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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
2章 アイツは我々十二人の中で最弱……
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第23話  ねぇ、アレ使ってもいいかな?


「さぁイザーク! 僕が相手だ!」


 ジークはベンチが林立する通路を駆け抜け、イザークに攻撃を仕掛けた。

 一方の彼はその激しい一撃を受け止めるのではなく、涼しい顔を崩さず、細身の剣を器用に返し(たい)を入れ替えながら流す。

 その何気ない最小限の動きだけで彼の強さを感じ取り、ジークは鳥肌を立てる。

 恐怖からではなく、本当の強者と戦える喜びによるものだ。

 間違いなく彼はジークが今まで戦った中で一番強い剣士だった。

 体を入れ替えたおかげでイザーク越しに仲間の様子が見える。

 マリアは神官たちと聖女を防護魔法で守るべく詠唱を始めており、ヨハンとチェリーはイザークの部下たちに攻撃を仕掛けていた。

 それを見て取ったジークは心置きなく一騎打ちに望むことにする。

 


 実は今回の件で、ジークは控えめに言ってもあまり役に立っていないと自覚していた。

 もし自分が作戦を主導するなら、単純に軟禁されている司祭を確保すべく聖堂に侵入し、救い出した彼の口からイザークを悪事を公表させる。そしてイザークと最終決戦に臨むという感じだったろうと思う。

 それに比べて今回ヨハンのやったことは、随分と回りくどくて大掛かりだった。

 治安部隊だとか軍のトップなども出てきて国を挙げての大盛り上がり。 

 少なくとも今回のことは()()()()()()()であるジークにとっては、手に余る話になっていた。

 依頼者のダースとしても流石にここまで大事になるとは思っていなかったらしく、終始目を白黒させていた。

  

 ――ここを逃すと、もう見せ場つくれないかも。


 ジークは苦笑しながらイザークとの距離を測っていた。

 固定されたベンチが並ぶ戦場は、機動力を重視する彼にとっては鬼門と言える。

 それでもやりようは幾らでもあって、ジークは背もたれの部分を足掛かりに飛び跳ね、立体的に仕掛けて相手を翻弄する作戦を取った。

 迎え撃つイザークも狭い通路は全く足かせにならないのか、機敏に動き回っていた。

 彼もどこか楽し気で、身体を動かす喜びを感じているようだった。


 ――きっと彼も本来は僕と一緒で、ヨハンのように頭を使うタイプじゃないんだろうな。


 ジークは勝手にそう判断し、どこか親近感めいたモノを持ちながら戦っていた。



 基本的に人間は殺さない。

 たとえゴロツキのような悪人でも出来るだけ殺さない方針だ。

 これはジークとマリアが決めたことで、臨時パーティメンバーである一郎と茉理にも求められる。

 そして今回の突入にあたって茉理は、ジークから『あの魔法』を使うのを固く禁じられていた。

 それ以外にも命にかかわるような魔法は出来るだけ避けるようにと。

 期せずして主人公から見せ場を奪われた形の茉理は一郎に泣き付き、別の魔法を用意してもらったのだが――。


「……『納豆(710)食って平城京』」


 その詠句とともに茉理の手から白い光が天井に向けて飛び出し、弧を描いてイザークの部下二人に降り注ぐ。

 それを浴びた彼らの動きがみるみる鈍くなっていった。

 一郎のイメージとしてはネバネバの蜘蛛の糸らしい。

 そこから納豆が連想され、何故か平城京に至ったそうだ。

 相変わらずの一郎クオリティに茉理は閉口したのだが、ただそんなコトより彼女が知っている平城京の覚え方は『なんと(710)素敵な平城京』であり、さりげなくそれを伝えると彼は『……これがジェネレーションギャップってヤツか! このゆとり世代め!』と悔しそうに爪を噛んでいた。


 

 徐々に動きが鈍くなっていく現象にイザークの部下たちは困惑しながらも、剣を振るい続ける。

 一郎は軽やかなステップで彼らの波状攻撃を回避し、死なない程度にマイルドに調整された魔法を至近距離で発動する。それはボクサーがボディに拳を打ち込むかのような動きで、無駄にスタイリッシュ。

 それを喰らって苦悶する彼らが何とか一矢報いようと強引に剣を振り回すも、それを簡単に躱してカウンター気味にもう一撃。


 ――またカッコいい戦い方思いついちゃったりして!


