい袋を用意すると、小分けにして、集落の皆にも分けに行ったのだった。



7.

「サン、ロリコンのところにも食料持っていってあげよう」

アレキドの提案にサンライトの目の輝きが一瞬で消え失せた。


「アレ兄一人で行ってきてよ…」

本当に嫌なとき、サンライトの声は低音になる癖がある。今まさにそれだ。


「いや分かるよ!俺もサンライトさんの気持ちは痛いほどよく分かる!でも、ロリコンは上手くおだてて役に立ってもらおうって前に二人で話したじゃん」


「食料渡すだけなんだから、アレキドさん一人でもいいと思います…」

更に低音ボイスになったサンライトの圧に押されてアレキドは縮こまった。


「ロ、ロリコンの狙いはサンなんだから、俺一人で行っても仕方ないだろ」


「狙いって…」

サンライトは身震いした。


俺たちにロリコンと呼ばれている男の名はジュウジャという。

ヤツらに支配されたこの世界では珍しい「武器職人」として、みんなに武器を配っている。

ロリコンの作る武器の原料は木材だが、ひとつひとつ精巧に作られており斬れ味が良くとても頑丈なものばかり。

俺が愛用している剣も、サンが使う弓矢も、ロリコンが作った作品だ。

このロリコンなしではヤツらへの対抗手段もなかったかもしれない超重要人物なんだ。


…ただ、欠点もある。

歳が13歳も離れているサンに一目惚れしており、自称“サンライトの婚約者”と自ら集落中の人達に言いふらしているんだ。

ジュウジャはルックスは良いし、普段は漢気もあるんだけど、サンが関わる事になると兄の俺からしても言動がキモすぎる…

狙われているサンからしたらヤツらよりも真っ先に狩りたい天敵なんだろうな。


「恩を売っておけば役に立つロリコンなんだから、お願いッ!我慢して着いてきてくれよ〜」

アレキドの必死の頼みに根負けして嫌々ながらサンライトは無言で着いていくことにした。



ジュウジャの家に着いた。

中から陽気な鼻歌が聴こえてくる…

「ロリッ……ジュウジャさん、こんばんはーーー!食料たくさん採ってきたのでおすそ分けでーーーす!!」

アレキドが明るく挨拶をしてジュウジャの家に入った。


黒髪ロングヘアーの男性が上半身裸でストレッチをしていた。

「おぉ、お義兄様じゃないか!

と、いうことは…我が嫁も一緒か!?

いや、わかるぞ…香りで分かる!!

嫁も来ている!絶対にな!!」


一瞬本気で引いたアレキドだったが、上手く笑顔でごまかした。


「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ…」

サンライトはまるで怨念を込めた呪詛のように小声でボソボソ言っている。



ジュウジャが笑顔でサンライトを見て一言。

「嫁、今日もかぁわぁいいなぁ。俺には分かるぞ…1週間前より少し胸も大きくなったな!確実にな!!」


「コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ…」

サンライトの呪詛が一段とスピードを増した瞬間だった。



8.

