第22話 イザークさんって『親衛隊のレプリカ』だったりして?
茉理たちは扉の陰でニヤニヤしながら、ウソにウソを重ねてドツボにハマっていくイザークの演説を聞いていた。
『――そもそもマリアは殺されてなんかいませんよ?』
イザークを問い詰める神官のその言葉を合図に視線を合わせ、「いっせーのーで!」で思いっきり扉を蹴り開ける。
気分的には『どっきり大成功!』の札を持って、「テッテレー!」と叫びたい気分だった。
「勝手に私を殺さないで頂けますか?」
マリアは最前列で飛び切りの笑顔を見せた。
「さて、それではもう一度話を聞かせてもらおうか?」
混乱の最中にあるイザークに、一息つく間を与えるような優しさなど持ち合わせない一郎は、一番前に進み出て早速彼への尋問を開始した。
ここからは彼のターンだ。
茉理としてもイザークがどんな醜態を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。
周りの人たちも同様なのか、自然と漏れ出てくる笑みを隠そうともしなかった。
「見ての通りマリアはこうしてピンピンしている訳だが、そもそも何故キミは、彼女が殺されたと信じ込んでいたんだろうね?」
本来ならイザークは、『そもそもお前は一体何者だ?』などと聞き返す場面だろうが、一郎の徹底した上から目線、かつ、有無を言わせない質問の形でのダメ出しから逃げるように俯いた。
そして拗ねた子供のように言い訳を口にする。
「それは、……このペンダントを持っていたトーリとかいう男がマリアを殺したと白状したからで――」
「いいや、違うね。先程キミは『マリア殺害の指示を出していたトーリという男を探し出し――』と言ったはずだ。それでは時系列が狂ってしまう」
「いや、それは――」
「もし仮にキミが言う通り、マリアが殺されたと聞いていない状況で彼に会ったとして、逆にどんな話の持って行き方をすれば、彼がペンダントを取り出してマリアを殺したと白状するのだろうね? ……まさかとは思うが、キミとトーリとやらは初対面ではなく、頻繁に連絡を取り合っていたりするのかい?」
一郎はイザークに最後までしゃべらせることなく、矛盾を突きながら確実に追い詰めていく。
皆から疑惑の視線を浴びた彼は、何度も首を振って「違う」と口にする。
「……すまない、きっと私は動転していたんだ。…………確か、行方不明になった巫女マリアを保護すべく探していて、トーリがそれを知っているという話を聞き、彼を問い詰めるとマリアを殺したと白状した。……彼が証拠のペンダントを持っていたことが動かぬ証拠だと判断し、その場で処刑。……そんな流れだった気がする」
一応筋が通る言い訳をしてきた。
イザークの、この無駄に口が回る小賢しい感じは一体誰に似ているのだろうと、茉理は腕組みしながら考え、すぐに自分が担当しているアレだと思いつく。
そしてそのアレといえば――美味しすぎる獲物を前に舌なめずりしていた。
「なるほど、確かに教会関係者なら、巫女を誘拐されたと知れば冷静ではなくなるだろう。その気持ちは分からないでもない。…………ちなみに何故彼女が巫女だと知ったのか、その経緯を聞いてもいいかい?」
一転して優しい言動に変化した一郎に、イザークも表情を緩めた。
「それは、そのペンダントを…………初めて会った時に彼女が持っていたからだ」
ここからはたった一言の失言が命取りになる。
イザークは慎重に言葉を選びながらゆっくりと言葉を紡いでいた。
もし『トーリを殺したときに知った』と言ってしまえば、巫女が行方不明だから探したという前言に矛盾が生じる。
茉理はその判断に感心するが、ここにいる面々はそれこそが一郎の罠だと知っていた。
今回、どうあがいてもイザークに勝ち目はない。
それを知らないのは必死で言い訳を紡ぎだしている彼だけだった。
「なるほど、……そういえば先にマリアと会っていたんだったね」
あからさまに落胆し舌打ちする一郎の姿を見て、イザークは切り抜けたと確信したのか、気を良くした彼は思い出すように天井を見上げながら言葉を続けた。
