114 砂塵攻防 弐 (改訂-5)
【砂塵攻防 弐】をお送りします。
宜しくお願いします。
聖堂教団の屯所がある教会に向かってヒロトは走った。もうすでに街中で騒ぎが起こっている。ライアット第二騎士団も半数が教会に向けて移動中だった。街の警備についている騎士は見習いも多く駆り出されている為、みな一様に緊張した面持ちだった。これが初任務の者もいる。
「ヒロト! 急ぐぞ! 」
武蔵も異変を察知して向かって来てくれた。総司と九郎は部隊と共に城門に集結中だ。
「なんかまた変なのが入りこんでます!! 」
大通りを折れ曲がった先に教会が見えて来た。煙が上がっている。正門に騎士団の小隊が入って行くのが確認される。ヒロトが正門に到達し、中を確認するが、やけに静かだ。肌が泡立つ……この感覚は何度経験しても慣れるものではなかった。多分、慣れた奴から死んで行く。
「……入ります」
中に入ると、ステンドグラスからの光に照らされた騎士団員のバラバラになった身体が散乱していた。切断面が恐ろしく綺麗だ。ヒロトも武蔵も急激に鳥肌が立つ。ヒロトは思わず吐いてしまった。リアル過ぎる人の死に慣れていない。
「しっかりしろ! お前もこうなるぞ! 」
武蔵に心を後押しされ、何とか踏ん張った。
次の瞬間、二人ともが左右に分かれて床に伏せた。
「……感の良いことだな……」
何処から声が聞こえるのか? 反響してわからない。だが気配は確かにある。
いきなり影の中から出て来た手に、ヒロトの足を掴まれて引き摺り倒された。
その奇怪な腕を剣で払いながら、体制を整える。反射的にヒロトは暗闇から外へ出た。
「影の中からの攻撃だと? 」
今度は武蔵の頭を何かが掠めて飛ぶ! 何らかの刃か?
気配はあるが、周りの影全てから気配を感じる為、逆に敵の位置を把握出来ない。
「……ブラス ラスト アロス……」
素早く何事かをヒロトが口走る。そして手にした剣の先を近くの影に突き立てた!
その瞬間、影が盛り上がり、炸裂する!
「うぐぐぅぁぁあ!! 貴様! 黒騎士と同じ技を! 」
「神霊力をそのまま影に流し込んだだけだ」
「……だがその神霊力は化け物並みだ。貴様! 何者だ? 」
「奇人変人に言われたくないな」
「ふざけた奴だ! 死ね!! 」
影から無数の触手がヒロトに向かって飛び出した! その触手を剣で捌きながら、出来るだけ影の少ない場所へと移る。武蔵は目を閉じて、剣を鞘に収めて居合の体制のまま動かない。
次の瞬間!武蔵の気合が爆発し、一気に居合切る!!
空間に裂け目が出来、その中から男が崩れ落ちて来た。
「……空間を切っただと? ふふふ……甘く見ていた様だな……」
そう言って男は自らの指を噛み、血を流して、地面に素早く文字を書く。
「……オン! バキャロアナ サナアロア ウンハッタ! 出でよ! 」
地面に書かれた文字が輝き、その空間から何かが這い出てくる。
「蛇? 口寄せの術?! 」
武蔵とヒロトが飛び退いた場所に、二十メルデはある大蛇が召喚された。その顎が武蔵を襲う!
同時に男は巨大な十文字手裏剣を左手に持ち、一気に投げた。投げた手裏剣は生きているかの如く、ヒロトを追尾する。
大蛇が教会の壁を突き破って外へ躍り出た。
「バク! オン!バク! ゾロボギャラ アニバロア インハラインア ソワカ!! 」
男が真言を唱え、クナイを影に突き刺して気を流し込むと、影が膨れ上がり、大蛇を包み込んだ!
影を纏った大蛇の頭が八つに分かれて伸びる。
「八岐大蛇?! 」
武蔵は十文字手裏剣の攻撃を弾きながら、八岐大蛇の首を叩き斬るが、直ぐに再生が始まる。
そして男をも八岐大蛇は取り込んで、さらに醜悪な姿となる。
「これぞ風魔忍法 邪法合体!! 」
「風魔だと? 風魔小太郎か?! 怪異と合体するだ
と……」
八岐大蛇の八つの頭が、武蔵に襲いかかる! かわしながら首を切り落とすが、すぐに再生してしまう。
「おっさん! 一気にやるから、時間を稼いでくれ! 」
「おうよ!!!! 」
武蔵は神霊力を有りったけ刀身に乗せて、大上段から八岐大蛇に刃を振り抜いた!!
八岐大蛇を真っ二つにしたが、また再生が始まる。
「……無限の書、漆黒の魂を宿し我が王よ! 汝の贄をいまここに! ブロマス クロスド バルバロイ ……」
ヒロトは左手に持った魔剣サザンクロスに右手のひらから、暗黒の闘気を流し込む。
「これでも喰らって、消滅せよ! 漆黒餓鬼鎧玉!!!!! 」
八岐大蛇を黒い球体が覆い尽くす。球状結界に囚われた八岐大蛇はその顎で結界を食い破らんともがくが、びくともしない。
結界の上部から何かが広がって八岐大蛇に襲いかかる。
「なんだこれは? 悪霊? いや違う、魍魎だと?! 」
すぐさま風魔小太郎は複雑な印を結び始める。
魍魎が結界内にある全ての物に喰らいつく!
そして武蔵が一気に神霊力を解放して、横一線に刀を振り切る! 真っ直ぐな横線が球体に引かれて、八岐大蛇ごと真っ二つになる!
「……逃したか?! 」
今度は、中央の騎士団屯所で騒ぎが起こる。
「不味い! 向こうが本命か?! 」
武蔵とヒロトはすぐに行動に移った。
【砂塵攻防 弐】をお送りしました。
まだまだ敵の攻撃の手は緩みません。
(映画 ブレイブハートを観ながら)