ジュウジャはサンライトが青ざめながらアレキドの後ろに隠れているのをものともせずにサンライトの方へとデレデレと近づいていく。


「そんなに照れて、俺の嫁なんだからもっと近くに寄ってもいいのに、そんなとこも可愛いんだけどなぁ」


アレキドの後ろを移動しながら、ジュウジャの視線から出来うる限り逃れようとするサンライトの顔は引き攣りに引きつっていた。

それでも兄の面目を保とうと、必死に笑顔を作っている。


アレキドはそんなサンの様子に、手に持っていた森での収穫物の入った袋を取り出すと、ジュウジャの視線をこちらに引きつけるように顔の高さまであげて軽く揺らしてみる。


「ジュウジャさん、これ、今日二人で取ってきた収穫物です。すんでのとこで逃しちゃいましたけど、オオスズメバチのキノコも見かけましたよ」


「おおー大量じゃないか!」


ジュウジャは、袋に入った薬草や食物を見て目を輝かせた。


「いつもすまないな、·····俺の嫁には怪我は無いか?」


ジュウジャの頭からサンライトが消えることは無いらしい。視線をサンライトに定めると全身をくまなくなめ回すように眺める。


サンライトは、その視線が耐え難く、一時は兄の後ろから出ていたが、すぐさま兄の背後へと瞬間移動したのだった。


「け、怪我なんてありません」


サンライトが蚊の鳴くような声で言い放ってアレキドの後ろに隠れる。

サンライトが隠れるのを残念そうに見つめるジュウジャに、アレキドは声をかけた。


「俺たちは強いから大丈夫です!いざとなれば俺が守りますからね!ロリ·····ジュウジャさんもそんなに心配しないでください」


ロリコンと毎回呼びそうになって困るな、とアレキドは内心ヒヤヒヤしていた。


「ま、お義兄様の事だから安心はしてるが、本当は毎回俺が付き添ってあげたいくらいだ。我が嫁よ、いつも言ってるけど、狩りに行く時に俺に声をかけてくれればピッタリくっついて守ってあげるからな!」


にやけたジュウジャの呼び掛けに、アレキドは後ろでサンライトの顔が激しく左右に振られるのを感じた。


「それはそうと、この間言っていた武器は出来ましたか?」


これ以上サンがダメージを受けたら、もうここには来ないと言われてしまうかもしれない。

そう察知したアレキドは、ジュウジャに持ちかけたのだった。



9.

「あぁ…前言ってた武器の話ね。アレキド、隻腕なのにもう1本短剣が欲しいってどーしてだ?」

ジュウジャは真面目な話をする際にはアレキドを“お義兄様”とは呼ばない。


「えっと、それは……。

(理由も何も、前に来た時もロリコンがサンにキモ絡みするから話題を逸らすために何となく言ってみただけなんだよなぁ)」


「アレキドが今使っている剣は俺の傑作品だ。切れ味も強度も申し分ない。短剣を作るのは簡単だけど、短剣はリーチが短い分、インファイト…つまり接近戦用の武器だよ。隻腕には向いていない。と、いうより懐に入られた時点で死ぬと思え。」

真っ直ぐにアレキドの目を見て優しく話すジュウジャ。


「いいか、この世界は残酷だ。木々の進化でこれまで天敵がいなかった我々人類の生き方は変わった。常に死と隣り合わせ。だからこそ強くなれ。誰かを護れるように、大切な人を絶対に死なせないように…後悔しないように、強くなってくれ」

