第78回 「ふ、か、こ、う、りょ、く、で、す」
バイトを早上がりし、22時にはアパートの部屋に戻っていた。いやしかし。しかし、だ。
なんと さいとう は TWO を はじめていた!
まじか。
もちろん斎藤とはゲーマー仲間だ。これまでにも同じゲームで遊んだことも、一度や二度ではない。
しかしながら、自分のリアルを知っている人間に、俺がマナと連れ立っているところを見られるという可能性に、身震いするような羞恥を覚えかけ。
──直後、眼前の男にすべてぶっちゃけた後だと思い出し、安堵だか諦念だかよくわからない感覚になって、何かへんてこなジェスチャーをして、斎藤に不審がられた。
まぁそれはいいとして、だ。
必然、"じゃあゲーム内で会おうぜ"って話にもなったのだが、いかんせん俺とマナは長距離旅行中だ。事情が事情だけに、おいそれと戻るわけにもいかない。
結局、斎藤とは旅が終わるだろう1~2週間後の見積もりで、会う約束をして、その場は解散となった。
まぁそれはいいんだ。一先ず置いておこう。
早上がりまでして、急いで帰ってきたのには理由がある。
俺は携帯端末の画面・・・バイトの間も手が空けば何度も見返してしまったそれを、もう一度覗き込む。
SNS-Message
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マナ
(えっと。たぶん、アルバイト中に
ごめんなさい。)
マナ
(今日、TWOで、少しでも会えま
せんか? 僕の方も、0時くらい
までなら居られます。)
マナ
(よかったらお返事ください(>_<))
ユージン
(了解! なるべく急いで帰るよ!
遅くとも11時にはそっちに行くか
ら、待っててくれ。)
マナ
(ありがとう!(>_<) でも
事故とか気を付けてね?)
ユージン
(お母さんかッ!www)
マナ
(もうっ・・・(=3=)
でも、嬉しいです。
向こうで、待ってますね。)
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と、まぁこんなやり取りである。
ん? で、ホイホイ早上がりでバイトを切り上げてまで、急いで帰ってきちゃうのかって?
まぁ、なんだ。絆されてんなァとは、自分でも思う。
アイツが。
マナが自分を求めてくれるのが。
嬉しいんだ。
──Login
しかしながらだ。
昨夜ログアウト・・というか、寝落ちしたのと同じ天幕の中で、すぐにも祭事式典公園中を探し回ってマナに会いに行きたい、とか思っていながら。
それでも気が付いてしまう。
視界の端に明滅する、メールマークだ。
嗚呼。
嗚呼、そうだな。
今回はばっちり自覚がある。
俺は、メールの差出相手が、文面から飛び出して、俺を叱りつけるような想像をしながら、恐る恐るゲーム内のメールボックスをタップする。
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From:ヴィアーネ・サルタリク
To :ユージン
件名 :おばキング!(ノД`)・゜・。
本文 :おばかっ
おばカー
おばケスト
おばキング!(^_^メ)
見たわよ!昨日のTWO-PvP-today!
何やらかしてくれてんの!?
アンタ達絶対平穏に旅行する気なんてないでしょ!?
ああもう!しばらくは絶対そこを動かないで!
"薔薇"に恩を売ったなら、あの子に任せておけば余程のことは
大丈夫だから!
