84 インターバル2nd (改訂-5)
インターバル2ndをお送りします。
前回の続きとなるお話です。
ゴドラタン帝国皇帝は何者なのでしょう?
新たな伏線もあるインターバル。
宜しくお願いします。
ロードグランデ大迷宮の最下層で、乾いた音が響き渡る。
黒い狩衣を、着た男は、一人でぶつぶつ言いながら、床に座り込んでなにかやっていた。
「……道満殿? なにをされている? 」
赤毛の大男が、道満のそばにしゃがみ、その手元を覗き込む。
「双六じゃよ」
「すごろく? なんだそれは? 」
「何じゃ? 双六を知らんのか? まあ、異国人じゃから仕方がないかのう〜」
道満はニヤリと笑い、たいそう勿体つけてスパルタクスに語りかける。
「これはの、サイコロを振って、出た賽の目だけ駒を進める遊びじゃよ。やって見せようかの〜」
そう言ってサイコロを振る。四の目が出たので、駒を四つ前に進める。
壱、弍、参、四……駒を動かした瞬間、近くに居た小間使いのゴブリンに向かって呪符を放る。
ゴブリンに呪符が貼りたい瞬間、炸裂した!
ドカカンンン!!!
「……ほう〜、変わった遊びだな」
スパルタクスは満面の笑顔になった。
◆◇◆
ゴドラタン帝国の帝都城塞都市スタージンガー。
美しい街並みはこの世界随一だろう。
整備された大通りは六頭立ての馬車が六台通れる横幅があり、歩道もモザイクタイルが敷き詰められている。
行き交う人々も皆、笑顔が溢れて、路地を子供達が走り回っている。
この街は災厄の渦とは無縁の様だった。
帝都の中央に建てられたノイエ・ブリューゲル宮殿の皇帝執務室。
調度品は質素だがとても機能的で使い易そうだった。部屋の主の人隣を表している。
皇帝グラウスは日々の決済業務の合間にナターシャとお茶を飲むひと時が好きだった。
「ノイズだったか? あの力は何だ? 」
「召喚者でも異質な存在です。あの様な者は千年前の災厄の渦でも確認されていません」
ナターシャはグラウスの座る椅子に寄りかかる。
「あの魔法……あの様な多重構造魔法を一人の人間が放てるものなのか? 」
数多の魔導士を見てきたが、そんな者は世界でも見た事が無い。いや聴いた事もない。
本来この世界の魔法は神霊力を魔力に還元する。そのコントロールは脳の潜在能力を解放して複雑な術式を組む魔導演算を行う。それを一個人で複数同時に演算する事は、この世界の魔導を逸脱した力だった。無理矢理に行えば脳が焼き切れてしまう。
「普通の人間では無いのでしょう。始末なさいますか? 」
「いや、捨ておけ。精々掻き回して貰おう。ヨシアを呼べ」
グラウスは技術担当武官を呼び確認を行う。
「例の進捗はどうか? 」
「は! 艤装は六十五パーセントまで進み、明後日には魔導器に火が入ります」
ヨシア・グローリアス男爵は、設計図を広げて説明を始める。彼は皇帝直轄の騎士ナイト・オブ・ラウンズの一員でもある。
「ふむっ……発掘作業をしながら艤装が六十五パーセントなら上出来だな。予言の日までに目処をつけろ」
左手の指で器用にペンを回しながら考ごとをはじめた様だ。
「御意! 」
左手で敬礼を行い、扉から担当官は出ていった。
「陛下。第一軍の展開も予定通りです。第二軍はどうなさいますか? 」
ナターシャは少し意地悪な顔をした。やっと二人っきりになれたと言いたそうだ。
「問題ない。やるべき事は理解している男だ」
「わかりました。では状況を開始します」
ナターシャはグラウスの顔に柔らかな手を当てて唇を重ねた。
「……そうそう、陛下、クリスが前線に連れて行けと騒いでいますわよ」
「またか、困ったものだ。クリス嬢はスタージンガーの護りの要だ。おいそれと動かす訳には行くまい。そんなに戦いたいのか?