「は、はい…」


「そんな顔をするな。日々の鍛錬が不可欠なのはわざわざ言わなくても分かっているだろう」

ジュウジャはニッコリと笑って優しくアレキドの頭を撫でた。


「それにッ!!!お義兄様には我が愛しの嫁がいるじゃないか!嫁がお義兄様のことをしっかりと遠方支援してくれるから短剣なんていらないよねぇ〜」


「ヒィッ!」

ジュウジャは嫁の頭も撫でようとしたが、警戒心MAXのサンライトにかわされてしまった。


「アレ兄、帰ろう!もう無理無理無理。今すぐに帰ろう!カエルカエルカエルカエルカエルカエルカエル…」


「あ、ヤバい!すいませんロリッ…ジュウジャさん!妹が限界突破したので帰ります」


「はーぃ、食料ありがとね。お義兄様、期待しているよ。嫁、明日も絶対来てくれよ」


「ムリムリムリムリムリムリムリ……」

サンライトは兄を置き去りにして脱兎のごとく一人で先に帰ってしまった。


「サン、ヤツらとの戦いの時より反射神経やスピードが増してるな。人間の本能ってすごい」

アレキドは苦笑いしながら帰ることにした。



「あ、でもトゲツさんの家にまだ食料持って行ってないや。トゲツさんの家少し遠いけど、サンは先に帰っちゃったし、俺一人でゆっくり届けるか」

すっかり暗くなってしまったが、いつも一緒の妹がいない一人だけの散歩は悪くなかった。


「ガァァァッ」

一瞬のことだった。

後ろの木の陰から1人の少女がアレキドに斬りかかってきた。


「な、誰だ!?」

叫び声で先に気付けたため、アレキドは紙一重で初撃を避けることが出来た。


オレンジ髪のウネウネした独特なパーマ頭で薄汚れたボロボロな麻の服装、両手には石の短剣を二本持っている。


「うわ、野良ゾンビじゃん!」

この少女、集落のみんなから“野良ゾンビ”って呼ばれてる。本名は誰も知らない。

言葉が話せず、俺の集落の人達を襲って食料を奪ったりする悪いヤツなんだ。

ロリコンに言われたばっかりだけど、俺の苦手な接近戦を仕掛けてくる厄介なヤツ。



「おい野良ゾンビ!この木の実が目的なんだろ?これは俺たちが苦労して採ってきた食料なんだ。横取りされるほど俺は甘くないぞ」

アレキドはゆっくりと剣を構えた。


「ウウウウウ……」

野良ゾンビはまるで犬のように低く唸ってアレキドを威嚇している。




10.

「こいつ、言葉通じてるのかな⋯?」


毎回アレキドは思う。

野良ゾンビが言葉を話しているのを聞いたことがないからだ。

いつも低い威嚇するような唸り声か、攻撃的な唸り声か、どちらにしろ唸り声しか聞いていない。


女の子なのにな⋯と、アレキドは野良ゾンビの姿を見て思う。

サンライトとはえらい違いだ、と目の前のボロボロの少女の姿を見て少し可哀想に感じた。


だからと言って、大切な食料を無断で奪おうという思考の持ち主に黙ってあげるほどこの世界は甘くない。


人のものを奪ったらどういう目にあうかということは教えてやった方がこの少女の為にもいい。

⋯⋯とはいえ、野良ゾンビがそれ以外でどうやってこの世界で生き抜いていくのかという話ではあるけど。


それでもアレキドも自分たちの食料を守る義務がある。

アレキドはジュウジャ特製の木の剣を構えた。

野良ゾンビはジリジリとアレキドの方へと近寄って来る。

二本の石を研いで作ったと思われる短剣を抜け目なく両手に構えていた。


武器を向けられても諦める気はないらしい。

油断ない表情で、こちらをじっとみながら詰め寄ってくる。


絶妙に剣が届かない位置を素早く2つの短剣を動かしながら動いて近づいてくるので、アレキドも神経を研ぎすまながら少女の動きを追って、剣を動かしていく。


コンっ


「いてっ」


その時、頭に衝撃を受ける。

野良ゾンビが隠し持っていた石をアレキドに向かって投げたのだ。

アレキドの意識が頭に行った瞬間に少女が急速にスピードを上げて飛びかかってきた。


剣の動きが一瞬遅れて、少女に片方の短剣で頬にかすり傷を負わされる。


「·····っ!」


野良ゾンビはそんなアレキドに目もくれず、アレキドの持っている袋をもう1つの短剣で思い切り裂いた。


「ああっ!」


思わずアレキドの口から叫び声が出た。

少女を掴もうと手を伸ばすが、手が届かないようにシュッと屈むと、木の実を何個か手にすくい脱兎のごとく走り去ってしまう。


「こら、野良ゾンビ、待てっ!!」


アレキドは叫ぶが、そんな事で野良ゾンビの足が止まるはずもない。

結局アレキドは、戦利品を1部持っていかれてしまったのだった。


「⋯⋯油断したなぁ」


アレキドは、恨めしそうに野良ゾンビが去っていった方を見ながら、次会った時は覚えてろよ、と独りごちたのだった。



一方、ジュウジャから早々に逃亡したサンは、気分転換もかねて、家まで寄り道をしながら歩いていた。

夕方近くになって星も月も綺麗に輝く頃で、空を見ながらゆっくり歩いて家までの道のりを歩む。


家の近くに来た時、木々が生えている地帯の前、サンのいる場所からははるか遠くの方に、何かがうずくまっている影が見えた。



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