第87回 「生真面目男と女の打算」
「痛てて・・・ていうか痛みはないんだけどサ」
時間は経過して金曜の夕方。
俺は仲間と共に、祭事式典公園に帰還する。
「最後のはちょっと無茶したな。 ユージン、お前、こんなとこでキャラ死亡とかンなってみろよ、色んなトコから非難轟々だぜ」
「まぁ、最大限フォローはするけどね。究極自分の身は自分でってやつよ?」
「ああ、ありがとう二人とも」
基地の敷地内に入るなり、俺はどっと疲れが出て、地べたにどっかりと腰を下ろしてしまう。
そんな俺を揶揄う様に覗き込む、二人。
一人は撤退戦で一緒だった弓手の女性アシュリー。短い赤い髪を雑にひっつめた髪型の、俺の知る女性キャラクターの中ではやや背の高い方。顔の造形は良いのだが、化粧っ気というか、お洒落感の無さはマイナスレベルで無頓着なのが色々惜しい。
もう一人は集会でジャンローゼと決闘していた、あのガーヴェン。緑色の男としてはやや長髪の癖のない髪。それをヘアバンドで邪魔にならないように上げている。"薔薇"では一般的な儀礼騎士服に例の赤白のマント。背格好は俺と大差ない。
何故、俺が彼らとこんな会話を交わしているかというと、話は2日前の制圧作戦の夜に戻る。
◇◆◇◆◇
「レベル上げがしたい?」
制圧点再占領作戦からの帰路で、俺はジャンローゼに提案していた。
小声で聞き返すジャンローゼに、俺は再度繰り返す。
「そうです。今、この戦時状況で、基地からそう離れずにモンスターを狩ってキャラクターレベルを上げられる場所。近くにありませんか?」
「有るには有るが、どういう意図だい?」
「ジャンさん、俺は弱い」
「うん、そうだね」
くっそ。爽やかにそう返されて、一瞬言葉に詰まるが、こんな嫌味一つで挫けていられない。
俺は。
「このTWOで数値外の技量、つまりプレイヤースキルが大きくものを言うのは、此処までに実感しました。でも俺はどうやら"へたくそ"らしくて」
「せめて数値上だけでも強くなろうって?」
「はい。俺はアイツを守りたい。でもアイツより弱い俺が、ただ言葉の上だけで"守る"ったって自己満足にしかならない」
「ふむ」
試すような。そして誘う様なジャンローゼの微笑。
「そういうの、嫌なんです。俺はせめて、アイツに"約束"したことに嘘をつきたくない」
「そうか。そうだな、そうしてくれた方がオレたちもやり易いかもね。人を割いてもいい」
俺の言に、どういうわけか納得しすぎるほどにお納得したような顔の、ジャンローゼ。まるでそう言うの、待ってました。みたいな。
「プランを立てよう。明日からでもサポートを付けるから、狩りに出る時間を設けよう。あとは──そうだな、オレや、リカードがデュエルモードで対人戦闘の手ほどきをしよう」
これ、わかりやすい。
ジャンローゼ・ヴァルカという男はきっと俺とは比べ物にならないくらい判断力に優れた人物なんだろう。だが演技はわかりやすい。ワザとなのかもしれないが。
あとは──そうだな、だって?
あんた、それ最初から決まってただろう。で、俺が気を悪くしないように"悩むふり"というか今突発的に言われたことに対して"思案するふり"をするわけだ。
今の話だって、そもそも"俺から提案してくるまで"待ってたんだろう?
つくづく敵わないな。
だが向けられたのが善意だというのはわかる。多分に侮られているという部分に、今は憤りを覚えているような立場ではない。
苦笑、して。
「お願いします」
そう返した。
◇◆◇◆◇
で、今に至る、と。
ジャンローゼが俺に同伴させてくれたのはこの弓手のアシュリーと、緑髪の騎士ガーヴェン。
アシュリーの採用は、レベリング中の俺が危険に晒された場合の保険として、戦闘班長格の遠距離攻撃屋を同伴させることで即時対応しやすく。という事の様だ。彼女は代表であるジャンローゼから"アーシュ"の愛称で呼ばれることからわかる様に、その腕に信頼を置かれている。
一方でガーヴェン。彼は歳から背格好からレベルから、同じというわけにはいかないものの、この薔薇十字において限りなく俺に近い。打ち解けやすい、という思惑だろう。実際この二日間で軽口をたたき合う仲にはなれた。
そんなレベリング・パーティのキャラクターレベルは以下の通り。
大弓の射手アシュリー。レベル40
茨の騎士剣ガーヴェン。レベル33
そして俺、黒の見習い剣士ユージン。レベル24
心苦しい事だが、この二日間でこの二人がしてくれたことは所謂"パワーレベリング"にも等しい。
おかげで俺のキャラクターレベルはユリシャ到着時に21だったものが、あれよという間に24である。
ガーヴェンがつい、といった体で溢すが、"30以下はサクサク上がって楽しーよなァ"とかなんとか。なるほど、ずっと同伴していたにもかかわらず、彼は1レベルも上がっていないし、アシュリーに至っては"この辺のモブだとアタシは経験値ほぼもらえないねー"などと、笑っていた。
俺はもう、この二人にも頭が上がらない。
「なぁ、二人とも」
俺は公園基地の地面にへたり込んだまま、二人を見上げた。
「なぁにー?」
