↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ThebesWorldOnline  作者: 海村
96/137

第95回 「Purity feather」


 それは何だったのか。



 後ろ側。

 俺たちが此処まで全力で駆け抜けてきた橋上を。

 膨大な光量を伴った光が、高速で此方へ近づいてくる。


 橋の母材を抉り、進路上の全てを跳ね飛ばし、敵味方問わず吹き飛ばすソレ。


 後にして思えば、ほら、あれだ。


 祭事式典公園基地の夜に、ジャンローゼが決闘の時に使っていた剣技。

 "真空光波斬(ソニックウェーブ)"、だったか。


 概念としては、あれと酷似しているようにも思える。



 だが、ちがう。


 圧倒的に。

 そして絶望的に。



 その"規模"が!



 まるで深淵から、俺達を引きずり込む悪魔の掌の様に。

 逃がすまいと追い縋る其れは、これまで順調に進んできたすべてを吹き飛ばしてしまうには十分で。


 流石、と言おうか。

 真っ先に動けたのは、湖の方を向いていたはずのアシュリー。


 全ての表情が消えた彼女は、瞬間、俺とマナを橋の両側へと突き飛ばす。


 光源に見惚れすらし、反応らしい反応も出来ていなかった俺たちは、成す術もなく欄干に背を打ち付ける。


 衝撃に混乱する視界に、俺達を突き飛ばした姿勢のまま、それ以上動けないでいるアシュリーが映る。


 あまりにも無防備に。

 膨大なエネルギーを伴った光波が、アシュリーのアバターと衝突する。


 手を。


 アシュリーに向かって、手を。


 差し出す暇さえない。



 パァァァァンッ!!!



 破裂するような轟音を響かせ。

 衝突のエネルギーは行き場に迷い、彼女の細い体を高く、跳ね上げる。


 旋風に舞うぼろきれか何かの様に、嵐に抗う術を知らぬ、蝶か何かの様に。彼女の体はあまりにも無抵抗に宙を舞い、落ち、跳ねて、転がる。


「あ・・しゅりー」


 俺がようやくその名前を呟くころには、彼女の体、アバターは呆気なく霧散した。


 今は逆にそれがありがたいとさえ思う。


 その死に様を明確に見せられ、死に目の一言でも残されたのならば。俺はまた、やり場のない感情に赤く塗りつぶされ、狂気に足を踏み入れたかもしれない。


 反対側の欄干を見やり、相棒の無事が確認できたことで、一時、胸をなでおろしながら。

 しかしながら、俺は何か苦いものを噛みしめた様に顔を歪め、元来た道を振り返る。


 其処に居るはずのない人影を。

 居てはいけない人物を。


 茫然と、眺める。


「ガヴリエル・・・ブラント」


 口からこぼれた声が、自分のもので無い様な非現実感。

 ああ、絶望ってのはこういう感覚か、と。安っぽく表現して納得しようとして見て、でもやっぱりだめで。


 頭が混乱する。


 喉がひりつく。


 いつの間にこんなに乾いたのかと思うほど、喘ぎ。

 

 いつの間に追いついたものか、僅か十数メートル先に佇む。


 深紅の長髪を揺らす、その男は、紅鉄の剣騎士団ギルドマスター、ガヴリエル・ブラント。


「大した組織力・・・と言いたいところだが」


 そこでわざとらしく言葉を切り、蔑むかの様に見下し、短く、鼻で笑う。


「俺一人に屠られていては――なぁ?」



 "嗚呼、ジャンローゼは敗れたのか"



 彼が、そう簡単には振り向かせないと言っておきながら、今ここにガヴリエルが居ることが全てを物語る。



 ここまでか。


 ここまでなのか。

 


 茫然としたままそれでもお互いに歩み寄り、いつの間にか俺とマナは言葉もなく指を絡めて。


 彼の男、ガヴリエルもいつの間にか、見上げる眼前に。

 絶望する俺達を面白がるように、ガヴリエルが口を開く。


「尾を振る向きが違ったな――新人。 残念だが我々にもメンツがある」


 下卑た笑いをする割に、そこそこ様になった物言いをする、そいつに。

 何も言い返せずに見上げるしかない自分。



 わかっている。


 これで死ぬわけじゃない。

 ただ、ちょっとしたペナルティを受けて、ヴァルハラに戻る。


 迷惑をかけたジャンローゼたちには、メールを使って謝ればいい。


 ただ、ここで。


 マナを死なせることで。


 守れないことで。


 俺の中の決定的な何かが



 ――決まってしまう気がした。



 目の前で。

 嫌らしいくらいにゆっくりと、ガヴリエルが大剣を振り上げる。



「――んだ?」


「おい、アレ――」

「何かの――」


 敵か味方か。周囲の誰かが口々に呟く。


 どよめきは次第に膨れ上がり。

 お茶を濁されたガヴリエルすら悪態をついて、どよめきの理由――橋の真横。猛烈な速さで湖上をこちらへ向かって接近してくるそれを振り仰ぐ。



「オイ、嘘だろ」

「なんかの冗談じゃ」


「こっちに――来」



 ズガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアァァァァァァアァァァンッ!!!

