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85 千年女王と、風見鶏 (改訂-5)

人間界の戦力が集結し始めます。

新たな登場人物によりさらに波乱な状況となるでしょう。


宜しくお願いします。

 空に白い弦月がかかっている。


 朝靄の中を行軍する軍馬の群れ。


 針葉樹がとても美しく、農村の廃墟を月光が照らす。


 九郎にとっては懐かしくもある。


 このグランパスに近い山々の気候は九郎が京の鞍馬山を出てから向かった奥州平泉によく似ている。


「あの廃墟で仮眠を取るぞ! 交代で哨戒する」


 特別遊撃大隊と言っても規模は既に連隊並みだ。

 だから十五万規模の敵に対するには少な過ぎると普通は考えるが、九郎はそう思わない。

 敵の殆どは数で押し出して来るだけの烏合の衆だ。いまの所の問題は暗黒騎士団と言われる敵騎士団だけだと思っている。報告によれば、かなり統制の取れた部隊だ。



「俺が偵察にでる。第二小隊ついてこい! 」

 ウィリアムが先行していく。



「九郎殿、敵騎士団はどの辺りに居るのでしょう? 」

 ジレは野営の準備をしながら話しをする。

 暗黒騎士団の消息はライアット公国軍の斥候部隊を屠ってから掴めていない。



「報告では奴らの装備はかなり重装甲だ。山岳地帯の行軍は厳しかろう。問題はその鎧の中身だな」

 騎士も馬も含めてアンデットの場合は地形などものともしないだろう。だがそれは無いと九郎は判断した。だがこの判断は誤りだったと、のちに気づく。アンデットではないが……



「奴らはかなり戦術的な動きをしている」

 以前、シリウス団長からこの世界の軍略を纏めた書物を見せて貰った。不思議な事に何故かその世界の文字は読める。読めると言うよりも頭に直接入って来ると表現すべきか。だが奴らの動きは、この世界の軍略、戦術とも違う。



「ウィリアムのおっさんは、この様な動きをする連中を知ってるって言ってたな……」



「それじゃあ……」



「ああ、多分転生者が指揮しているな」




◆◇◆




 エレクトラを擁する聖堂騎士団が到着したのは午前八時頃だった。神聖文字が彫り込まれた盾を装備する重騎兵を中心とした部隊である。

 聖堂騎士団が到着しただけでアリストラス皇國軍の士気は上がる。



「お疲れ様です。エレクトラ陛下」

 カルミナ騎士団長を筆頭に主だった者達が幕舎に集まった。



「前置きは良い。状況を! 」

 これまでの戦況を報告し、話しが災厄の渦に及ぶ。転生者の事、そして魂を糧に膨れ上がる災厄の渦と言う呪いについて。



「ではこのまま消耗戦を続ければ災厄の渦に力を貸す事になると? 」 



「はい。災厄の渦の中心を叩くほか、この状況を止める方法はありません。人間、妖魔両方の魂を災厄の渦は糧としています」

 ヒロトはライアット公国の戦略地図を広げながら話しを進める。



「敵は補給という概念がありません。なので内地に引き込んで補給を断つという戦略は使えません。ですから出来るだけ敵の進行を止める為の防御線を幾重にも構築して遅滞戦略を行う事が肝要です。妖魔軍の足を止めた上で、我が方の選抜隊で災厄の渦の中心を急襲するほか無いと思います」

 妖魔の数が多いと言っても無限に沸いて出てくる訳ではない。



「わかりました。その作戦を了承します。すぐに取り掛かって下さい! 」



「あとゴドラタン軍の動向ですが、一度彼の国の皇帝と会う事は出来ませんか? 」



「ヒロトがですか? 」



「はい。勅使でも何でも名目はお任せします」




◆◇◆




「主君! エレクトラがライアット公国に入りました」

 暗黒騎士が恭しく跪く。



「彼の皇女も贄の1人だ。私が出向いて縛りあげよう。きっと何もしない神もお喜びになられる」

 そう神は何もしない。あれだけ祈りを捧げても彼女を助けてはくれなかった。



「わが暗黒騎士団は敵前線を突破し、ライアット公国を蹂躙する。わが騎士団が穴を開け、そこへ妖魔第三軍を進軍させる」



「よいな。スパルタクス殿」



「ああ。運用は貴殿にまかせる」



「進軍する! 」

 漆黒の重装甲に身を包んだ暗黒騎士団は、一斉に動き出した。


 