」
「新作の紐パンのお披露目をして、兵士を勇気づけたいと……」
「……却下」
◆◇◆
ジャンヌは腹が減っていた。
お昼ご飯を返上して負傷兵の回復を行なっている。
「なんでビリーが夜中に爆裂魔法で吹っ飛んでんのよ?? 」
ビリーの神霊力も常人のそれを超えている為、さほどの怪我では無かったが、至近距離から喰らったみたいで気を失っていた。
「重症は赤札、中症は黄札、ビリーは唾でもつけといて」
区分けしてから纏めて祈り(回復魔法)を捧げる。
ジャンヌ・ダルク。別称をオルレアンの乙女と言う。
15世紀のフランス東部に生まれ、十六歳でイングランドをフランスから駆逐し百年戦争に終止符打つ様に神より啓示を受けた。王太子シャルルに、フランス軍を指揮する権限を貰い、破竹の勢いでイングランド軍をフランスより排除してくが、ブルゴーニュにて捉えてられイングランドに移送され異端審問会で魔女だと貶められた。だが二十五年後にバチカンのローマカトリック教会より列聖され聖人となる。
お腹のあたりが、もじもじしはじめた……
「ちょっとトイレ」
ジャンヌはトイレに歩き出そうとすると、後から看護の女性僧侶に手をひかれ、
「ジャンヌ様、お急ぎを! 危険な状態です! 」
「……わかりました行きましょう! 」
右へ左へ祈りを捧げてまわる。
「すみません。トイレに行きますね」
そう言って立ちあがろうとする腕を、今度はシリウスに掴まれて、
「すまん! 騎士が息を引き取った。祈りをお願いしたい! 」
シリウス団長は情に熱く涙もろい。
「わかりました……行きましょう! 」
上へ下へ階段を移動して祈りを捧げて回る。
「……わ。、ごめんなさい。、トイレにいきますね。」
そういって覚束ない足取りで立ちあがろうとすると、今度は武蔵が羽交い締めにして、
「わっはははは! 頑張っとるな! 」
ジャンヌを激励に来た様だ。
「だだだめ〜!!! 」
「?! 」
なんだか暖かい物が武蔵にかかる……
「……こ、この。、馬鹿武蔵!!! 」
おもいっきり武蔵の顔面に神霊力が乗りに乗ったパンチをお見舞いした!
おもいっきり吹っ飛ぶ武蔵!
「ほげげげぇええええ□○△!!!! 」
「あ〜あ! スッキリした! 」
いろんな意味で解消されたという顔だ。
◆◇◆
「ライフルの弾倉をもう少し増やせるか? 」
大きな木箱の蓋に打ち付けられた釘を抜きながら、カノンに無茶振りを始める。
ヒロトはどうもこの様な作業は苦手みたいだ。不器用なのである。幕僚本部近くに充てがわれたヒロト専用の幕舎の中に、特別な品物を運び入れて、中をあらためるところだった。
「今の五連発を増やすと? 」
カノン・プレイトウはこのヒロトの無茶振りにも大分慣れて来た。この人の指示は無理難題が多い。だが無駄な事は一つもないと思う。
「そうだ。二十連発の可能性を探ってくれ」
さらりと無茶振りする。釘がやっと抜けて木箱の蓋を二人がかりで開けた。
「ほぼ再現されています。流石はドワーフの職人技ですね」
箱の中にはライフル銃をスケールアップした様な、巨大な近代武器が入っていた。
「ブローニングM2重機関銃って言うのが正式名称だ。有効射程二千メルデ、一分間に五百発を発射可能だよ」
なんだかヒロトは嬉しいそうだ。
「恐ろしさ満点ですね! 我ながらかなりヤバい物を作ってたんだな〜っと……」
心底そう思う。
「よく20挺を間に合わせてくれた」
「量産は順調に。ドワーフの戦士団も今日の夜には合流します」
戦力は充実してきたがヒロトはまだ不足していると言う。
「ゴドラタン帝国はライアット公国に対してどう出ますか? 」
カノンは一番聞きたい事を聞く。
「やるだろうな……奴らは災厄の渦と対峙しながら、領土も拡大する気だよ。第一軍の布陣をみればわかるさ。だがそれすらも目眩しって事も考えられるな……」
「ヒロトさん。パンツに汚れがついてますよ」
「あ! ほんとだな。シミになるかな」
さっきの昼食のスープだな……
「私が取ってあげますよ。こう見えて最初の仕事場はクリーニング店だったんですよ」
カノンは腰の小さな皮鞄から薬剤と布巾を取り出した。
「そんなのいつも持ち歩いてんの? 」
カノンはしゃがみ込んでテキパキと作業を始めた。
「少しパンツを下ろしますよ」
仁王立ちのヒロト……
その正面にしゃがみ込んだカノン……
カノンに下ろされたパンツ……
それを後から見たマーリン……
「なななな何を……!? やっとるのじゃヒロト! 」
「何って見ればわかるだろ……って誤解だぞマーリン! 」
「男同士ででで、、不潔ななな! そんなに溜まってるならわしに言え!!!! 」
マーリンの右手から不穏な輝きが発せられる。
「まままて! 早まるな! 」
ヒロトとカノンの声がハモる。
ドカカカカカカカンンンンン!!!!