「なんだよ改まって」
目線を合わせる様に、二人は俺の周りに腰を落ち着ける。
ガーヴェンがドカリと胡坐をかき、アシュリーも傍に寄って腰を下ろす。
正直こういうのもいいな。なんて思ってしまってる俺が居て。
「俺、さ。この旅が終わったら、個人的にまたここに来るよ。世話になったし、その借りを返すのもそうだけど、もっと・・・その、仲良くなれそうな気がしてさ」
二人は無言でニコニコしながら俺を小突いた。
ところで。
アシュリーの衣装は袖の短い前合わせの服で、くノ一の着物みたいと言うか、半袖のミニ浴衣みたいなものだ。裾は短く、そんな格好で膝を立てて座りながら、ラフに動いてじゃれついてくるわけだが。
てっきり俺はその衣装の裾からはみ出さないような短パンみたいなズボンを穿いているとばかり思っていたのだが、どうやらそうでないらしく。
チラ見えする白いものに、俺が思わず眼を逸らすと、アシュリーは腹を抱えて笑い出す。
「いやもう、話には聞いちゃいたけどウブよねー!」
「さすがに、オレはもうアシュリーさんのに特別感は感じないなァ」
隣でぼやくガーヴェンに強烈なツッコミが入る中、俺は聞き捨てならない一文に硬直していた。
「は──なしには聞いていた・・・だって?」
「おまっ! がーべんあたしのぱんつじゃコーフンしないと申すかっ! こやつめ!」
「アシュリー姐さんは見せすぎなんですよ! もうちょっと色気のある下着の一つも買ってから──ぐぇ!」
茶番を繰り広げ始めた二人に割って入って、確かめなければならないことを単刀直入に質問する。
「その話、何方から聞いたかによっては俺は、ジャンさんをもう一発ぶん殴りに行かないといけないんですが・・・」
静かな怒りに燃えながら、顔に笑顔を張り付けて、問う。
はたと気が付いたようにアシュリーがこちらを見て
「ん? ああ、本人よ本人。 カ──っとっと教えないんだったわね。おさげの魔術師の娘とは結構仲いいのよ」
「ユージン、お前、アイツにも見せられそうになって目ぇ背けたんだって? ばっかだなァ。眼福眼福♪とか言って拝んで置けばいいものを」
「アンタはも~ちょっと遠慮しなさいよ! 可愛くないわね!」
カ──っとっと。
アシュリーが言いかけたその名前に、反射的に耳をそばだてている自分が居た。
ああくそ、知ろうとするな。
でも、彼女が俺のことを、"女心もわかってないガキ"だとこき下ろしたとて。
それを彼女が周囲に愚痴るようなことが有ったとして。
俺はそれを甘んじて受け入れなければならないんだろう。
「そう・・ですか。まぁ、あの娘が言うなら──」
「仕方がないって? あのねぇ、キミ。"やさしさ"だけで全部調和がとれるって程、女の子って単純でもないわよ?」
「う──いや、しかしですね」
だからってどうすりゃいいかも分からなくて、言葉に詰まる。
「・・・・・」
「・・・・」
いよいよ困り果てる俺を、アシュリーはじっと見据える。
そして何を思ったのか
ぴょ。
軽々しく。本当に、何でもない些細な冗談だとでもいうように、着物の裾を持ち上げてみせる。
そして再びチラ見えする白い何か。
「──ちょ、まッ! 何考えてんすか!」
見てはならないものが視界に入ったとばかりに、高速で振り向いて顔を背ける俺。
「あーもう、調子狂うわね! 何よその反応! 男にそんなに恥ずかしがられるとこっちまで恥ずかしくなってくるわ!」
恐る恐る視線を戻すと、赤面しながら着物の裾を引っ張るアシュリー。
「そ、それが普通じゃないんですか!? 俺の思うありふれた貞操観念ってやつで! あの、正直目のやり場に困るっていうかァ!?」
「あー、何かレアなもん見たなァ。恥ずかしがるアシュリー姐さんとかちょっとグッときますな」
「がーべん、煩い!」
あ、ガーヴェンの顔面に鋭い拳がっ
こほん、と咳払い。
まだ少し顔を赤らめながら、然し先程よりは落ち着いた態度で、アシュリー。
「んーまぁ、でも、よくわかったわ。 ユージン、貴男ちょっと生真面目過ぎる」
そんなこと言われても。
と、俺としては答えに窮することしかできないのだが、なるほど、やはりこれが"女の子"という奴か。何もあのおさげの少女が特別というわけでもない、女性にとってよくある反応らしい。
「んー、多分それアンタにとってただの"誠実さ"なんでしょうね。でも大抵の人間ってのはもっと打算的なのよ」
「打算的?」
「"この子は可愛いから"助けよう、とか。わざわざ助けてくれるなんて"私に気が有るのかしら"。なんてところでちゃんと思惑が合致するわけよ」
「はぁ」
「だからあんたみたいな、特に好きってわけじゃないけど、"仲間は身を挺して助けるもの!"みたいに行動できちゃう男が居ると、周りの女の子は戸惑っちゃうわけ」
やはり、といえばやはり。
魔術師の少女に言われて感じた通り、ということか。
信じられない話だが、俺のやっている"普通"とは気もない相手を悪戯に口説いて回っているようなものだ、と。
にわかに信じがたい。
これでも彼女いない歴=年齢を絶賛更新中なんだぞ?
何だよ其れ。
なんだよ・・・それ。




