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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
2章 アイツは我々十二人の中で最弱……
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第21話  何故マリアがラフィルの巫女だと?


 イザークは沈黙を続ける神官たちを見渡した。


「――しかし私が不正を犯してまで解決しようと頭を悩ませていた事件は、思わぬ形の結末を迎えた。しかも再び『聖女を名乗る者の託宣』によって、だ。当然ながら私は疑心暗鬼になった。……そうだろう? 今までの聖女が失敗したと思えば、次の聖女が現れたのだ。訳が分からない。私は彼らの素性を確かめるべくこの聖堂に呼びつけた。そして話を聞いて彼女――マリアが本当に教会関係者だったことを知った」


 今の言葉に彼らの数人がピクリと反応する。

 イザークはここからが本題だと深呼吸した。


「彼女が殺されたという事実に、この私が一番衝撃を受けている! こうなる前に手を打っておくべきだった! 偽聖女一味が本物の聖女である彼女に手を掛ける前に!」


 イザークは、マリアを守ることが出来なかったこと、その()()()を認めると主張する。

 神官たちは想定していた展開と違うと騒ぐだろうが、これが彼の最善だった。

 これで押し切るつもりだった。


「親衛隊の人間として、マリア殺害の指示を出していたトーリという男を探し出し、まさにほんのつい先程、この私自らが彼奴ら一味の処刑を済ませた。……彼らの死体を確認したければ部下たちに聞くといい」


 イザークが部下に目を合わせると、彼らも頷く。

 視線だけで意思疎通出来る程度には訓練してある。

 死体もまだ彼らの手の中にある。

 有利な証拠は全てイザークの手元に揃っていた。




「遅きに失したのは認めよう。だが、教会の人間としてきちんと彼女の仇を討った。……それなのに、皆はこの私のことを、さも黒幕か何かのような言い方をする! ……何故私が『ラフィルの巫女』であるマリアを殺さねばならない? 巫女の守護者である親衛隊の私が!」


「――何故マリアが『ラフィルの巫女』だと?」


 一番前で彼を糾弾していた神官の口から鋭い声が飛んできた。

 彼と周りにいる神官たちの目が獲物を見つけた肉食獣のように輝きだし、口元に笑みらしきものが張り付く。

 その反応を見て取ったイザークは、彼らが今までどの言葉を引き出そうとしていたのかを知り、奥歯を噛み締めた。


 ――そういうことか! 

 コイツらは私が『ラフィルの巫女』という言葉を発するのをずっと待っていたのだ!

 彼女のペンダントを奪われていることに気付いた彼らは、それを持ち出した人間とその関係者のみが知る『ラフィルの巫女』という事実でもって、私を真犯人だと糾弾するつもりだった、と?


 やや暴論だが、その取っ掛かりを与えてしまった迂闊(うかつ)さを彼は悔やむ。



 イザークは短時間の思考の末、腹を(くく)って胸元からペンダントを取り出した。

 それを見て神官たちが一斉に息を吐く。

 あちらの思い通りの展開になっていることを理解しつつ、彼は弁解を続けた。


「このペンダントは先程、私が処刑したトーリが持っていたものだ。これはラフィルの巫女だけが持つペンダント。おそらく彼らは短絡的に金目のモノだと勘違いしたのだろう。……まったくもって腹立たしい限りだ。これを金に換えようなどと考える人間がまだこのセカイに存在するとは。――これはラフィルの巫女が肌身離さず持つからこそ意味があるもの。ペンダント自体に価値があるのではなく、これを持っている巫女こそが価値ある存在なのに!」


 理論武装は神職者にとっての必須要項。

 その中でも上位に位置する親衛隊のイザークならば、話しながら()()()()()()することなど、お手の物だった。

 神官たちはアテが外れたのか、無言のままイザークを鋭い視線で射抜きながらも言葉に耳を傾けている。 

 そんな彼らの様子に気を良くしたイザークは、ここぞとばかりに仕上げに入った。


「巫女の価値は計り知れない。……だがそれも、ラフィル不毛の地であるここセリオでは到底理解しえぬことだろうか」


 イザークはリリィを睨みつける。

 押さえつけられ、言葉を奪われた彼女は涙を流して首を振ることしか出来ない。


 ――考えてみれば、この女も早々に処分しておくべきだった。

 まったく続々と悔やむ出来事が現れる。

 もし()があるのなら、もっと効率のいい方法を探さないと。


 彼は小さく溜め息を吐いた。


「……だが、それでも私の罪を消すことは出来ないだろう。実は聖女マリアを呼び出したときに、すでに私は彼女が巫女であることに気付いていたのだ。……だが、そのときの私は親衛隊として当然の責務でもある彼女の保護を申し出ることはなかった」


 神官たちが一斉に息を飲んだ。

 イザークはこの機を逃さず声に抑揚をつける。


「理由は単純。恥をかかされたと感じたからだ。巫女マリアに何の罪があろうか! ……すべては私の短慮(たんりょ)が招いた結果だ」


 イザークは大袈裟に首を横に振り、崩れ落ちるように(ひざまず)いた。

 そして近くに置かれていた女神像に正対し、両手を胸の前で組む。


「――女神ラフィルよ! 私は親衛隊という人を導く身でありながら、己の身勝手さで貴女様の声でもある巫女の命を危険に晒しました。誰がどう私を(かば)ってくれたとしても、私自身がその罪を自覚しております。この罪は私が生きている限り、決して消えることは無いでしょう。……それでも私は親衛隊を務め続けることが(ゆる)されるのでしょうか?」


 彼のその問いに答える者はいない。

 そもそも、女神ラフィルに問いかけられた言葉に応えられるのはラフィルのみ。

 たとえ教皇であってもまかりならない。

 彼女の言葉を代弁出来る唯一無二の存在が巫女だった。



 当然のように続く重苦しい沈黙の間、イザークは苦悶の表情を一切崩さない。


「……ラフィル様。なにゆえ()とはこれほど未熟な存在なのでありましょうや。親衛隊まで上り詰めた私でさえ、このように欲に駆られ、虚栄心を抱き、嫉妬し、神官や司祭に傲慢な態度をとる。()は、あとどれ程の時を貴女様と共に歩めば、まともな存在になれるのでしょうか?」


 イザーク渾身の演説を前にしても、居並ぶ神官たちが心を動かしたような気配はない。彼が何を間違えたのか再考する前に、神官の一人が思いもしない一言を発した。


「イザーク様? ……貴方は一体何をおっしゃっているのですか?」


 あまりの暴言にイザークは立ち上がり激昂する。


「貴様誰に向って口を利いて――」


 しかし神官は落ち着いたものだった。むしろ笑みさえ浮かべて。

 そしてもう一度繰り返す。


「いえいえ、何か勘違いされているのではないかと心配になってきて――」


「神官ごときが私に何を!」


 イザークが一喝するもどこ吹く風で、神官たちは目配せしながら必死で笑いを堪えていた。

 あまりの不遜に剣を抜こうとしたそのとき――。


「そもそもマリアは殺されてなんかいませんよ?」


 イザークがその言葉の意味を深く考えること数秒。

 もしかしてそれは本当に言葉通りの意味なのかと顔を上げた瞬間、扉が派手に蹴り開かれた。

 そこから入ってくる者たち。

 ――その最前列にマリアがいた。





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