「あぁ、巫女なら肌身離さず持っているペンダントだからな。きっと何かの拍子に見えたのだろうな。どのような形で目にしたのか、そこまでは流石に覚えていないが」
一郎は何度も俯くと、さり気なく一歩引いてマリアに場所を譲る。
彼女は頷くとイザークの前に立ち、困惑の表情で口を開いた。
「あの……そもそもの話になりますが、何故この私がラフィルの巫女であることが前提になっているのでしょう?」
マリアのとっておきのセリフにイザークは呆けた顔を見せる。
彼女はそんな彼を一瞥し、笑顔で修道服をくるりと翻すと神官たちに振り向いた。
「……私ってラフィルの巫女でしたっけ?」
小首を傾げ、あざとさを前面に押し出して見せる彼女に、仕掛け側全員が笑いをかみ殺す。
「実は我々も先程からそれが不思議で不思議で。……何故イザーク様がマリアさんのことを巫女と呼ぶのか、皆目見当がつかない次第でして」
神官の一人が顔面を蒼白にしたイザークを横目で見ながら、首を竦める。
マリアは何度も頷くと、再びイザークに相対した。
彼はようやくその言葉が、その言葉通りの意味だと理解したらしく、青く変色した唇を噛みしめる。
ようやくこれこそが本命の罠なのだと気付いたが、すでに後の祭りだった。
「あぁ、ちなみにそのペンダントはレプリカですよ? まさかペンダントの真贋も見分けられない親衛隊がいるなんて思ってもいませんでした。……あ! もしかしてイザークさんって『親衛隊のレプリカ』だったりして?」
挑発的なマリアにイザークは激昂した。
「貴様ら! ラフィルの巫女を僭称するなどという暴挙、どのような処分が待っているのか分かっているのだろうな?」
どすの効いた脅しだが、マリアはどこ吹く風でさらりと受け流す。
「ですからここにいる者たちは一言も『マリアはラフィルの巫女』だなんて吹聴していませんから。……イザークさんが勝手にそう思い込んだだけです」
「だがそのペンダントを持って聖女らしき活動すること自体が――」
その言葉に待ったをかけるのは一郎。
「言っておくがそれは私の持ち物だからな。ヴィオールの露店で買ったそれをゴロツキが持ち逃げしただけの話だ。……マリアはそれに指一本触れていないし、当然ながらキミがマリアと会ったときも彼女はそれを身に付けてなどいない」
イザークは奥歯を噛み締め、彼を罠にハメた面々を睨みつけた。
「取り合えず聖女さんが話せるようにしておきましょう」
マリアが魔法をかけるとリリィの身体がほんのり光った。
「……あ、こ、声が出る!」
彼女は勢いよく立ち上がると、自分の身体を押さえこんでいた神官たちに訴える。
「この人が言ったことは全部嘘です! 彼が『金は弾むから適当な誰かに聖女役をやらせろ』と、トーリに持ち込んだんです!」
まさか解除されると思っていなかったイザークは、これ以上彼女を生かしておけないと細身の剣を鞘から抜く。そして一瞬にして聖女への距離を縮めると、悲鳴が巻き起こる中、無防備な彼女の背中に剣を突き刺す――が既に結界か何かが張られていたのだろう、寸前で弾かれた。
「残念だったね。キミのような三下クンの取る行動なんてお見通しだ。先に手を打たせてもらったよ。……さぁリリィ、こっちにおいで」
彼は紳士的な笑顔で両手を広げると、飛び込んできた聖女を胸に抱きしめる。
「……今の話を公式の場でお願いしてもいいかい?」
一郎の甘い囁きに、彼女はうっとりとした表情で頷く。
どう反応したらいいのか分からない茉理は、取り合えず酸っぱいモノを食べたような顔で一郎を睨みつけていた。
「ちくしょう! もう少しだったのに!」
イザークは騎士の仮面を脱ぎ捨て、地団駄を踏みながら「クソ!」と何度も悪態をつく。
全員が破れかぶれになった彼がどんな行動するのか注視している中、彼は瞑目し数回深呼吸を繰り返す。
そして何事もなかったかのように表情を消し去ると、静かに剣を構えた。
「……まぁいいか。この場にいる全員を殺してしまえば、全てことも無し、だ」
その言葉に彼の部下も無言で構える。
――結局最後は力技。
なんてチープな悪党。さすが最弱。
茉理はそんな緊張感の無いことを考え、クスリと笑った。