 一番ムカツクのは、小説内で『茉理の魔法で動きが鈍くなった』という()()()()()をあっさり削除して、さも二人同時の激しい斬撃を紙一重で躱しながら魔法を打ち込んでいるかのように書き直すだろうことだ。

 嬉々としてカッコいいヨハンを描く一郎の後ろ姿を、茉理の脳は明確に浮かべていた。

 やがてイザークの部下二人が同時に膝をつく。

 もう戦えそうにない心の折れた彼らに神官たちは駆け寄り、彼らの腕と足を縛って拘束していった。



 ジークとイザークの戦いは激しさを増していた。

 どれだけ打ち込もうと、イザークは華麗にそれを捌いていく。


「ホラ! 最初の威勢はどうしたんだ!」


 ジークとしてもスピードに乗れないせいで一撃が弱く、いつものように相手を吹っ飛ばすような戦い方が出来ずにいた。

 焦って大振りになったところを躱され、態勢を崩してしまった彼のスキを突く一撃が容赦なくジーク

の太ももを貫き、悲鳴を上げて膝を付いた。

 イザークはこの絶好機をモノにすべく狙いを定めるのだが、慌ててその場を飛び退く。

 次の瞬間、彼の居た場所に雷撃が落ちた。

 

「お待たせ」


 その声にハッとして見渡すと、ヨハンとチェリーの二人がイザークを左右から囲むような位置に陣取っていた。いつの間にか痛みが消えていたので振り向くと、そこには当然のようにマリア。

 ようやく望んでいた四対一の状況にホッとするような残念なような、ジークは小さく溜め息をつく。


「構わないぞ、四人まとめてかかってこい!」 

 

 部下を倒され、圧倒的不利な状況にも関わらず、イザークは楽しそうに笑みを浮かべた。



 イザークのそれはブラフでも何でもなかったらしく、目に見えて動きがよくなってきた。

 どうやらこれが本気の彼の実力らしい。

 飛び道具を使える魔法使いから仕留めようと、イザークはチェリーに狙いを絞って激しく攻撃を仕掛けていく。


「ちょ、ちょっと! センセ! イザークって最弱じゃなかったの?」

 

 押し込まれているチェリーがギャーギャー喚きながら逃げ惑う。

 だがまだまだ余裕はあるようで、彼女のその緊張感のなさにジークもマリアも苦笑を禁じ得ない。

 しばらくヨハンも見守っていたが、ようやくそれに割って入った。


「一応親衛隊の中では最弱だぞ? ……まぁそもそも親衛隊がこのセカイで最強クラスの戦闘集団なんだがな」


 彼はチェリーを背中で守りながら言い訳を口にする。

 

「……最弱で悪かったな!」


 イザークは笑みさえ浮かべながら、だけどやはり少々気に障ったのか今度はヨハンに矛先を向ける。

 流れるような剣技だが、ヨハンはそれを躱すことなく(てのひら)で受け止めて見せた。

 何かしらの防護魔法が掛かっているのだろうが、相変わらずの得体の知れなさにジークは笑うしかない。

 その間にマリアがジークの肩に手を置き、防護魔法各種でサポートする。


「……あの二人に負けていられないからね。……それじゃ、行ってくるよ!」


 ジークが冗談めかしてマリアにそう告げると、彼女は「いってらっしゃい」と手を振って彼を送り出した。



 一郎とジークはイザークに対して波状攻撃を仕掛け始めた。

 その急造の連携ながら、茉理の目から見ても息が合っているように見える。

 だがイザークも負けてはいない。

 さらに動きを機敏にして受け流し反撃する。

 まさに死闘だった。

 だが、それを見ながら平城京を唱える茉理の表情を見る見る曇っていく。

 

「…………ねぇ、アレ使ってもいいかな?」


 ポツリと呟く茉理に三人が「「「ダメ!」」」と声を揃える。


 ――この作品は『R指定』じゃないから、人を殺したり血がドバーってのはダメなのは分かる。

 でもあの魔法は詠唱が『極めてアレ』なだけで、発動後はキラキラして虹が出るファンシー仕様だし跡形も残らないから、人間に使ってもギリギリセーフなんじゃないかな?


そんな感じで、茉理は今、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っていたあの魔法をぶっ放してもいいかなと思うぐらいに退屈していた。



 流石のイザークも徐々に疲れが見え始めた。

 一方のジークの斬撃は鋭さを増していく。

 茉理の平城京にマリアのサポート、そして一郎の援護攻撃も入る。

 時間経過と共にイザークは押され始めた。

 その様子を見た一郎と茉理はさりげなく一歩引き、あとはジークとマリアに任せる。

 ジークが渾身の一撃を振り抜くと、ついにイザークの剣が折れた。

 飛ばされた剣先が空中をクルクルと舞い、広間に飾られていた巨大な女神ラフィル像の足元にカランと綺麗な音を立てて落ちる。


 ――いいね! そういう演出がいかにもラノベだね!


 ようやく終わったことをに安堵した茉理は、「ん~」っと両腕を天井に向けて伸ばした。




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