◆◇◆




 パルミナ連合王国幕府軍が到着したのはエレクトラが到着したニ刻後の事だ。

 豪華な幕舎が建てられ、そこに各軍の代表が参集する事となった。

 アリストラス皇國からはエレクトラ、ヒロト、そしてカルミナ団長が参集した。

 一通り各国の戦力、布陣、作戦を確認し一旦会議は終了となった。



「ヒロト。災厄の渦に一番詳しい御仁に会わせよう」

 そう言ってエレクトラはヒロトを幕舎の更に奥の間に連れて行く。




「パルミナ連合王国幕府軍、征夷大将軍クレオパトラ七世陛下の御成である! 」

 幕舎のカーテンの奥より威厳ある美しい女性が現れる。



「これはこれはエレクトラ殿。お久しぶりね」

 女性は旧知を見つけて話しかける。



「クレオパトラ陛下。いつも麗しゅう。此度は自らのご出陣痛み入ります」

 エレクトラはクレオパトラの手にキスをする。



「また千年前と同じ過ちを繰り返す事になってしまいました」



「それは我が兄の愚行のせいです。陛下がお心を痛められる事では御座いません」

 エレクトラは居た堪れない気持ちだった。



 ……どう言う事だ?彼女はあのクレオパトラ七世? ならば召喚者か? 十人目の? 

 ヒロトは黙ったまま二人の会話を聴いていたが、聞かずにはいられなかった。



「クレオパトラ陛下。発言をお許し願えますか? 」



「よい。許す」



「は! 私はヒロトと申します。召喚者です。陛下も召喚者であらせられますか? 」

 ヒロトは慣れない言葉使いに苦労した。



「妾は前回、このエレクトラのご先祖によって召喚された」

 


「前回? という事は千年前にでありますか? 」

 信じられない。そんな事があり得るのか?



「千年前、災厄の渦を完全に塞ぎきれなかったのじゃ」




◆◇◆



 静岡県富士山麓某所


 静まり返った富士の樹海を、最新鋭の銃器を持って走る者達が居る。各々が別種の銃器を持っている。


 「……デルタ、左から回り込め。奴は何故あんなに動けるんだ? 」

 内閣調査室特務戦闘群の三個小隊が、たった一人に翻弄されている。最新のハイパーリンクシステムで各個人は連動しているが、そのネットワークが妨害されている。あり得ない事だった。


「完全シールドされていると聞いていたが、ありえん! 」

 相手は【風見鶏】では無い、その子飼いの者に翻弄されているのだ。


『……アルファ……奴が……ガガガガガガ…………』



「どうしたデルタ?! えぇい、ネットワークが切れた。ろくな装備もない奴に何故?! 」

 右側の小隊の方から銃声が聞こえていたが、静かになった。



「噂に聞く能力者だな。【スパイダー】を出すぞ! 追いたててやる。左右から挟み込め! 」

 昨年防衛陸上軍に配備された、直径五十センチの戦闘ドローンを飛ばす。超小型で強力なペンシル・ミサイルを搭載した殺戮兵器だ。


「何だ? 」

 ミサイルで左右から追いたてている筈だが、そこに奴は居なかった。何処にいったのか?


「こっちだよ〜ん! 」

 木の上から小隊のど真ん中に影が降り立ち、日本刀で切り込んで来る。


「こ、こいつ! 」

 小隊長が、ホルスターから小銃を抜き、弾丸を発射した。がその弾丸を影は避けて見せた。


「馬鹿な?! 」

 小隊長は当て身を喰らわされて、昏倒した。

 その瞬間、各人のヘッドディスプレイに、終了の文字が浮かぶ。


「峰打ちだから大丈夫だよ〜」

 どう見てもまだ十代の少女だった。





『おめでとう!! 特務隊は全滅です〜! 」

【風見鶏】は嬉しいそうだ。


「わかったわかった、貴様らの実力は認めよう。貴様の戦力も作戦に組み込んでやる」



『私達の、戦力を組み込んで下さい〜の間違いじゃないの〜』

 憎たらしさ、この上ない。

 モニターではデフォルメされた鶏のキャラクターがケツを振っている。



「わかった、わかった……で、あとどれくらいだ?! 」



『あとちょうど半年だね。もうカウントダウンは始まってるよ。それまで精々訓練するんだね〜。なんなら知り合いの傭兵部隊に入隊させて、本当の戦場を体験させてやろうか? 』

 満面笑みを鶏は浮かべていた。



「時空の歪みが検出されているのか? 」



「ファイヤーグランドライン内に兆候は出ている。量子AI【クリシュナ】にも少なからず……だが想定の範囲内だよ。向こうから跳躍してくる二つの存在は、デジタル世界ではNPCになる。だから【クリシュナ】で制御される」

 鶏はタバコをふかしながら、自信たっぷりだった。



 新たな召喚者が登場しました。がどうも千年前に召喚されたと言う。そのお話は次回の投稿で!

 (映画 攻殻機動隊を観ながら。)

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