大爆発した!
◆◇◆
ジャンヌはほんとにお腹が空いていた。結局昼食を食べ損ねたのだ。さっきからお腹がグゥ〜グゥ〜鳴りっぱなしだ。
顔を赤らめながら、それでも仕事を続けている。
「なんでヒロトとカノンが爆裂魔法で吹っ飛んでんのよ? 」
魔法障壁でなんとか耐えたが、至近距離だった為、2人とも意識が飛んだ。
「どうされますか? 」
ジャンヌ付きの修道女が細やかに対応してくれる。彼女達は腰には剣をさし、場合によってはジャンヌの盾となるべく戦うだろう。
「唾でも付けといて! 面倒見切れないわ」
2人はとりあえず武蔵とビリーが寝ているベッドの隣に寝かされた。
◆◇◆
「どうしたんじゃ? ライラ? 元気ないのう? 」
ライラはベッドで不貞腐れている。武蔵が相手をしてくれないので拗ねているのだ。
「ほっといてよパパ! 」
カルミナは先んじて前線に直参の部下と共に入っていた。
二人でいる時は普通の親子である。というよりもカルミナ団長はライラの前ではいつもデレデレになってしまう。歳をとってから授かった娘で、どうしても甘くなる。
「……武蔵殿の事をそこまで……わかった! パパに任せろ! 」
「ななにするのよ? 余計な事はやめてよね? 」
「大丈夫! 大丈夫だからなライラ! 」
ライラは不安で仕方がない。
カルミナはその足で聖堂教団の屯所に向かう。武蔵がそこにいると聞いたからだが、
「武蔵殿が怪我? 」
カルミナが武蔵のところに到着すると、側にビリー、ヒロトとカノンが居た。
「どうしたのじゃ? 」
ヒロトとカノンそしてビリーは魔法の事故との事だが、武蔵はジャンヌに殴られたと聞いた。武蔵殿程の男が、か細いジャンヌ殿に殴られるなどあり得るのか? 痴情のもつれか……ライラだけでなくジャンヌ殿にも手を出したな……
「武蔵殿! ライラの事をどう思われる? ライラに対して本気なのですかな? 」
「どうされたのだカルミナ殿?? 」
「とぼけないで貰いたい! ライラを手籠にしたであろう? 」
「まて! なななんの事だ? 」
武蔵は寝耳に水だった。
「その野獣の様な筋肉で、我が娘を押さえつけ、あんな事やこんな事をしたに違いない! 」
「儂の筋肉は無実だぞ! ほれ見てみよ! この美しい筋肉を! 」
そう言って武蔵は着ている服を全て脱ぎ捨てて、ヒロトのベッドによじ登り、筋肉を見せつける様にポージングを始めた。
論点がずれている。
「なにを! ほんとに美しく高貴な筋肉はこの様なものだ! 」
そう言ってカルミナは着ている服を全て脱ぎ捨てて、ヒロトのベッドによじ登り、筋肉を見せつける様にポージングを始める。こいつも論点がずれている。
ベッドに座るヒロト……
ヒロトの方を向いて、素っ裸でポージングする2人のおっさん……
それを見てヒロトに持ってきた果物を落とすマーリン……
光出すマーリンの右手……
脱兎の如く逃げ出すビリーとカノン!
「はは恥をしれ! この変態ども!!!! 」
ドドカカカカカカカカカカカンンンンン!!!
炸裂した!
爆発音を聞いたジャンヌは、骨つき豚肉を頬張ながら、
「ニ度目は悲劇、三度目は喜劇よね〜! 」
ルンルン気分だった。
次回からは本編に戻ります。
更に苛烈な戦いに身を投じる召喚英雄達。
パルミナ連合王国の幕府も合流してさらに混沌とした戦場が形成されていきます。
(映画 お洒落泥棒を観ながら。)
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