 


 轟音。


 全員――ガヴリエルですら――釘付けになり、目が離せないまま。

 突如彼方より飛(・)来(・)した木造の巨大な帆船のような物――


 飛(・)行(・)艇(・)は橋に突き刺さるようにして激突し、瓦礫をまき散らしながらようやく止まる。


 その場の全員が呆気にとられ、飛行艇に注目せざるを得ない。

 その注目の中、帆船上の甲板から数名の人影が、ガヴリエルを挟んだ向こう側に、飛び降りる。



 薄桃色に桜の花びらを散らした着物姿。艶めかしく衣紋を抜き、白い項を魅せる。眼に痛いほどの鮮やかな桃髪を高く括り、錫杖の様な杖を携えた女性。

 そして方や、スリムのジーンズに"今回は本気(マジ)"などと達筆に書かれたTシャツ姿。短い金髪に何処かやる気のなさそうな顔の青年が、五尺は在ろうかという黒塗りの大太刀を肩に担いで付き従う。



「ギルド真白の羽根《ピュアリティ・フェザー》、参上だコラァァァァァァァァ!!!」


 最  強  ギ  ル  ド

       真 白 ノ 羽 根《ピュアリティ・フェザー》

               推 参 !


 である。


 全員の目をくぎ付けにし、やたら派手に登場。アニメか何かだったら"ばばーん!"みたいな盛大な効果音が付いたろう。まぁそれでなくとも空飛ぶ帆船で橋に激突してきたわけだが。


 さてさてジャンローゼから聞かされた、"最強ギルド"の名を高らかに叫ぶその女性は。


 どう見てもピンク姐さん――ヴィアーネ・サルタリク、その人である。

 そして後ろに付き従う、金髪の青年は武器屋ケンちゃんだ。


 見れば、飛行艇の船上から見知った顔が次々と。


「オイオイ、戦闘なんて久々だけど大丈夫かァ?」


 服屋のエイジさんに


「あらぁ、ちょっとどうしましょう?」


 奥さんのサキさん。


「いきなり招集されて何がなんだかわけわかんないんだけど、とりあえず紅鉄さん殴っときゃいいのー?」


 ヴァルハラ魔術協会に居た、ケヴィン。

 他にも、知らない顔が何人かいるが、ギルドメンバーだろうか。


 何にしろ――


「え。 ぴんく姐さ・・・え?」

「ピュアリティ・フェザー――って」


 俺や、そしてもちろんマナも。

 茫然とその名を呟く。


 そして仲良く同時に、その言葉の意味するところを悟る。


「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!!?」」


 俺もマナも、ただあんぐりと口を開けて、茫然とすることしかできない。


 確かに、彼らがとんでもない例外的高レベルだという事は、最近になって分かっていた。


 でもだからって、"最強ギルド"?


 まじなの?


 ピンク姐さんとか何気にレオタードから着物になってたりするけど、本気装備ってやつなの? ケンちゃんさんはいつもの戦斧(バトルアックス)じゃなくて、馬上太刀みたいな長刀だけど、本当は刀使いなの? エイジさんとかサキさんとか全く戦闘できそうにないんだけど、なんでそんなに余裕なの? 実は高レベルなの? ケヴィンもそうなの? 脇役じゃなかったの?


 そんな理解の追いつかない俺達をさらに置き去りにして、今度は飛行艇の船首部分にヒーロー立ちする人影。あれだ。将軍様が振り返った時の"カーン!"って感じに。


 長い金髪をストレートに背中まで流し、細やかな金装飾の髪飾りで飾る。南国の海か、宝石のそれを思わせる、澄んだ青緑の瞳をきらめかせて。トリコロールの配色のいかにもな衣装。赤いマントにパニエでふんわり広がったミニスカート。


 白銀の刃を陽光に輝かせて、豪奢な長剣を掲げ、高らかに叫ぶ。


「アタシの事も忘れないでよ! 勇者マリーシアちゃん、参上!」


 屠 龍 の 勇 者(ドラゴンバスター)

      マ リ ー シ ア(最高レベルの女)

               登 場 !!


 え。


 えっ、え・・?


 おやっさん、なんだかキャラ違わない?


 あれ?



 俺が友人の変化に戸惑っていると、周りの一般兵士がマリーを指差しては口々に叫ぶ。


「屠龍の勇者(ドラゴンバスター)だ!」

「あれが"魔剣ヴァーサス"か!」


「すげぇ、激レアの完全遮断魔術《インビジブル・シールド》をパ(・)ン(・)チ(・)ラ(・)し(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)なんかに使ってるってホントだったんだ!」

「ほんとだ、この位置関係でミニスカなのに全然見えねぇッ!」


「そこ、うっさい!!」


 きりりとしていたマリーがとたんに顔を赤らめて、スカートを押さえて怒鳴る。

 あ、やっぱりいつものおやっさんかもしれない。

 


「し、"白羽根"だと・・・何故だ!! 何の利があって!? 何の因果で介入する!? アンタ達には関係ないはずだ!!」


 流石に、というか。あのガヴリエルが。

 完全に取り乱して、叫ぶ。


 カラン。

 と下駄というか高草履とでも言おうか、ヴィアーネの履物が乾いた音をたてて。


 すう、と。彼女――ヴィアーネが目を細める。


 極道か何かなんじゃないかって程、それは相手を射殺すような冷たさで。


「何の・・・"因果"・・・だぁ?」


 呟く様にそこまで吐き出し、そして片目を見開き、口の端を吊り上げる。



「テメェ・・・よくもウチの可愛い"新人候補"をォォ! いちびり倒してくれたのォ!? あ゛ぁ゛ぁ゛っ!?」



 姐さん、怖いです。

 


挿絵(By みてみん)

 カラン。

 と下駄というか高草履とでも言おうか、ヴィアーネの履物が乾いた音をたてて。


 すう、と。彼女――ヴィアーネが目を細める――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。