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From:ケンちゃん
To :ユージン
件名 :今回ばかりは
本文 :フォローが難しい。
既に姐さんからいろいろ言われてると思うけど
黙っていうことを聞いてくれ。
TWO-PvP-todayで中心区開戦については
だいたい把握してる。
今、祭事式典公園基地に居るなら、なるべくそこから出るな。
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あーうん。
予想はしてた。
俺は冷や汗をかきながら、メールに返信を打つ。
ふ、か、こ、う、りょ、く、で、すっと。
今回の状況をマナの所為にするつもりはないが、回避困難であったこともわかってほしい。お願いだから。
しかしやはりと言えばやはり、ヴァルハラ勢の初心者支援組は相当な実力者らしい。なにしろ"あの"ジャンローゼを"あの子"呼ばわりだ。
世の中とんでもない化け物ばかりか・・・。
とりあえず今日のログアウト後は"TWO-PvP-today"なるキーワードで検索するところからだと固く心に決め、ひとまず天幕を出る。
マナが公園内のどこにいるかわからないが、公園の外に出ているという事はないだろう。なんとなくで目星をつけて、昨日集会の有った広場へと向かう。
「あ、"英雄君"こんばんはー!なぁに?今ログインなの?」
「いや、バイトしてて・・・」
「"お姫様"なら集会場の医療テントに居たよー」
「ありがとうございます!」
道行く薔薇十字のメンバーに挨拶しながら、そんな情報を得てゆく。
件の"医療テント"はさながら野戦病院の様に慌ただしかった。
魔術師と思しき女性が狭い通路に両手魔杖を引っ掛けそうになりながらかけてゆく。精神値の枯渇で昏倒しそうになった同僚を支えながら、スピリットポーションを口に突っ込んでいる者がいたり。端の方では調合師?とでもいうんだろうか。薬研で、何かをゴリゴリやり続ける端から、出来上がったものを回収される。
「麻痺緩和剤はしばらくいいよ!解毒剤のが緊急度が高い!そっち重点的にお願い!」
「おい、"過度出血"だ。優先してやってくれないか!」
「魔術師さんとこに行って!」
「解毒剤足りないよ! 停滞剤でもいいんだ。このままじゃ持たない!」
「いったんこれで凌いで!」
「普通回復剤かよ!毒を治さなきゃ根本解決に──」
「延命してて!死ぬ前に治療師がいくから!」
うへぇ・・なんだか場違いな感がある。
マナを見つけたとして、連れ出したら怒られそうな気がするな。
「うっ・・・・」
俺が入り口でマナを探しながら棒立ちしていると、順番待ちしていたと思しき負傷者が、此方へ倒れ掛かってくる。
受け止め、まず支えながら茣蓙の上に座らせる。パニックにならなかったのは僥倖だ。ベルトポーチからヒールポーションを引き抜いて、そいつに持たせる。
「おい、飲めるか?」
「す、すまん・・」
こういう時、経口回復液は不安定だ。被回復対象が自力で服薬するだけの余力を残していない場合、回復不能だからだ。
緩慢な手つきでポーションを受け取った騎士は、中身を一気に煽る。
少しだけ顔色が戻るものの、よく見ると腹部に血だまりがあって、出血状態であるとわかる。
「まずいな・・・だれか手の空いた人は・・・」
見渡すものの、余裕のある顔をしたものなど誰一人としていない。
何とかしてやりたいが・・・。
俺は意を決して、インベントリから、止血帯アイテムを取り出す。フリーモーションモードで捲ければ早いが、俺にそんな器用さはない。
無難さ・・というか今は確実さを求めて、止血帯を手に持ちながら、眼前の騎士を使用対象指定する。
眼前に薄緑に発光する目標指定枠が表示され、中心に同じ色の文字で、成功率23%・・・と表示される。我ながら絶望的な数字だが・・・。
「う・・・くそ・・」
目の前で呻く騎士をそのままにしておくのは、どうにも忍びない。
俺は少しだけ迷いながら、アイテム使用の決定ボタンを押す。
俺のアバターの手がオートで動き、おぼつかない手つきで止血操作を行う。
やがて騎士の腹部に止血帯が捲かれ、行動の成否判定が表示されるのだが・・・。
「半成功?」
表示された説明を詳しく読んでいくと、"最大効率未満で効果適用されました"とある。つまりだ。
「少しは意味があったってことか・・・?」
見ると、呻いていた騎士が、腹部を抑えながら体を起こす。
「お、おい動かないほうが──」
「いや、おかげで"軽度出血"になった。あとは自分で魔術師を探すよ。助かった」
息を荒げながらも、口の端を吊り上げて見せる騎士に、少しだけほっとする。
なるほど"半成功"ね。
出血状態には時間当たりの生命値へのダメージ度別に段階があり、それぞれ"過度出血" "出血" "軽度出血"とあるようだ。
つまり、止血帯アイテムの本来の効果は"出血"の状態異常を完全に回復するものだが、その効果が一部だけ適用され、完治しないまでも軽度のものへと移行したらしい。
まぁ、完全失敗でなかっただけ僥倖、といったところだろう。
そこへ、魔術師らしい女性が割って入る。
「状態維持ありがとうございます。あとはこっちで引き継ぎます」
そう言って魔杖でテントの柱を叩き、聞き覚えのある魔術起動言語を呟く女性はどう見ても顔見知り。
「我が魔王に捧ぐ」
「え、マ、マナ・・?」
「え? わっ! ユ、ユージン!?」




